新型コロナ: 信者ビジネスと科学

蚊取り線香は効きませんね。相変わらず起きたまま寝言を書いている不思議な人がいますが、寝不足極まりないようですから、しっかり永眠を取るとよいでしょう。ああいう意味不明な愚痴は、何らかの経済的ダメージを受けているための八つ当たりなんだろうという気もしますが、ここまでバカだと、そのダメージはそもそもバカだから生じているのではないかという推測すらできてしまいます。

閑話休題

■新型コロナは“ただの風邪”か
そうあってほしいと願う人がいるのは分かりますが、もはや世界中のほとんどの科学者や為政者は、そうは思っていません。ノーガード戦法だったスウェーデンを含め、寒くなって感染者が増加しはじめた欧米では再規制に踏み切っています。現在の日本での死者が欧米に比べて少なく済んでいるのは、早くから対策したり、新しい生活様式を人々が守ってきたりして、相対的には感染対策が成功してきたからです。冬を迎えた北半球の先進国では、どこも感染者増からは逃れられていません。

日本以上に抑え込みに成功している国はありますが、そうした国では罰則付きの規制によって強く抑え込んでいたり、人口密度や高齢者率が低いといった感染が広がりにくかったという条件がありました。日本では、中国や韓国、台湾の成功を真似するために、より厳しく私権を制限しようという動きはありません。だから「これが精いっぱい」でもあります。

かつて、「新型コロナ: 「インフルエンザでも人は死ぬ」との比較」へのコメントで、宮沢孝幸氏の記事をもとに「新型コロナはただの風邪になる」と解釈し、突っかかってきた人がいました。宮沢氏はツイッターで情報発信されていたのでそのことを伝えたところ、以下のようにツイートされました(ツイート1ツイート2)。

今の現実をよく見てください。なぜ楽観的になれますか?普通に考えれば、とんでも無いことになるってわかると思うのですが。よく私に、今、決断すべきですかと質問されますが、私には判断する権限はない。でも、普通に考えたら決断するでしょう。このままだとあっという間に医療崩壊だと思います。

私は政治的発言はできません。一応公僕でありますし。お察しください。また、このツイートは私の個人的な見解です。研究においても、私の仮説は大抵外れます。私は自分の考えることを発信しますが、私を信じることも危険です。

直接発言を修正されたわけではないものの、ただの風邪だという認識が誤りであることは明確です。現在、死者数÷感染者数で求められる致死率は、ほとんどの先進国で1%以上となっており、かつて医学誌ランセットが「インフルと同じと考えてはいけない」と言及していたときの推測値0.66%を下回ってはいません。

こうした事実が明らかになっている状況で、「インフルと新型コロナは同じではない」と主張してきた私が、わざわざごく少数のバカが主張する意見に傾くわけがありません。そろそろ、いくら言ってもムダだということを理解してほしいものですが、そう訴えてもムダなのでしょうね。

■歌舞伎町のホストクラブで集団免疫は成立しているか
その宮沢氏は、その後も科学的にデタラメな発言を続けていました。最近では東京や大阪では11月下旬にピークアウトしてる、ほとんどの感染対策は過剰、といった記事がありました。そして、次のようなツイートがありました。

歌舞伎町のホストクラブでは今はまったく感染者は出ていません。それは観察結果です。目玉焼きモデルはそれを支持します。決してホストクラブが静かになったわけではないです。ホストクラブ内で集団免疫が成立しているのだと思います。

感染者が確認されないのは集団免疫が成立しているから、というのはいかにも安直な推測です。正確な数は分かりませんが、検索すると歌舞伎町だけで300程度のホストクラブがあるようです。たしかに報道されてくる例はあまり多くなく、検索してもとあるホストクラブで50人中28人がPCR検査で陽性だったという報道がある程度でした。

しかし、これはあくまで一例であり、本当に300ものホストクラブで集団免疫が成立するほど感染が進んでいたなら、そこに出入りする客にも感染が広がっていくはずですし、クラスターが大量に発生して感染者数はずっと多いはずです。いくらなんでもおかしくありませんか?という主旨の質問をしてみました。そもそも“夜の店”はホストクラブだけではありません。都内には7000くらいのキャバクラがあるそうですが、そちらからもとくに目だった報道はありません。そこでも集団免疫が成立しているというのでしょうか、という質問につなげたかったのですが、何の回答もいただけないままブロックされてしまいました。

ふと気が付くと前述した「ただの風邪」に対してお答えいただいたツイートも削除されていました。「間違っていた」と認めるようなツイートが残っていてはマズいということなのでしょう。

■GOTOは感染を広げたか
私もすべての予想が当たったわけではありません。緊急事態宣言の終了直後から感染者が増え始めていたので、感染の抑え込みもせずにGOTOキャンペーンなんて始めたら、感染者が急増するのではないかと心配したものです。新規感染者数は7月22日の開始直後(東京以外)には若干増加傾向でしたが、その後減り続け、少なくとも11月に入って寒くなるまでの3カ月間は一定の範囲で持ちこたえていました。「GOTOのせいで感染が増えた」というなら、開始2週間後くらいから新規感染者が急増していてもおかしくありませんが、そうはなりませんでした。

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日本

もちろん、旅行などが活発になり移動や接触の機会が増えれば、それだけ感染の確率が上がることになりますから無縁ではないでしょうが、「新しい生活様式」が功を奏していたのでしょう。冬になって感染者が増加する理由としては、寒くて窓を開けずに換気が悪くなる、乾燥して飛沫が小さくなれば簡単には落ちずに浮遊しやすくなるといった理由が挙げられています。これは世界的な傾向であって、日本固有のものではありません

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ドイツ

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イギリス

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スウェーデン

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韓国

もちろん季節的な感染者増の理由がある以上、夏に比べて厳しい感染対策が必要なことは言うまでもありません。かねて述べている通り、新型コロナは“ただの風邪”ではないからです。そして問題は医療体制です。各自治体が色々な工夫をして対応しており、自衛隊に協力を求めているところもあるくらいですが、そうした工夫や自治体ぐるみでの対応が必要な時点で“平常”ではありません。

また、前述の宮沢氏は「11月でピークアウトしたから自粛は要らない」と言っていましたが、そもそもピークアウト(実効再生産数が1未満になる)ことだけが重要なのではなく、医療が対応できるまで十分に新規感染者を減らす必要があります。そもそも対症療法しかない現時点では、いくら工夫してキャパシティを増やしたところで、感染リスクや感染後の後遺症や致死リスクをなくせるわけではありません。だから感染を抑え込む必要があるのです。

注意してほしいのは、日本も含め多くの先進国では過剰な自粛や規制はしていないということです。どの国も経済を動かさなければなりません。だから医療の限界まで引っ張った上で、医療崩壊しないように自粛や規制を始めるのです。経済を動かせる上限は医療サービスの限界までだと言ってもよいくらいです。そして感染が大きく広がっている欧米では、日本よりはるかに強く規制されているのが実情です。

現在、日本では欧米に比べてはるかに良好な医療サービスが提供されますが、そのために医者は過重労働を強いられています。欧米に比べて感染者数が少ないのに医療崩壊なんて言うのはおかしいという識者がいますが、だったら欧米並みに医療従事者の報酬を引き上げ、医療サービスのレベルを下げる決断をしなければなりません。ただし、そんな方向性を示す政治家・政党が国民に支持されるかどうか、私は疑問です。


■インフルエンザと新型コロナ
以前にも示しましたが、新型コロナに対する感染対策は、インフルエンザに対しても有効です。これだけ厳しい対策をしているので、今年はほとんどインフル患者が発生していません。そして、そんな状況であるにもかかわらず2~3桁多い新型コロナの患者が発生しています。それだけ感染が広がりやすいのです。

インフルエンザ 新型コロナ
2019年 2020年 2020年
~9/6 3813 3 4155
~9/13 5738 4 3799
~9/20 5716 4 3439
~9/27 4543 7 3033
~10/4 4889 7 3649
~10/11 4421 17 3573
~10/18 3550 20 3744
~10/25 3953 30 3878
~11/1 4682 32 4612
~11/8 5084 24 5940
~11/15 9107 23 9591
~11/22 15390 46 13502
~11/29 27393 46 14474

新型コロナは、必ずしも感染力が強い(基本再生産数が高い)とは言われていません。しかし、「発症前から感染性がある(45%は発症前の感染者から感染している)」「発症前はPCR検査で陽性になりにくい」といった研究がなされているとおり、発症した人が引きこもっているだけでは感染を抑え込めないのです。これが症状のない人もマスクをしたり、3密を避けたりといった「新しい生活様式」が必要とされている理由です。“ただの風邪”扱いしたアメリカで、どれだけ感染者が増えているかを見れば、感染対策の重要性は明らかです。

■信者ビジネスと科学
前述した通り「専門家がただの風邪と言っている」と、あたかも素人のこちらが間違っているかのようなコメントが書かれたわけですが、セオドア・カジンスキーの例を挙げるまでもなく、まともな肩書きがある人がすべてまともなことを言うとは限りません。頭がおかしくなっているか、嘘をついている可能性がいくらでもあります。宮沢氏は聞いてくれる人だけ聞いてくれればいいとツイートしていますから、アクセス数が稼げればよいのかもしれません。宮沢氏が、なぜ間違いを認めたツイートを削除したのか、考えてみるといいでしょう。

なぜ科学的に間違った発言をする人を信じる人たちがいるかというと、自分にとって都合が悪い“事実”に向き合うことができないからです。「自分の置かれている状況が悪いのは、他の誰かが悪いためだ。もっと良くすることができるのにやってないから私は被害者だ」という意識を後押ししてくれる“専門家”は心の支えになるでしょう。科学的な議論とは“事実”に向き合うことからはじまりますが、そのためにはやりたくないが「やるべきこと」、あるいはやりたいけど「やってはいけないこと」と向き合わねばなりません。それを嫌がる気持ちを「肩書きを持つ専門家」が後押ししてくれるなら、こんなに気持ちのいいことはありません。しかし、事実に向き合えなければ、それはもはや宗教です。だから、事実をもって叩かれるのです。

私は、必ずしもどの宗教を信じるかを妨げようとは思いません。日本には信仰の自由があります。しかし、事実に基づかない宗教は、誰か別の人に強制することはできませんし、社会に影響することにでもなったら害悪です。残念ながら、そういう専門家に煽られている自治体もあるのですが、糖尿病だった当時7歳の子供がインスリンの投与をやめてしまい死亡した事件のように、事実に向き合えない信者は、より厳しい事実に直面することになるだけです。

ここでは信者を募集していませんし、他の信者がここに来て説得しようとしてもムダなのは、すべてが事実をベースにしているためです。

■集団免疫とスウェーデン
スウェーデンの感染対策リーダーであるテグネル氏がストックホルムで集団免疫を獲得しつつあると発表したのは4月です。実際には、それ以降も感染者数は増え続けましたが、それでもしばらくは落ち着いたものでした。ところが、冬が近づくにつれ、ふたたび感染者の急増を招いています。前述の通り、そのせいで8人を超える集会を禁じるなど、日本以上に厳しい自粛が求められています

ストックホルムは集団免疫が成立しているので、それ以外の地域で増えている」というわけではありません。最新のレポートによれば、圧倒的に感染者数が多いのはストックホルムです(p.11)。しかも、週ごとに悪化している検査陽性率が全国で13.3%であるのに対し(p.20)、ストックホルムでは21.3%となっています。どうみても検査が追い付いていない状況です。集団免疫など全然成立していないのです

では、経済面はどうでしょうか。同じ北欧のノルウェーフィンランドでは、スウェーデンに比べて人口当たりの死者数が1桁少なく済んでいます。そして、文春の記事には「国際通貨基金によれば今年の経済成長率の見通しは、スウェーデンがマイナス4.7%で、ノルウェー(マイナス2.8%)やフィンランド(マイナス4%)を下回るという」とあります。

何度も書いてきたことですが「感染か経済か」ではありません。「感染を抑え込んでこそ、経済が動かせる」のです。感染者や死者の増加を受け入れたところで、経済が元通りになるわけではないのです。中国や韓国、そして日本も、欧米のような厳しい再規制に踏み込むことなく経済を動かしています。それは欧米ほどには感染を広がらないうちに抑え込んだためです。冬になって感染が広がりやすくなり、より厳しい生活様式が求められているのはしかたがありません。暖かくなれば、もう少し緩めてもよくなるはずです。今は、医療の限界を超えないように抑え気味に生活するしかないのです。

トランプ大統領アメリ
事実に向き合えない人たちがせいぜい地方自治体にとどまっている日本と違い、大変なのがアメリカです。大統領選挙では証拠も示さず不正を訴え、ことごとく裁判所に退けられているトランプ大統領ですが、極めつけはこの発言でしょう。

Trump attacked Biden by saying his opponent would 'listen to the scientists' in dealing with COVID-19"(トランプは、対抗するバイデンを「彼は科学者に耳を傾けるぞ」といって攻撃した

自分の支持者に向かって「科学者の話を聞くヤツなんかを大統領にしていいのか」と言っているわけです。なお、バイデン氏は「Yes」とだけ答えています。

もともとトランプ大統領は新型コロナを軽視していました。3月9日には、このようにツイートしています。

So last year 37,000 Americans died from the common Flu. It averages between 27,000 and 70,000 per year. Nothing is shut down, life & the economy go on. At this moment there are 546 confirmed cases of CoronaVirus, with 22 deaths. Think about that!

(昨年、普通の風邪で37000人のアメリカ人が亡くなりました。平均すれば年に27000~70000人ですが、何もシャットダウンせず、生活や経済は動いています。現在、コロナウイルスの感染者は546人で、死者は22人です。それを考えてみてください。)

仕方がない面はあります。何しろ2月下旬まで米CDCが配っていた検査キットは欠陥品だったので、感染者を正しく把握できていなかったからです。3月末には「死者数は「150万~220万人」、対策を取った場合でも「10万~24万人」が死亡する」と発表され、方針が転換されました。

ところが、トランプ大統領は1カ月も経たないうちに予測を下方修正して、「6万人から6万5000人になるという見通しを示し」ました。この時点で4.3万人が亡くなっていたのにです。ちなみに4月末には6万人を超えていました。

選挙前の最後の討論会(10月24日)の記録があります。「第2回テレビ討論 トランプ、バイデン両候補 最後の直接対決

新型コロナウイルスで220万人が亡くなるとも言われていたが、われわれは世界最大の経済大国を閉鎖して中国から来た恐ろしいウイルスと闘ってきた。新型ウイルスは世界的なパンデミックだ。アメリカでもフロリダ州テキサス州で感染者が急増したが、今は過ぎ去った。ワクチンもまもなくだ。数週間以内に発表されるだろう

220万人が亡くなるという予測は、トランプ大統領が死者数を下方修正する前の話です。220万人が亡くなると思わなくなったから経済を再開させたのではないのでしょうか。トランプ大統領は数十万人にも及ぶ死者数に対しても、「220万人よりマシになったんだ」と主張していますが、本当に220万人が亡くなると思っていたのなら、なぜ経済を再開させたのでしょうか。もっともバイデン氏は、まったくそうしたことに触れていなかったのもイマイチでした。

そもそもフロリダ州テキサス州での感染者の増加は過ぎ去っていませんトランプ大統領は、もはや選挙結果にイチャモンをつけたり、できる限りの悪態をついたりしているだけで、自身の行動には何の反省もないようです。さすが「科学者に耳を傾けない」大統領です。ここからどのように対策を取るにしても、バイデン次期大統領は苦労しそうです。

■報道風ワイドショー
完全に余談ですが、テレビが根拠なく恐怖を煽った話まで、こちらに向けてくるとはお門違いも甚だしいです。日本は検査が足りないから感染が広がるのだとか、精度の低い、偏った抗体検査の結果で、感染実態は確認された感染者数より桁違いに多いだのと煽っていた報道風ワイドショーやそこに出ていた自称専門家の人たちは、大量の検査をもってしても社会の再規制に至るほど感染を広げてしまった欧米や、厚生労働省の無作為抽出による抗体検査でごくわずかな陽性者しか見つけられなかった事実と向き合えているのでしょうか。

もはや確認すらしなくなってしまったので、知ったことではないですが、今なお恥ずかしくもなく放送を続けたり、メディアで見かけたりしていることを思うと、反省しているようすはまったく見られません。私は、それを批判することはあっても、彼らの報道責任は彼らにあるのであって、一緒くたに批判を受けるいわれはありません

※2020/12/10追記。
本文を読めない人が相変わらずバカなことを書いていますが、スウェーデンと近隣国の比較を挙げた通り「自粛しなかった方が経済ダメージを受けた」例がありますし、そのスウェーデンも今は日本以上の自粛に動いています。実際、「自粛しなければ元通り経済を動かせた」、つまり「自粛を弱めれば/しなければ経済的な理由による自殺者は増加しなかった」という可能性はありません。一方、新型コロナによる死者数は自粛や規制が遅れた先進国(とくに人口密度や高齢者率の近い国)と比較すべきであって、「人口当たりの死者数の差」こそが「早い対策によって減らすことができた人数」です。日本の死者数が少ないことは自粛した結果であって、自粛しなくても少なくて済んだわけではありません。
普通の理解力を持つ人には改めて説明するようなことでもありませんが、念のため。