【ネタバレ注意】なぜ『新聞記者』がダメなのか

重要な注意 以下、映画『新聞記者』と『ウォーター・ホース』(←とばっちり)の結末のネタバレを含みます。また、『ニュースルーム』というドラマからも引用します。

Netflixで配信されたドラマ『新聞記者』が話題だ。Netflixの人気ランキングでも上位にいる。ドラマ版は見る気もしないので見ていないが、倉本圭造氏の書かれた記事によれば一部を除いてだいたい同じような流れになっているようだ。私の論評も、その記事に書かれている通りで、まさしく右翼の「日本国紀」、左翼の「新聞記者」という位置づけがふさわしい。『新聞記者』はフィクションであって史実を銘打っている『日本国紀』とは違うという意見もあるようだが、本当にそうだろうか。とくに左派の人たちは『新聞記者』を“丸ごとフィクション”と受け止めているだろうか



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映画『新聞記者』は、原作者の望月記者が現実世界で展開していた陰謀論があたかも事実であるかのように語られていく。天下りの斡旋で辞任した前川喜平氏がまるで“官僚という暗黒世界に立ち向かった正義漢が反発を食らって追い込まれた”ように描写されているのは、それこそ“お仲間”感いっぱいだ。そして、本筋はいわゆる森友学園問題であり“闇に隠された部分”を証言してくれる人が登場する。そして「証言してくれればすべてが明るみになる」という段階になって、脅迫でもされたのか証言できないことになって事実は闇に葬られる、という結末になっている。

劇中の番組で望月記者らが実名で登場する以外、本作の登場人物は架空のものだし、あくまで「実在の事件にインスピレーションを受けたフィクション」である。本来、それ以外に受け取りようがない。しかし、左派(というよりアンチ安倍派)の皆さんはどうだろう。安倍元首相の闇を証言する人物は本当にいたのにもみ消されてしまったから現実世界で報道できなかった、だから本作もフィクション扱いするしかなかった、あれこそが本当にあった出来事なんだ、と思ってはいないだろうか。そして「そう誤解させること」こそが本作(あるいは原作)の狙いなのではないだろうか

ところで、現実の事件報道を扱った傑作に『ニュースルーム』というドラマがある(以前はアマプラで見放題だったが、現在は有料配信)。当たり前のことだが現実世界で暴かれていないようなことがドラマで暴かれるなんてことはないが、これを見ると報道の基礎が分かるようにもなっている。とくに第2話で「あのスタジオは法廷」(第2話)というセリフは報道のあるべき姿を端的に表しているといってよい。たとえ「訴状が届いていないのでコメントできません」というお決まりの文句しか返ってこないとしても、必ず対抗取材をするのは、裁判で原告と被告の両方から話を聞いてから判断することに似ている。たとえ記者の法的責任を問われても取材源を秘匿したり、違法な取材を禁じるといったこともある。その中には「複数の情報源で確認を取ってから報道する」という決まりがある。単一の情報源に頼るとその情報源に騙されたらオシマイだからである。

話を『新聞記者』に戻す。この「予定していた人が証言できなかったから報道できなくなった」という結末は、いくらフィクションでも報道として失格である。その証言に基づいて、きちんと裏付け取材ができていれば、その証言がなくなったとしても報道はできるはずだからだ。そして、この「裏付けができない」ことは現実の望月記者にも重なってくる

さて、唐突に挙げた映画『ウォーター・ホース』(2008年)は、ネス湖ネッシーを扱った作品だ。これもNetflixで配信されている。この作品の冒頭で「これは本当の物語…」(a True tale it is...)というテロップが表示される。ネッシーなんて、今で言うところの“都市伝説”であって、どんな部分が“本当”なんだろうと思ったが、劇中で登場するおじいさんが「若者にネッシーの話を聞かせる」のが“本当”という部分なのだろう。そこで聞かせた話そのものが本当のわけがないからだ。

その意味で『新聞記者』も記者に「森友学園の闇」を語る人物は本当にいたのかもしれない。だが、その話そのものが“本当”である根拠はどこにもない。あるなら現実に報道されているはずだからだ。そして裏付けという報道の基礎を軽視した本作に日本アカデミー賞は最優秀作品賞を与えてしまったのだ。そんなところで選考にかかわる人たちのリテラシーがこんなレベルなのだ。陰謀論が流行るわけだよ。

【ネタバレ注意】『アイの歌声を聴かせて』監督トーク@シネマシティ

1月5日にシネマシティで「『アイの歌声を聴かせて』の吉浦監督トークショー(3度目)」が開催されました。今回は吉浦監督のみの登壇で、「舞台挨拶も回を重ねてネタ切れしてきたから、質問に答えていこう」という主旨でした。

(岩浪音響監督のオフレコトークに限らず)このところの舞台挨拶は公式レポートもされなくなってきたので、例によって(雑な)メモ書きと記憶をもとに書き起こしてみます。いつもと同様、間違っていたらゴメンナサイ(公式じゃないので“情報源”にしないでください)。

ちなみに私も頑張って手を挙げましたが、aスタほぼ満席状態で当ててもらえませんでした。やはり最前列を取りそこなったのが痛い……と思いましたが、最前列で当ててもらえていたのも最初の1人だけでした。

当然、かなり本筋にかかわる【ネタバレ注意】です。まだ見ていない人は読み進めず、まず映画館で見てください。上映館は少なくなってきましたが、再上映してるところも、ちょこちょこあるみたいですし。



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質問「(複数のキャラが描写される)グループショットの“こつ”を教えてください」
回答「この質問だけで無限に喋れますね。5~6人が画面に入る場合、全員が同じポーズにならないようにしています。また、昔の映画を参考にしています。今回は黒澤明小津安二郎を参考にしました」

質問「トウマがシオンの緊急停止機能を解除したことに、美津子たちが気付かないのはなぜ」
回答「緊急停止機能は、後付けの機能で停止させることはイレギュラー。人的なやりとりが発生して、メンテのことを考えていない。これくらいで勘弁してください」

質問「土屋太鳳さんを声優として起用した経緯と評価について」
回答「バラエティで見ていた土屋太鳳さんの雰囲気が合っていた。ミュージカルにも出ていて歌えるし、音響監督の岩浪さんが関わった『僕だけがいない街』という作品で声優をやっていた。ご本人の努力がすさまじく、土屋さん以外は考えられないというくらいハマリ役になった

質問「シオンのAIは、もともとタマゴッチ型のものが(あちこち移動した後)シオンにもともとあった高校生としてのAIを置き換えることになったのか、それとも融合したのか」
回答「その部分は、これまで濁して答えてきた。自分としては高校生AIと融合したと思っている。高校生AIは消失してはいない」

質問「“シオン”というのは秋に咲く花の名前など色んな意味がある。キャラの名前はどのように決められたのか」
回答「シオンにたくさんの意味があるのは分かっていた。もともとは男の子で“シン”という名前だった。女の子にしたとき、プロデューサーに“シオン”という名前の知り合いがいると聞いた。あとで「アイの物語」(山本弘著)に“詩音”というロボット(※介護アンドロイド)と同名になると気付いて、どうしようかと思ったが、もう“シオン”でなじんでいた。
“トウマ”と“サトミ”は楳図かずおわたしは真悟』から。
“ゴッちゃん”、“アヤ”、“サンダー”は、知り合いの名前

質問「本編に登場するバイク、クルマ、バスについて。クルマやバスは自動運転されているが、細かい部分は設定があるのかどうか(自動運転の仕事をしている人の質問)」
回答「メカデザインの明貴美加さんが細かく設定されているはず。あとでツイートするかもしれません。設定資料集出せって話かもしれませんが(拍手)」

質問「水飲み場のポジション取りについて」
回答「ひとつはムーンプリンセスに似たようなシーンがあって、それを再現している。
あの場所はAパートとBパートで使われていて、最初はシオンとサトミ、2回目はシオンとサトミ、トウマという場面。対比させることで、舞台裏から観察するシオンということを象徴的にあらわしている」

質問「ロードショーが年を越えたことに対する感想」
回答「ありがたいこと。これまでも口コミで広がる映画というのを見てきたけれど、自分で目の当たりにするということを実感している。生きる意味を与えてくれたと言ってもいいくらい。人生のハイライト。
こう感じるのは2回目で、1回目は『イヴの時間』のときにニコニコ動画の字幕だった。今回は生でこれを感じている。
まだ映画を作っていいんだと思える。人生を変えたといってもいい」

質問「エンドロールは『フィール ザ ムーンライト』の方がよかったという意見もあり、私もそう思ったけれど、『You've Got Friends』にした積極的な理由があれば」
回答「実は『フィール ザ ムーンライト』にすることも考えたが、やはり『You've Got Friends』の方がふさわしいと思い直した。私はエンドロールでは席を立たなくて、映画の内容を反芻する時間だと思っている。そのための曲。実は、劇中で歌われているときと速度が違うのでまったく同じものではない」

質問「シオンのAIが飛ばされた後、シオンの体には何かが残っているか」
回答「残っていない。コピーを残さず旅立った。さんざん研究対象にはされただろう。それを率いたのは美津子」

質問「サトミと美津子の関係、両親が離婚したことや、父をどう思っているかなど」
回答「離婚の理由は答えるのが難しい。
サトミは父親が好きだし、父親より美津子の方がホシマの中でいいポジションにいった。
両親が離婚したのは、サトミがそういうことを理解できる年齢になる前の小学生だった。
父も母も悪いわけじゃないと思って、母(美津子)を支えようと朝食を作ったりしている

質問「シオンが3日目にはラボに帰るために誘いを断ったのに、4日目の夜はラボに帰らずに済ませたのはなぜ」
回答「アシモフロボット三原則にあるように、シオンは命令に従うように作られているが、命令に優先度がある。サトミを幸せにすることが最優先。実はゴッちゃんには『学校をサボるのだって高校生の特権だぜ』というセリフがあった。だから“高校生らしさ”には反していない」

質問「それぞれの家族について」
回答「トウマの父親は大泉洋をイケメンにした感じ。子ども思いで、パソコンがごついのは父親のおさがりだから。
アヤの父親(保安部長)は、一番ふけてて年がいってから子どもができた。不器用でコミュニケーションが取れていない。保安部長のくせにパスワードがアヤの誕生日。
ゴッちゃんの母は息子を溺愛しているが、ゴッちゃんはそっけない。
サンダーのお父さんはエンジニアかつガテン系。人に迷惑を掛けたら殴る感じ。
ちょっとした場面だけど、それぞれの背景が描写されるようにしているので、こういうい質問は嬉しい

質問「劇中劇『ムーンプリンセス』について」
回答「プリンセスは、ちょっと王子とイイ感じになるけど重要とは思っていない。シオンよりは男心が分かっているけれど、王子と帝が自分のために競っているとは思っておらず、友達になればいいと思っている」

質問「6月6日(シオンの誕生日)までにblu-rayを発売してください」
回答「それは決められない。今は配信もあるし、段階があるかもしれない。私の一存ではなんともいえないが、twitterで何かするとか、できる範囲で考えます

質問「ハッピーエンドへのこだわりについて」
回答「自分がハッピーエンドが好きなので、ハッピーエンドは貫くつもり。今回は1ミリの迷いもなくハッピーエンドにしようと思った。最後の“ジャン!”もスッキリ終わりたかったから。
人生は長いから将来のことまでは分からないが、当分はハッピーエンドにしようと思っている」

質問「サトミは、なぜ目覚まし時計が鳴る前に起きるのか(※すごく若そうな声)」
回答「サトミはマジメな女の子なので、毎朝6時に起きて朝食を用意する習慣が身に付いている。
よくある『目覚ましで起きて遅刻、遅刻~』という展開へのアンチテーゼでもある」

質問「石黒(※電子工作部の部員)はサトミが好きなのか?」
回答「そう。好きなのに、そう言えず、トウマとの関係をいじってチャチャを入れている。
そういう子、いますよね。実は僕が一番共感できるキャラ
だから最後にサトミとトウマがうまくいってるのを見て『いいなぁ』って言っている。鈴山(※もう一人の部員)は、そのことに気づいていなかったが、それで驚いている」

ちなみに、他にも同じことを考えていた人はいたみたいだけど、質問できたら聞きたかったですね。

「カントク、イマ、シアワセ?」

2021年日本のアニメ映画ベスト10+α

そのうち実施されるであろう破壊屋さんの「2021年日本のアニメ映画ベスト10」のためのリストです(昨年版)。いつもはツイートでまとめていますが、感想は長短あるので、ここにまとめておきます。
事前に予想もしていましたが、2021年は飛び抜けて傑作というほどの作品はありませんでした。その代わり、だいたいどれも良作でした。今年は“つまらなそうだけどネタと思って劇場まで見に行く”というものがあまりなかったということはありますが、そういうものでも良作という印象でした。少なくとも今年劇場で見たもので駄作と思うものはひとつもありません。ただ、良作と思っても本筋にポリコレ(倫理)的な問題があるという作品が目立ちました。
また、2020年の「鬼滅の刃」が円盤(blu-ray/DVD)の発売から数か月でテレビで放送されたのも驚きでしたが、今年は円盤発売前、あるいは円盤の発売が決まっていないのに見放題サービスでの配信が始まるものがいくつもあります。時代ですね。
以下では順位をつけていますが、今年は“順不同”(全部5.5点)で投票するつもりです。14位くらいまでは同じ評価にしてもいいくらいです。なお、レビューには軽いネタバレが含まれるものもあるので、先に順位だけ並べておきます。

シドニアの騎士 あいつむぐほし
②映画大好きポンポさん
③漁港の肉子ちゃん
④アイの歌声を聴かせて
⑤呪術廻戦0
⑥竜とそばかすの姫
⑦サイダーのように言葉が湧き上がる
⑧ガールズ&パンツァー最終章第3話
ソードアート・オンライン プログレッシブ 星なき夜のアリア
⑩シン・エヴァンゲリオン劇場版:||
⑪EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション
プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章
⑬フラ・フラダンス
⑭サマーゴースト
⑮岬のマヨイガ
攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争
プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第2章
神在月のこども
⑲100日間生きたワニ
⑳劇場編集版 かくしごと ―ひめごとはなんですか―
劇場版 生徒会役員共2
夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者
機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ
㉔絶望の怪物

※2021年の劇場アニメ全作品のリストはこちら→ AnimeMovie2021.xlsx

シドニアの騎士 あいつむぐほし [Amazon]

テレビシリーズに続く完結編。そういう意味では単体の映画として成り立っているわけではなく、トップにするかどうかは迷いました。ただ、今年blu-rayを買った劇場アニメは今のところこれだけです。それもテレビシリーズを揃えていたから、という消極的な理由な上に、円盤発売前に配信が始まったので、キャンセルしようかとすら思いました(しませんでしたが)。
もともとテレビシリーズがわりとキレイに終わったので、本作は蛇足になりそうな気もしていたのですが、ちゃんと決着をつけられた感じです。むしろ結末は、あまりにご都合主義という印象もありますが、おおむね原作通りです。映像は、さすがにポリゴン・ピクチュアズ。直接の評価ではないですが、シネマシティの爆音・極音上映もよかったです。

映画大好きポンポさん

もとはpixivで話題になった作品です。実はコミック本になったら余計な小ネタが挟み込まれてオリジナルの勢いを失っていた感じだったのですが、本作はまさに“映画好き”が作った感じで勢いよく作られていました。アニメで追加されたであろうエピソードも、映画好きの思い入れを感じるものでした。細かい部分で気になる点はありますが、原作の「90分」にこだわった作り(エンドロールを除く)もよかったです。ただ、“よくできている”感じはあるものの、“胸に来る”という感じではないので、これも2位にするか迷いました。

漁港の肉子ちゃん

本作は明石家さんま企画・プロデュースで、製作&制作が「吉本興業」&「Studio 4℃」というプペルと同じパターンでした。エンドロールでも最後に“明石家さんま”と表示されるくらい監督名よりも目立っていましたし、肉子ちゃんのキャラデザとか、コネ声優とか言われていて、パスするか、それでも(プペルと同じで)批判するからには見なきゃいけないか、という予想だったのですが、これがなかなかの良作でした。実のところ「頭が悪いけど一生懸命」という肉子は(キャラデザも含め)好きではないのですが、主役は子供でした。興行収入があまり伸びなかったみたいですが、“信者活動”しなかったからでしょうかね。

アイの歌声を聴かせて

出だしでこけたわりに内容がよくてロングランが続いていると噂の作品です。予告編がよくないという評価も見ましたが、実のところ“あの吉浦康裕監督が明るい作品を作りそうだ”と思って、私は「君の名は。」を狙っているのかと期待感を持っていた作品でもあります。実際、吉浦康裕監督の中では一番好きな作品で、ストーリーとしては、うまく作られています。ただ、今どきの映画としては倫理的に気になる点が散見されます。詳しくはこちらに書きましたが、他にも横断歩道のところにバス停があり、人が渡った直後に自動運転されているバスが急ブレーキもかけずにやってくる、という描写があります。人工知能(ロボット)が発達したという前提ですが、自動運転になってもそういう動作にはなりませんし、バスが来る直前に横断歩道を渡るサトミもサトミです。そこで転んだら死にますよ。どうでもいい作品なら、いちいちそういうことも気にしないのですが、本作は惜しい気持ちです。とはいえ、舞台挨拶からスタッフトークを交えて4回見てますし、年明けの監督トークも見に行く予定です。

呪術廻戦0

今年の劇場アニメの締めくくりであり、二匹目の「鬼滅の刃」とも言われる「呪術廻戦」の前日譚。テレビシリーズをおさらいして見に行きましたが、前日譚なので、基本的な設定と誰が生き残るかということが分かる程度です。私は、こういうバトルものは、そこまでのめり込めないというだけで、テレビシリーズが好きな人には十分な出来なんじゃないでしょうか。ハリウッド大作が軒並み延期されて映画館が「鬼滅の刃」だらけになっていた時期とは違いますが、歴代ランキング(100位)に入るくらいのポテンシャルはあるでしょう。しかし、分かっていたこととはいえ、終盤の展開で“とどめを刺すチャンスがあるならとどめを刺しておけよ”と思いました。これから新たな理由が明らかになるのかもしれませんが(一応伏線はあった)、鏖殺(おうさつ)したがってるキャラを放置したのはなぜなんでしょうね。

竜とそばかすの姫

個人的に、細田守監督は「バケモノの子」が折り返し点で、本作は「サマーウォーズ」未満、「時をかける少女」には程遠いというところです。「サマーウォーズ」を見直すと、本作の映像の細かさがよく分かるという程度に映像や音楽はよかったのですが、問題は終盤の展開です。ITmediaの記事で具体的に指摘されていますが、「アイうた」以上に致命的で、記事から引用すると「この作品は間違っている」。細田作品は、脚本に別の人を立てる方がよいんじゃないでしょうかね。次作には期待しています。

サイダーのように言葉が湧き上がる [Netflix]

とっくに完成していたけれど(映倫審査は2020年2月)、新型コロナで延期された上、「夏に見てほしい」からと1年先送りされ、最後の最後でさらに1か月延びました。ストレートなボーイミーツガールで、終盤の盛り上がりといい良作だと思いますが、これも“現代でこの設定は倫理的にキツい”と思う設定が主要な要素になっているんですよね。イシグロキョウヘイ監督曰く「作品作りにおいて言われて修正することはあるけれどポリコレ的なことはあまり気にしない」そうです。ちなみに、これも円盤発売前に Netflix で配信が始まりました。

ガールズ&パンツァー最終章第3話

高々50分程度のOVAに1話2年もかけるなよ、というのが毎度の印象です。面白いし、よく展開を考えるものだと思いますが、ある意味平常運転ですし、どう転んでも2015年の「劇場版」のインパクトには及ばないというのが正直なところです。あと、「それって卑怯だよね」という(戦争法では許されない)戦法が使われてます。まあ、ファンタジーなフィクションなので細かいことを気にしちゃ負けなんでしょう。

ソードアート・オンライン プログレッシブ 星なき夜のアリア

長く続いているテレビシリーズではキリト視点だったのに対し、ヒロインのアスナをメインに据えた、いわばリブート作品です。テレビ1期序盤のサイドストーリーのような内容です。テレビシリーズを見直すと映像の迫力は段違いですが、前作(オーディナルスケール)に比べると、どうしても新味に欠けます。バトル中心のストーリーになっているのも残念なところ。でも、続編が予定されていますし、見るつもりです。

シン・エヴァンゲリオン劇場版:|| [Amazon]

(今のところ)今年の興収トップ作品です。ものすごい物量による映像は素晴らしいですし、3作目(Q)のぶっ飛んだ展開から、よく話にオチを付けたものだと思います。でも、なぜ庵野作品は「何かしないと気が済まない」んですかね。「トップをねらえ!」の最終話がああなったのも万策尽きたためみたいですし、テレビシリーズの最終2話がああなったのも時間切れのためみたいですし、望んだ表現じゃなかったはず。でも本作は十分な時間があった上で意図的に“やらかし”てます。もっとも、そうでなくてもストーリーの根本が「人類に大迷惑な親子」ってところにイライラします。あと、最後の最後でタレント声優というのも残念でした。順位を考えているうちにベスト10から外れそうになりましたが、入れないのもなんだかなと思って入れることにしました。

EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション

この作品は迷いました。Netflixにある劇場版2作をおさらいすればいいだろうと思って、6~7年前に見たっきりのテレビシリーズの設定をすっかり忘れたまま「ハイレボ1」を見て、わけが分からないまま「アネモネ」を見て、わけが分からないまま本作の舞台挨拶まで見に行って、結局、わけが分かりませんでした。覚悟を決めて50話あるテレビシリーズをNetflixでおさらいして、もう一度「ハイエボ1」と「アネモネ」を見て、ようやくストーリーを理解し、ふたたび本作を見て、やっと展開が分かりました。なかなかいいじゃん。「テレビシリーズを見てなきゃ話が分からない」というのはトップに挙げた「シドニアの騎士」も同じですけど、劇場版だけで理解できないのは問題というか、「ハイエボ1」の不親切すぎます。あと、予告編に出てくるようなアクションの映像はいいんですが、日常シーンの描写ではけっこうボロが出ていた気がします。

プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章

1時間作品。テレビシリーズの最後が尻切れ感があったので、あまり期待していませんでしたが、これも良作でした。オープニングからワクワクさせてくれるし、意外な出来事の連続というわけではないですが、設定を活かしたひねり過ぎないストーリーに魅了されました

フラ・フラダンス
ハワイアンズを舞台にした実写映画「フラガール」という傑作に対して、吉田玲子さんの脚本で、どんなものが出てくるかと期待していた作品です。全体的に“さすが吉田玲子”を感じさせる話作りではあるものの、“CoCo”の設定が微妙でした。好きな作品ではあるのですが、そういう設定は持ち込まずにすませてほしかったです。

サマーゴースト

劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」「ジョゼと虎と魚たち」のキャラデザやコンセプトデザインを担当されたloundraw氏の初監督作Z会のアニメCMを制作されたせいか、“ジェネリック新海誠”と呼ばれていたりするらしく、本作は40分のショートムービーでもあり、ほしのこえ」(新海誠監督、2002年、30分)を“予習”して鑑賞しました。実のところ内容には期待しておらず、ある意味見たという実績作りみたいなつもりでしたが、細かく気になる点はあるものの、まとまった話になっていました。冒頭5分が公開されているので雰囲気は分かると思います。

岬のマヨイガ

吉田玲子脚本+川面真也監督という組み合わせで、けっこう期待していた作品なんですが、わりと肩すかしでした。原作は未読ですが、フラグを立てたり折ったりというのが原作通りということなら、そちらが合わないということなんでしょう。おばあさんが万能すぎます

攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争

Netflixの1クール分を再編集して劇場公開した作品。CGキャラが“なんか違う”というのはさておき、攻殻機動隊って、いつも似たような展開じゃない?という印象。つまらないわけじゃないですし、それが“ファンに求められているもの”なのかもしれないですけどね。

プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第2章

第1話の印象から期待しすぎていたせいかもしれませんが、導入部から分かりやすいありきたりな設定で、これも肩すかしでした。ある意味、平常運転ではありますが、いまいち盛り上がりに欠け、残りの4作でどう転がしていくのかは気になります。

神在月のこども

たまたま去年、出雲大社に行ったから、という理由だけで見た作品です。キービジュアルや公式サイトから、あまり期待はしていなかったのですが、映像もストーリーも古き良き時代のアニメという感じでした。聖地巡礼はしてみたいというか、するつもりだったのですが、予定していた時期の天気が微妙だった上に、「アイの歌声を聴かせて」のトークショーがあったので見送ってしまいました。機会があれば、いずれ行こうとは思っています。これも円盤の発売予定は公表されないまま Netflix での配信が決まりました。

100日間生きたワニ

原作コミックも含め色々言われていましたが駄作とは思いません。原作を思えばアニメの動きは想定の範囲内で、ちゃんと雰囲気を守ってストーリーが作られていました。もっとひどい映画はいくらでもあります。どちらかというと本作を大作扱いする方が問題だと思います。劇場で「サザエさん」を見た感じというのは言い得て妙。

劇場編集版 かくしごと ―ひめごとはなんですか― [dアニメストア]

公開時期が出張と重なり、出張先近くの映画館では上映がありませんでした。dアニメストアの配信で視聴。キレイに終わったテレビシリーズの総集編+オマケ、でした。キャッチコピーが「TVシリーズでは描かれなかったもうひとつの結末」だったので、もう少し新規エピソードがあると思っていました。いい話ではあるんですけどね。

劇場版 生徒会役員共2

今年は本作で始まりました。テレビシリーズが好きな人限定の平常運転。これこそ“おさらい”なんて要らないだろうと思いつつ Netflix でテレビシリーズ(41話)をおさらいしてから鑑賞。ちなみにエロネタ満載でPG12にすら指定されているのに、ただのギャグアニメでエロい画は出てきません。

夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者 [Netflix][dアニメストア]

配信で視聴。この作品が好きな人にはよいと思います、という程度。作品自体は嫌いじゃないし、いい話だと思うけれど、それ以上のものではないというか、マンネリ感が強いですね。テレビなら2話分として放送するものだろうし、劇場版クオリティというわけでもありません。

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ [Amazon][Netflix][dアニメストア]

配信で視聴。アマプラでも配信してます。私は、いわゆる「ファーストガンダム逆シャア」オンリーなんですが、これが世間でウケた理由が分かりませんでした。駄作とは言いませんが、なにかおさらいすべきものがあったんですかね。

絶望の怪物 [dアニメストア]

個人が3年かけて作ったというインディーズアニメです。dアニメストアで視聴しました。予告編もあらすじも見なかったので、序盤が少しまどろっこしい感じでしたが、最後まで見られるものでした。作画もストーリーも“プロ”の域には達していないというのが正直なところですが、こういう作品は“個人が3年かけた”というところを含めてのストーリーだと思いますし、見てよかったと思ってます。

【ネタバレ注意】『アイの歌声を聴かせて』スタッフトークイベント@シネマシティ(+α)

11月12日にシネマシティで『アイの歌声を聴かせて』の「スタッフトークつき上映」が開催され、吉浦康裕監督と脚本の大河内一楼さんのお話を聞く機会がありました。同じ週の月曜日には新宿ピカデリーで「スタッフトーク 音楽篇」があり、そちらは公式レポートがあるのですが、シネマシティの方は報道でもレポートがなさそうなので、例によって雑なメモ書きと記憶をもとに書き起こしてみます。間違っていたらゴメンナサイ。
※2021/11/15追記。本日、公式レポートが公開されていました。以下、重複しているところもありますが、そのまま残しておきます。

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例によって【ネタバレ注意】です。まだ見ていない人は読み進めず、まず映画館で見てください。後述しますが、私は本作を絶賛はしません。しかし、65億を超えたらしい「竜とそばかすの姫」の“欠点”を思えば、あまり気にすることはないのかもしれません。あんまり広まらなかったね、で済ませてしまうにはもったいない作品です。



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トークパート

ミュージカル映画ということもあり、まず岩浪美和音響監督による音響の良さがあり、吉浦監督が「僕はシネマシティ会員(シネマシティズン)ですから」(拍手)、シネマシティも岩浪さんが音響調整されていて「まさに理想に近い映画館」(吉浦監督)というお話がありました。

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大河内さん「原案プロットは、吉浦監督が作られていました」
吉浦監督「最初はAI(人工知能)、男女の話、SF、ラブロマンスなどの要素が含まれていて、もっとシリアス寄りでした。シオンも猫だったり、男性だったりしました。ちょっと行き詰まって(?)、別の方に手伝ってもらえないかということで、プロデューサー経由で大河内さんが参加されることになりました」
大河内さん「ちょうど別の企画で御一緒していたんですよね。その企画はなくなっちゃいましたけど。
前々から吉浦監督の作品はいいと思っていたんですよね。最初は脚本を手伝うという形ではなく(本作の)感想が欲しいと言われて、わりと辛口の内容をメールで送りました
吉浦監督「それで、じゃあご一緒に、ということになりました」

大河内さん「原案を分解・再構築するのに、ホワイトボードで説明したりしました。
AIの“変わった要素”をどうするかということで“突然歌いだす”というアイデアを挙げたら、それはいいということで採用になりました」
吉浦監督「ミュージカルはやりたいものでした。たぶん僕だからCGを使わず作画でやるんだろうな、と思っていて、作画でミュージカルをやろうと決めました
大河内さん「やりたいことをやるのがいいんですよ。情熱が持てるというか。
実際、いい作品になりました。出来上がりというのは脚本段階では分からないですからね
とくに歌の部分は何もわかりません。会話で盛り上げようとするんだけど、盛り上げ過ぎないように抑えめにしたりとか」
吉浦監督「歌が意味を持つようにしようと思いました。
脚本ができて、音楽を発注して、一発で形になったんですよね。
よく図面通りのものができあがってくると、“そのまま”だなと心配になることがあるんですが、依頼した以上のものができあがってきました
大河内さん「できあがりを見て、土屋太鳳すごいし、いっぱいいい部分がありました

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■質疑応答

質問「最近では、自転車の二人乗りや未成年飲酒のようなポリコレを気にするようになっていますが、子供のトウマがハッキングするのはともかく、大人である母親が他人のカードで侵入したり、序盤でもセキュリティ面など色々倫理的な問題が多い。横断歩道のところにバス停があるのも普通は危険度が高い。そのあたりの意図は」

吉浦監督「自動運転の世界は理想として書いた。セキュリティについても意識はしていた。そもそも(母親の)美津子はできた人間ではない。セキュリティ意識はひどいし、社員としては(上司の)西城や(部下の)野見山の方が正しいともいえる。そういう意味では、西城や野見山も“本当に嫌なキャラ”にはしたくなかったし、倫理的には西城の方が正しい。美津子がぶっこわれるシーンでは、脚本段階ではもっとひどいセリフがあったけど、やってみたらあまりにひどいので削ってる」
大河内さん「美津子は、感情に任せちゃう面がある」

質問「シオン奪還のくだりで、ロボットたちはシオンを応援しているのか」

吉浦監督「そう。ロボットたちは自主的にシオンを応援しはじめている。中盤での“世界中のAIがみんなシオンのようになる”というセリフがあるが、それを具現化している。いかにシオンが操っていないようにみせるかを考えて、ああなった

質問「支店長(西城)は、美津子を妬ましく思っているのか、そもそもAIが嫌いで邪魔をしているのか」

吉浦監督「もともと美津子と一緒に仕事をしていて、成功したら自分の手柄にしたいけれど、失敗されて足を引っ張られたくないとも思っている」

質問「AI規制法というのは、どういうものか」

吉浦監督「人間と区別できない扱いをしちゃいけない、という感じの法律。だから“モニタ品”と判別できるようにすることで社内の稟議を通している。緊急停止できるようにしているのも、そのための機能。
ロボットを家事に使ってもいいけど、怖がられて誰も使っていない状況」

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シネマシティでの舞台挨拶は、写真を撮らせてもらえることも多いですし、スタッフトークはキャスト/声優トークに比べて深い話が聞けることが多いので、とても楽しいものです。いろんなお話を聞くには30分というのは短いですが、また催してもらえないかと思います。



↓個
↓人
↓の
↓感
↓想
↓で
↓す

■絶賛できない部分

最初の質問をしたのは私ですが、IT業界に身を置くものとして、のっけから「深刻なバグが出現したのに、黙って見過ごしてもらうことで(バグを隠ぺいして)成功したことにしようとする」というストーリーにちょっと引いたというのが正直なところです。技術的に見れば小学3年のトウマが作ったアプリがウイルス化して、あちこちに感染して(悪さこそしないものの)サトミを監視し続けて、それがシオンにも感染しているわけで、セキュリティ弱すぎでしょ。“人格”(みたいなもの)がネットワークを移動していく、という展開はディズニー映画にもあるので、そこまで無粋なことは言わないですが(←言ってるじゃないか)、ちゃんとフィードバックできる仕組みを用意して、バグがあったら直すというのが倫理的な展開というものです。それじゃ、映画が10分で終わってしまうな(←オイ)

サトミが正しく判断できなかったとか、トウマがハッキングしているのも、ぜんぶ“子供だから”という理解はできますし、意図してウイルスを作ったわけでもないですが、終盤で大人である美津子が他人の子供が持ち出してきた別社員のカードを使って出禁中の会社に侵入するというのはヤバいです。吉浦監督の回答にあった「美津子はできた人間ではない」というのは、まさにそのとおりで、そもそもサトミが「お母さんは男社会で出世したからいじめられて」みたいに言っているのも、「それは美津子がそう言ってるからだろ」と突っ込まざるをえません。サトミは、直接親の会社の事情なんて分かるわけがないので、しょっちゅう美津子が愚痴をこぼしているに違いないのです。子供を仕事のはけ口にするな

一昔前ならともかく、ポリコレ全盛で色々ストップがかかるらしい今日の作品としては、気になってしまうのです。ただ、そういうレベルの気になる点は、冒頭に挙げた「竜とそばかすの姫」にもあるわけです。リンクした記事で指摘されているとおり、終盤の大人たちの行動はかなりひどい。あれをリアルでやったら炎上します。そして人々は、そういうところはあまり気にしないようです。「映画の中のコンピュータ」かよ。

というわけで、完全に個人的な見解ですが、吉浦監督の過去作(「イヴの時間」「サカサマのパテマ」)に比べれば、キャラデザはかわいいし、土屋太鳳さんの歌はうまいし、ストーリーも上記の気になる点を除けば、というか“美津子ができた人間でない”と理解しておけば、よく考えられています。はい、そこ、どういう仕掛けで花火打ち上げたんだよ、とか言わない(←ヤメナサイ)。なにより見た人の評価が高いらしいので、私の気になる点なんて気にしなければいいんです。

もともとミュージカルというのは、普通に喋るようなセリフを突然(不自然に)歌いはじめたりして、ストーリー展開が遅くなり、結果として“浅い話”になるのが苦手だったのですが、本作は歌う場面で歌っているだけで、「語るべきセリフを歌で表現する」ということがありません。作画のミュージカルシーンはとてもいいです。サトミやシオンの表情もいい。お姫様姿のサトミが座るシーンは繰り返し見たい

興行収入を見守りたい!」を見ると、どうやらこの週末は前週比で1.3倍くらい人が入ったようです。減った上映回数が増えている映画館も続出しているようで、「若おかみは小学生!」みたいに盛り返すといいなと思っています。まあ、あれも絶賛しない作品ではありましたが。

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劇場アニメ「ジョゼと虎と魚たち」スタッフトークイベント

ジョゼと虎と魚たち」のblu-ray&DVDの発売を記念したスタッフトークイベントに参加しました。先月から告知されていたみたいですが、私はうっかりしていて気付いたのが前日だったので端っこの席しかあいていませんでした(でも、あいててよかった)。まあ、本編は何度も見ているし、トークはどの座席で聞いても同じですけどね。特別ゲストとして紹介されていた伊藤智彦監督は、なんとMCを担当されました。そしてサプライズゲストとして脚本の桑村さや香さんが登壇されました。以下、メモ書きをもとにしたトークの内容です。汚いメモと記憶に頼っているので、間違っていたらゴメンナサイ。当然【ネタバレ注意】の内容です。念のため。
※どこまで書いていいのか分からないので、叱られたら消します。

もともと伊藤監督とタムラ監督は、細田守監督作品の助監督を引き継いだ関係だそうで、「時をかける少女」「サマーウォーズ」では伊藤監督、「おおかみこどもの雨と雪」ではタムラ監督が助監督をされたようです。ただし、お付き合いがあったのはマングローブ時代の「ミチコとハッチン」からだそうです。

伊藤監督「(ジョゼ虎と)ハローワールドとの共通点があるんですけど、分かります?」
タムラ監督「尺ですか?」(即答)「最近、ハローワールドと同じ(98分)ことに気付いたんです。」
伊藤監督「一つネタができたと思ったんですが、早速当てられてしまいました。『HELLO WORLD』では、会社から90分以内にするよう要求されていて、主題歌分を5分足して95分というところ98分になりました。」
タムラ監督「ジョゼ虎は100分に収めたいと思っていて、こうなりました。」
伊藤監督「よく90分までというのは言われるんですよね。長くなると映画館での上映回数が減ったり、2時間超えると声優さんへの支払いが増えたりするので……。」
伊藤監督「(ジョゼ虎は)試写会で見ました。コメントも書きました。」
タムラ監督「当時は忙しくて、まだ『HELLO WORLD』も観てなかったんですよね。先に見てもらうことになってしまいました。」
伊藤監督「ノラガミ、手伝ったこともありましたね。今回は、また随分ロマンティックな映画を作ったなと。」
タムラ監督「『HELLO WORLD』もですよね。」
伊藤監督「ハローワールドはずいぶん頑張りました。普段は地味なので。」
伊藤監督「『ソードアート・オンライン』をやった人が何をおっしゃいます。」

ここで、桑村さや香さん登場。舞台挨拶ははじめてだそうで、ジョゼ虎では決定稿になるまで第11稿までいったそうです。(が、それほどの驚きがなかったのは、それくらいは普通なのかな)

タムラ監督「プロットには時間をかけましたね。1年ちょいの半分はプロットづくりにかけました。」
伊藤監督「ほぼオリジナルですよね。」
タムラ監督「いや、そういうわけでは。」
伊藤監督「お二人で大きく意見が違った瞬間というのはありました?」
桑村さん「ちょいちょいありましたね。」
タムラ監督「けっこうありましたね。ジョゼはキャラが立っているのでいいんですが、恒夫はイメージの共有が難しかったですね。」
桑村さん「恒夫は二転三転しました。最初はカメラマンを目指しているという設定でしたが、キラキラしすぎということでプロデューサーから却下されました。」
タムラ監督「カメラマンは他の作品とかぶりやすいということと、動きがないので、動きがほしかったんですよね。」
タムラ監督「キャラデザは、シナリオと並行してやっていました。シナリオの初稿が上ったくらい頃に、絵本奈央さんとやりとりしてました。」
桑村さん「ジョゼ(のキャラデザ)は最初から完璧でしたね。最初の恒夫は元気すぎるというか幼すぎるということで頭身を上げてもらいました。」

次の話題としてタムラ監督と桑村さんの間で「やりやすかったところ、やりにくかったところ」について。

桑村さん「やりやすいところはタムラ監督のこだわりや情熱があって引っ張っていってくれるという感じはありました。でも頑固なわけではなく柔軟に話を聞いてくれるところもあります。やりにくい面というか、本読みが長かったですね。12時から23時までやってました。」
タムラ監督「10人くらいで本読みをやって全員の意見をきっちり聞いてました。若い子の意見としてアシスタントプロデューサーから聞いたりしてました。」
桑村さん「アニメのシナリオははじめてで、実写より情報が少ないとは聞いていました。本当は“気持ち”を喋らせたくはないけれど、喋らないと伝わらないという。」
伊藤監督「実写は(?)、ト書きが少ないと言われますね。」
タムラ監督「前後の流れから気持ちが汲めるようにはしました。流れは大事にしていました。」
伊藤監督「たまに実写だとト書きが少なくて困ることがあるんですよね。座る場所までこっちで考えるの?とか。」
桑村さん「アフレコは2日間参加しました。」
タムラ監督「アフレコは主演の2人(中川大志さんと清原果耶さん)はまとめて録れたんですが、あとはバラバラでした。桑村さんが参加されたのは主演の収録のときだったかな。
後半はキャラを掴んでくれていたのでほとんどやり直さずにすみましたが、前半はキャラぶれしていたところを録り直しました。
俳優さん(主演の2人)はシリアスな場面は得意ですが、コミカルなところはやりなおしてましたね。
逆に声優さんたちにはリアルにとお願いしました。でも、そんなに録り直しはしなかったと思います。」
伊藤監督「リテイクすると芝居が混乱することもあるしね。」
タムラ監督「清原さんは途中で朝ドラが決まって動ける日が限られてきたりしました。
そういえば、オーディションのときに伊藤監督を見かけて驚きました。」
伊藤監督「『HELLO WORLD』のアフレコだったかな。ああいうオーディションは数年に1度しか味わえない。」
タムラ監督「(オーディションでは)関西弁を喋る人を集めました。」

ロケハンについて。

タムラ監督「ロケハンは桑村さんも行きましたね。さすがにほふく前進は撮りませんでしたが、波打ち際を歩いているという写真が欲しくて桑村さんが歩いているところを撮りました。」
桑村さん「それは初めて聞きました。」
タムラ監督「あと、作っているうちに現地で街灯が増えたんですよね。どうしようかと思いつつ直しました。」
伊藤監督「年代が明示されているものは、そういうことありますよね。」
タムラ監督「あと、主人公に背丈が似ている人に車椅子に座ってもらって撮影しました。後ろ向きで押すシーン(※注「てんしば」公園のシーン)もビデオに撮ったんですが、あれ、やってみるとこっぱずかしいんですよね。みんなでキャッキャ言いながら見てました。」

お気に入りのシーンについて。

桑村さん「(図書館で)ジョゼと花菜がサガンが好きというところで、花菜が爪先立ちするんですよね。そこまで好きか、と。」
タムラ監督「あれはアニメーターさんのアドリブじゃなかったかな。指示してはいなかったような。」
タムラ監督「私は舞がいなければ成り立たないというくらいに、舞がらみが好きなんですが、最後にガラス越しに話すシーンはこだわりました。何度も調整しましたね。」
伊藤監督「舞の太ももがフレームインするところが2箇所くらいあるんですよね。あと水着を着ててもエロさがないのがよかった。」
タムラ監督「あれはアニメーターさん(←名前は聞き漏らしました)のおかげですね。」
伊藤監督「ジョゼの部屋の設定が中村章子さんでしたよね。『同級生』の監督をされている。あの部屋の設定は誰なのかとエンドロールで一番最初に確認しましたもん。」
タムラ監督「プロデューサーに紹介してもらいました。家とはまた別の雰囲気になったと思います。」

新型コロナの影響について。

タムラ監督「コロナの影響で制作期間は延びて、当初は夏の予定でしたが、クリスマスになりました。
みんなリモート作業になったことと、当時は劇場作品が多くなってアニメーターやスタッフの取り合いになってました。
初稿が2017年のクリスマスだったので、上映がクリスマスの時期になったのは良かったと思います。」
伊藤監督「劇中に出てくる映画館はどこですか?」
タムラ監督「なんばパークスです。」
伊藤監督「じゃあ、12月に上映できるといいですね」
タムラ監督「しょうちくさーん!!(笑)」

桑村さんに対してタムラ監督が「やりやすかったところ、やりにくかったところ」について。

タムラ監督「桑村さんは実写(2003年の映画)ファンだったとお聞きしてました。私は実写映画は見ずにやりはじめて、シナリオが上ってきてから見たんですよね。ある程度話は聞いていましたが、作り手としてはまったく違う方向性でやろうとしてました。だから共通言語が少なかったというところはあります。」
桑村さん「最初にハッピーエンドにしたいと聞いていて、それはできたんじゃないかなと思います。楽しい要素を入れましょうという話をされていました。」
タムラ監督「実写版を見て、なるほど、と思うところはありました。」
伊藤監督「他に影響のあった作品はありますか?」
タムラ監督「当時の映画は色々見たと思いますが、とくに影響を受けたというものはないですね。」

ちなみに、伊藤監督は(『HELLO WORLD』の音響監督を担当した)岩浪美和さんから「映画はお客さんが作るんだ」と言われて舞台挨拶を積極的にやっていたこともあり、今回こういう形で協力することになったそうです。最後のプレゼント抽選会は、当たりませんでした。ちなみに、客席にいた鈴木麻里プロデューサーが当たったみたいで、再抽選になっていました。

「オッドタクシー」の魅力をネタバレせずに語る(のは難しい)

しばしば思うことですが、面白いと思う作品を見てもらいたいと思うときに、ネタバレせずにその魅力を語るのは難しいものです。それが“他の作品にはないユニークなもの”であればあるほど、そのユニークさは“見て感じてもらいたい”からです。こちらの記事には「有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER」というラジオ番組で「オッドタクシー」を勧めようとするのに、ネタバレに踏み込んで説明してしまっているという話が取り上げられています。(本作を未見の人は、リンク先を読まない方がよいです)

そのため、できるだけ内容に踏み込まないよう努力はしますが、先入観なしで楽しみたい人は、以下を読み進む前に本作を見てほしいです。Amazon Prime Videoで全話配信されています。DVDレンタルもあります。動物キャラという表現が合わないと思う人はいるかもしれません。しかし、できるなら4話「田中革命」までは見てほしいところです。このあたりが合う・合わないの判断基準になります。4話まで見ても魅力を感じないならしょうがないです。

もともと私は新作アニメを見るときには事前の情報収集をしない方なので(舞台挨拶などの機会があれば別)、最初に公式サイトを見たときには「動物キャラで芸人声優が多い」ことから「アフリカのサラリーマン」みたいなものかな、キービジュアルを見るとダークな路線を狙ってるのかな、主人公が(鬼滅の刃の)炭治郎なのはミーハーなキャスティングなのかな、これなら0話切り(1話も見ない)してもいいかな、というくらいの感覚でした。そして、その印象は1話で完全に覆りました

群像劇といいながら、主人公のまわりでしか話が進まないものもありますし、何人もの登場人物が同じ話しかしない、つまり別の人物がセリフを言っても問題ないというようなものもありますが、本作は善人から悪人まで多彩な人物が登場し、それぞれの特徴的な性格が見事に描写されています。声優にはお笑いの人がキャスティングされていたり、ところどころにお笑いネタが組み込まれているのですが、それがちゃんと面白いのもポイントが高いところです。

先のラジオの記事でも触れられていますが、伏線の回収もうまい。そもそも伏線というのは「伏線張りました」「伏線回収しました」がちゃんとしてるから面白い、というわけではありません。本作品が、どのように“うまい”のかは実際に見てもらうしかありませんが、ちょっとネタバレを覚悟しながら触れると、上記で私が“なんだかなー”と思っていた部分も、すべて回収されていきました。

さて、この「オッドタクシー」ですが、もともと予定になかったらしいblu-ray BOXの発売が企画されていて、申込数が増えるたびにオマケが増えるスタイルが採用されています。そして、最終ゴールが3000セットという中、今の注文数は2700セットまで増えているそうです。締め切りは今月末(9/30)で、あと3日を切りました。アマプラで視聴して、ぜひ、この素晴らしさを体験してください。なお、BSテレ東で再放送していて、9/29深夜が最終回の放送です。

新型コロナ: 「新型コロナはただの風邪」ではない

■西浦氏の40万人死亡予測
西浦博氏が「新型コロナウイルスの流行対策を何もしないと、国内での重篤患者数が約85万人に上るとの試算…重篤患者のうちほぼ半数の40万人以上が死亡すると予測」(毎日新聞)したことに対して、実際に死者数がそこまで増えなかったことを理由に“嘘つき”だなんだと批判している人たちがいて驚きます。この予測には「対策を何もしない」という条件があるのであって、実際に死者数が増えなかったのは自粛などの対策をしたためであるのは言うまでもありません。その条件を無視して、西浦氏が予測を外したと批判している人たちは一人残らず信用に値しないと考えて問題ありません。

■感染者数と死者数
新型コロナ: 「インフルエンザでも人は死ぬ」との比較」(移行後)では、感染の発端となった武漢でのデータをもとにざっくり致死率2%と計算し「インフルエンザのように1000万人が感染したら致死率2%としても20万人が死亡します」と書いたわけですが、西浦氏の数字は感染が集団免疫の割合まで広がる(ただし半数は医療によって救命できる)と想定されていた程度で、根拠が大きく違うわけではありません。

では、実際の致死率がどうだったのかを期間を区切ってみてみると、以下のようになります。

年代 10歳未満 10代 20代 30代 40代 50代 60代 70代 80代以上 全体
第1波(~2020/6/24) 0.00% 0.00% 0.03% 0.15% 0.51% 1.13% 5.06% 14.88% 29.80% 5.42%
第2~4波(2020/6/25~2021/6/30) 0.00% 0.00% 0.00% 0.02% 0.09% 0.29% 1.41% 5.10% 14.07% 1.60%
第5波(2021/7/1~9/1) 0.00% 0.00% 0.00% 0.01% 0.03% 0.11% 0.49% 1.59% 5.38% 0.16%

初期の致死率が高いのは高齢者の割合が高かったせいもありますが、年代別でも致死率が下がっています。今なお、新型コロナに対する治療薬はありませんが、それでも初期に比べれば対症療法が確立したということはあるのでしょう。実は、第2、3、4波を個別にも比較してみたのですが、この期間はあまり大きな変動はありませんでした。日本にとって初期に早めに強く自粛したことで感染者数を抑え込めたのは幸運だったと言えます。この初期の数字が武漢より悪いのは、もともと高齢者の割合が大きい(日本は65歳以上が28.4%)からかもしれません。あるいは武漢では感染者を追跡し切れておらず感染者数が過小だった可能性もあります。抗体検査の結果から確認された件数の10倍もの感染者数がいた可能性があるという報道もありました。

もし、対処の確定しない初期に感染が広がっていたら、計算上は750万人程度(日本人口の6%)が感染するだけで40万人が死亡していたことになります。ワクチン接種が進み、ようやくペースは落ちてきましたが、これまでの累計感染者数は155万人ほどです。ダイヤモンド・プリンセス号では、わずか16日間で乗員・乗客の17%が感染していました。また、社員の半数が感染したというオフィスもありました。「対策を何もしなければ」感染が人口の何割かまで広がったことでしょう。たとえ、致死率が1.6%に抑えられたとしても2500万人(人口の20%)まで感染すれば40万人が死亡することになります。デルタ株の感染力は水疱瘡並(つまり基本再生産数が5以上)と言われていますから、ワクチンなしで集団免疫まで感染が進んでいたら人口の80%以上にまで感染が広がっていたかもしれません。「私のブログの影響で当時の感染者数が少なくなった」と言われることは誇らしい評価でしかありません。

第5波で急激に致死率が下がったのは、もちろんワクチンの効果です。とくに致死率の高い高齢者に対する優先接種により、かつてないほど感染が広がっているにも関わらず1日あたりの死者数は第4波以前ほどには増えていません。ただし、重症者数は過去最多を更新しています。デルタ株の感染力に対して、人々の自粛は不足していたため新規感染者数が大きく増えることになりました。医療の限界を超え、自宅療養という通常でない状況を脱するためには、今しばらく自粛を続けなければなりません

■「新型コロナはただの風邪」ではない
新しい生活様式などの自粛によって、昨冬はインフルエンザが流行期を迎えることはありませんでした。報告されたインフルエンザ感染者数は、過去に比べて3桁近くも少なくなっています。それほどの自粛をしてもなお、新型コロナは感染者が増え続けるほどやっかいな感染症だということです。致死率が高いだけでなく、抑え込みにくいのです。また、第5波でワクチン接種が進むまでなかなか感染を抑え込めなかったのは、間違いなくデルタ株の基本再生産数が高いためです。

なお、当時は重症化して人工呼吸器を装着するようなことになれば後遺症の心配が生じると書いたことにさえ文句を言われたものですが、実のところ重症化しなくても後遺症に悩まされている人が多くいます。COVID-19有識者会議の報告には、軽症の人を含む退院者の76%がコロナ後遺症(14日間を越えて遷延する症状)が認められているそうです。コロナ後遺症は、英語で"long covid"と呼ばれており、よくある症状と認められています。

もはや、誰一人「新型コロナはただの風邪」と言っているまともな識者はいません。かつてそう言っていた人も、重症化率や致死率の状況を目の当たりにして「ただの風邪」とは言わなくなり、「新型コロナで死んだり後遺症に苦しむ人がいることを許容してでも積極的に経済を動かせ」に変化しています。そういうしかありませんからね。個人的にそのように主張することは自由ですが、60歳以上の高齢者が有権者の4割以上を占める日本で多数の支持を得られることはありません

■インドとデルタ株
インド由来のデルタ株ですが、そのインドでの新規感染者数は、このところはあまり多くありません。決して絶対数が少ないわけではありませんが、人口比では日本よりも少ないくらいです。インドは初期には感染者が少なかったため、当時のBCG仮説を支持する理由にされていたこともあります。その後、感染は拡大し、とくにデルタ株によって酷い状況に陥ったため、BCG仮説はあえなく塵となりました

私はインドの感染者数や死者数が(人口に比べて)少ないのは、高齢者率が低いからだろうと推測していました。高齢者の方が致死率が高いだけでなく、感染させやすいと言われており、インドでは65歳以上が6.6%、70歳以上は3.8%しかいません(日本は、それぞれ28.4%と21.8%)。しかし、そうではなかったようです。テレビ朝日の報道によれば、ワクチン接種率が1割の時点で抗体保有者が7割にも及んでいたそうです。インドで報告された感染者数は人口の2.4%程度ですが、実際の感染者数は比べ物にならないくらい多かったということです。そして致死率が低いわけでもなく、その報道によれば超過死亡は340~490万人に及ぶ可能性が高いそうです。高齢者率が日本よりずっと低いのに、です。インドでは、ただ検査されていなかっただけなのです。

■出口戦略
かねて「出口はワクチン」と言ってきましたが、実際に有効なワクチンが登場したことで、とりあえず出口に向かっているように見えます。デルタ株や、今後の新たな変異株を恐れないわけではありませんし、昨冬を思い起こせば気温や湿度が下がる冬には、ふたたび感染力が強まっていく可能性もあります。ワクチンの接種が進み、十分な抑制効果や重症化の抑止効果があることを期待します。