新型コロナ:孤立するスウェーデン

月末にスウェーデンについての記事を書こうと決めていたわけでもありませんし、すでに別記事のコメントに書いたことばかりですが、スウェーデンの現状についてまとめておきます。なお、6/19~21は夏至祭というお祭りがあったせいか3日間連続でWHOへの報告がゼロだったのを後から補正したり、同じようなことを6/27~28の週末でもやっているようなので、以下、情報源の違いによって数字のズレが生じていることをお断りしておきます。

スウェーデンの感染状況
まず、前回の記事で取り上げた感染状況についての最新情報をグラフでまとめます。スウェーデン全体の感染者については、今月に入ってから明らかに増えました。第23週の報告(速報版)の冒頭を機械翻訳で読み取ると、「3/13から入院が必要な人だけを検査していたが、5/5から症状のある人を検査するようになり、23週目からは保健所経由になった。基準が変わっているから単純比較してはいけない」と書かれているようですから、そのせいではあるのでしょう。しかし、6月に入ってからも減少傾向にはありません

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ヨーロッパで感染者の多かった国と人口当たりの新規感染者数を比較しても、スウェーデンだけが感染を抑え込めていないことは明らかです。

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※6/15と22の急減・急増は上記の休暇と補正のせいです。

そもそも抑え込もうとしていないのですから当然の結果ですが、WHOはヨーロッパ地域で感染が拡大している11カ国のひとつとしてスウェーデンを挙げています。これは、OECD加盟国としても、EU加盟国としても唯一の国です。

4月末に書いた記事は、もともと感染対策リーダーのテグネル氏が首都ストックホルムで集団免疫の見通しを示したことがきっかけでしたが、そのストックホルムでも感染はおさまっていません

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もちろん、他の地域でも感染がおさまっているわけではありません。

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なお、感染者数が増加しているのに対して、死者数は減少しています。

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しかし、これは致死率の高い高齢者の感染が減ってきたためで(第25週の報告、p.7のFigur 2.を抜粋)、感染者数が減っているわけではありません。このまま減り続けるかどうかも分かりません。

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■孤立するスウェーデン
感染を抑え込むような自粛をしないことで経済が守られているなら、まだいいのですが、そうでもありません。前回の記事では、スウェーデン経済の見通しが決して明るくないことや北欧の隣国から国境開放を拒否されたり、観光客の受け入れを再開するギリシャから除外されていることを取り上げましたが、さらにEU域内での国境開放からもイギリスとともに除外されているようです。

この記事では「死亡率が高い英国とスウェーデン」という書かれ方になっていますが、人口当たりの死亡者数はベルギーがもっとも高く、フランスやイタリアもイギリスより高いことに注意してください。上記のヨーロッパ主要国における新規感染者の推移を見れば分かるとおり、イギリスは感染者の抑え込みが他国に比べて遅れていたのです。「イギリスはEUを離脱してるからじゃないのか」という声も聞こえてきそうですが、今年いっぱいは移行期間としてEU加盟国の立場が守られることになっていますし、そのイギリスも最近では感染者を抑え込んできましたから、このまま抑え込みが続けば(移行期間のうちは)交流再開の可能性もあるでしょう。しかし、スウェーデンは方針を変えない限り、拒否され続けるのではないでしょうか

EU渡航制限はEU域外に向けても解除する方向で調整が進んでいます。その中には日本をはじめ中国や韓国など、感染を抑え込んだ国が含まれています。一方、アメリカやロシアなど、いまだ感染を抑え込めていない国は含まれていません。

もし、日本がスウェーデンのマネをしていたら、そうした交流の対象に入れてもらえなかったでしょう。スウェーデンを持ち上げる人たちは経済面を強調していることが多いのですが、日本はそうした国際交流から除外されて経済的にやっていけると考えているのでしょうか。
経済、経済とうるさい人たちが「経済ダメージによる自殺者の増加」を煽っていたのも忘れられません。しかし、警察庁が公表している現在までの自殺者数を見る限り、2月以降の自殺者数は過去5年間のどの年よりも減っています

西浦博氏の「死者42万人予測」について「何もしなければ」という前提を抜かして「嘘だった」と批判する人たちは、「自粛により自殺者が増える」と煽ったことについて「実際に強い自粛があったのに自殺者が減った」という事実を振り返って反省できるのでしょうか。

新型コロナ:ファクターX

※2020/7/1。オルタナティブブログはコメント機能が無効化/非表示になりました。少し前までの過去コメントは archive.org で参照できる場合があります。

■ファクターXとは
日本では新型コロナの感染者数や死亡者数がについて欧米に比べて少ない、という事実があります。日本は検査数が少ないだけで実数は多いのだ、と主張する人もいましたが、厚生労働省が行った無策抽出による抗体検査の調査結果や、ソフトバンクが社内や関連企業向けに行った抗体検査の結果でも、検査キットや調査の精度が気になるくらいにしか陽性者はいませんでした。感染から数か月すると抗体が減り始めるという中国の研究はありましたが、日本での感染者が急増しはじめたのは3月下旬ですし、他国での抗体検査の結果と比較しても、もはや疑う余地はありません。

日本が、中国や韓国のようなプライバシーに踏み込んだ監視体制を取ることもなく、欧米より規制が緩やかだったのに、このような成功をおさめられた理由について、山中伸弥氏が「ファクターX」と呼び、色々な候補を挙げられています。世界的に評価されている専門家が早くから対策を主導し、マスクや手洗いなど人々の公衆衛生意識が高かったこと、そもそも欧米のようなハグやキスといった生活習慣がないといったことは妥当な理由だと思います。一方、発端となった武漢で感染爆発が起きたことを思えば、人種やBCG接種などを(多少の影響があるとしても)大きな要因として考えることは難しいでしょう。

■対策が早かった
岩田健太郎氏は、ブログで「患者が少なかった。これが日本の対策がうまくいった最大の理由」と書かれています。ここだけ読むとトートロジーかと思う表現ですが、要するに早くから感染に気付いて対策したことで、感染者の増加を抑えられたということです。
日本でイベントの自粛要請が出された2月26日までの感染者数は164人です。この日にPerfumeEXILEのコンサートが中止されたように、この要請に応えて多くのイベントが中止されました。翌日には休校要請が出され、多くの学校は3月から休校しました。3月下旬には感染経路のたどれない弧発例が増え始め、緊急事態宣言こそ出ませんでしたが3月28日の首相会見以降、デパートや外食チェーンが休業しはじめました。この日までの感染者数は1499人です。その後、4月7日には一部で緊急事態宣言が発出され、その後全国に広げられました。

欧米でも、すべての国の感染状況がひどかったわけではありません。早くから感染被害が深刻だったイタリアをはじめ、スイスやフランス、ドイツ、イギリスなどでは、深刻な被害があった一方、少し離れた場所にあるギリシャや北欧は感染者が増える前から規制できたことで相対的には少ない被害で済んでいます。早くから感染が広まったイタリアでは、当初、行動制限しても人々が従ってくれないといった報道もありましたが、自国で感染が広がる前に他国の(悪い)状況を見ることで効果のある規制ができたということもあるでしょう。アメリカの状況が悪いのは、(トランプ大統領NSCパンデミックチームを解雇していたことはさておき)CDCが配布した検査キットが不良品で感染実態を掴めず対策が遅れた面が大きいでしょう。

日本が早々と自粛要請を出した背景には、まだ延期の決まっていなかった東京オリンピックの開催が危ぶまれていたこともあると思います。当時、ロンドン市長候補がオリンピックを東京で開催できないなら、代わりにロンドンで開くことができると訴えていたくらいです。場当たり的とも批判された対応でしたが、結果として早く対策する方が、早く感染を抑え込むことができたのは間違いありません。

なお、岩田氏のブログでは「ウイルスの突然変異」や「日本人に特有の免疫機構がある」ことなどに確証的なデータがないとされる一方で、「重症化リスク、死亡リスクに血栓形成が寄与している可能性は高い」とも書かれています。「動脈の病気も日本人などアジア人では欧米より少ない傾向」が人種の問題なのか、食習慣など外的要因によるものなのか分かりませんが、「新型コロナは「血管の病気」」という報道もありましたから、この影響はありそうです。ただ、最初に都市封鎖した武漢での人口百万人あたりの死者数が350人と欧米並になったことを思えば、放置しても大丈夫と言えるほどの効果はなさそうです。

厳しい規制をしていないスウェーデン(百万人あたり507人)より、ベルギー(同838人)の方が人口当たりの死亡者数が多いので、規制は逆効果なのだという人まで出てくる始末ですが、スウェーデンの中でも首都ストックホルムに限れば百万人あたりの死者数は920人にも及びます。岩田氏のブログにも書かれていた通り、規制と感染者増のペースが落ちるタイミングが何週間かずれるだけで規制に効果があるのは間違いありません。しかし、感染者が増えない理由を対策の早さだけに頼ることはできません。国全体で考えれば、スウェーデンよりベルギーの方が人口あたりの死亡者数は多いのは事実です。

■人口密度
ひとつのカギとなるのが人口密度です。別記事でも「田舎は感染者が増えにくい」として取り上げましたが、名古屋工業大学のグループがまとめた報告にも「人口密度が高い地域ほど流行が収束するまでの期間が長くなり、感染者や死者の数も増える傾向にある」とあるそうです。日本では「接触機会を8割減らす」ことが話題となりましたが、これはあくまで相対的な計算上の話であり、人々の接触機会は地域や職種で大きく異なります。もともと接触機会が多い地域の方が感染が広がりやすいというのは直観的にも理解できることです。日本で人口の11%しか占めない東京都が感染者の3割以上に及ぶのも、人口密度が高いなど接触機会の多い"大都市"であることと無関係ではないでしょう。

各国から報告される数字は、必ずしもすべての感染者をあらわしたものではありません。たとえば、スウェーデンの週報には「初期には入院が必要な人だけを検査し、5月5日からは症状のある人を検査するようになり、6月からは保健所経由で検査するようになった」とあります。国によっても検査基準は違いますし、死亡者が見逃されている国もあるでしょう。ですから、報告されている数字だけですべてを判断できない面はありますが、明らかに規制や人口密度だけでは説明できない"例外"があります。

シンガポールでは42313人の感染が確認されているのに死者は26人だけです(致死率=0.06%)。カタールでも感染者は88403人いるのに、死者数は99人です(致死率0.11%)。ベトナムの感染者が少ない(死者はゼロ)のは厳しい対策で感染者を抑制したためですが、あのウエステルダム号を受け入れたカンボジアは、一般的な衛生対策が推奨されただけで、外出制限のような厳しい規制が敷かれたわけではないのに、感染者は少なく死者はゼロです。カンボジアの医療が高いレベルにあるとは言えないでしょうが、検査をしていないわけではありません。worldometerの最新情報では32281件の検査をしています。

■高齢者の割合
理由として考えられるのが高齢者の割合です。すでに高齢者の致死率が高いことは分かっていますが、イタリアでは死者の96%が高血圧、糖尿病、心臓病といった基礎疾患を持っており、平均年齢は約80歳だったという報告もあります。本来なら基礎疾患のある人の割合の方がより適していると思いますが、そういう情報が分からなかったので、ここでは高齢者の方が基礎疾患のある人が多いだろうと予測して、人口当たりの死者数の多い順に高齢者(70歳以上)の占める割合を調べてみました。

 

死者数(*1) 70歳以上(*2)
ベルギー 838 13.8%
イギリス 628 13.7%
スペイン 606 14.8%
イタリア 573 17.5%
スウェーデン 507 15.1%
フランス 454 14.9%
アメリ 371 11.2%
オランダ 356 14.2%
アイルランド 348 9.9%
ペルー 249 5.6%

*1 人口百万人あたり
*2 国連の推定値(2020年)

感染者数が多いのに死者数の少ないシンガポールでは高齢者は7.3%です。そしてシンガポールで感染が広がったのは、狭い寮に住む外国人労働者であり、彼らの年齢が若いからこそ死者数が少ないと推察できます。カタールの高齢者率はわずか0.7%です。規制の緩いカンボジアも2.3%です。

また、押谷守氏によれば

ウイルス排出量が多い場合、他の人に感染させる可能性が高くなる。このウイルス排出量は「重症度ではなく年齢に関係する」と押谷教授は語る。

そうです。Lancetの記事でも

"Older age was correlated with higher viral load"
(年齢が高くなるほどウイルス量が増える)

とあります。つまり、高齢者の割合が少ないということは致死率の高い人が少ないだけでなく、感染力の高い人が少ないことになり、感染の広がる力が弱いと推察できます。もちろん、死者の平均年齢が80歳だからといって若い人が死なないわけでも、若い人だけなら感染しないというわけでもありません。規制緩和後の東京で、"夜の街"を中心に若い人の感染が増えているとも報じられています。

もともと日本は高齢者人口が21.8%とダントツに多いのですが、死者数は百万人あたり8人です。高齢者の割合が多い国は主に先進国ですし(スウェーデンを除いては)どこも何らかの規制をしています。つまり高齢者の割合が多くても規制によって感染を抑え込むことはできますが、高齢者人口の少ないところでは規制が弱くても感染が広まりにくいという傾向があるようです。

■未知のファクターX
スウェーデンを除けば、感染を抑え込むほど行動規制していない国は、ほとんど経済状況が規制を許さないところです。それでもブラジルの感染者数が多いのは、それだけ検査をしているということです(陽性率が44%にもなるので決して十分に検査されているわけではないでしょうが)。強く規制をしていなくて、検査をしていて、感染者が増えていないところは限られていて、そこには人口密度や高齢者率といった理由があります。そもそも各国の感染状況は規制の時期や内容に大きく左右されるため、"規制"を抜きにして感染を語ることはできません。そうしたものを除けば、感染を抑え込めるほどの「ファクターX」で確証が取れているものは今のところありません。

にもかかわらず、日本での結果だけを見て「日本は規制しなくても感染を抑える未知のファクターXがある」とか「規制は間違いだった」ということはできません。武漢で感染が広がったこと、ダイヤモンドプリンセスの状況を思えば、規制せずにやりすごせた可能性はありません。高齢者を引きこもらせて、人々が自主的に感染が広がらない行動しましょう、という緩いアプローチを取ったスウェーデンは、人口一千万人に対して死者5161人にもなり、日本人口に単純換算するだけでも死者6.3万人、年齢構成で重みづけすると10万人を超えることになります。もちろん、それを理解した上で、それでも「どれだけ人が死のうと経済を守ることが重要」と主張することはできますが、それが多数に支持されることはありません。そもそも感染を抑え込まなければ、国際交流が規制され続けることになり、経済再生が見込めない可能性が高くなります。

そろそろ現実を直視していい時期です。

Zoom.comは200万ドル

たまには、新型コロナに関係ない話題を取り上げましょう。もっともまったく無関係というわけでもありません。新型コロナ対策で急成長しているテレワーク市場で人気のZOOM(Zoom Video Communications Inc.)ですが、名前がそっくりの株式会社ズームの株価が急騰したという話題がありました。株式会社ズームのお問い合わせページには「当社はWEB会議サービスの「Zoomミーティング」とは何ら関係ありません。ご注意ください。」と呼びかけられていますが、ドメインが「zoom.co.jp」ですから誤解を招くのもしかたないかもしれません。ビデオ会議のZOOMの公式サイトは「zoom.us」ドメインが使われています。

実は、海外でも同じようなことが起きていました。"Zoom confusion leads SEC to halt trading for Chinese company"という記事によれば、ビデオ会議のZOOMが話題になり始めた3月下旬に、中国企業のZoom Technologiesの株が急騰し、アメリカの証券取引委員会が取引を停止したそうです。

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ここまでなら、「よく調べてから投資しなさいよ」という話なのですが、ちょっと調べてみると面白いことがわかりました。毎週、高額なドメイン取引のランキングを紹介しているDNJournalによれば、公開された取引ではないものの、Zoom Video Communications Inc.が2019年1月末までの会計年度でZoom.comを購入したことが確認できたそうです。実際、zoom.comにアクセスすると、zoom.usに誘導されます。報告書には"purchases of intangible assets of $2.0 million"(200万ドルの無形資産の購入)として計上されている部分は正確には$2,018,000であり、これは「200万ドル」という対価と、escrow.comの手数料17,800ドルのことだろうと推察されています。そして、zoom.comの過去の使用者を調べてみると、それが Zoom Technologies だったようなのです。

かつてMercury Interactiveが、Mercury.comというドメインをMercury Technologiesという会社から購入したことがありました。この時の価格は70万ドル(+40万ドル分のソフトウェア使用権など)ということでしたが、このように"使っているドメイン"を入手するのは、"とても高くつく"ことになります。もっとも、その Mercury.com も Mercury Interactive が HP に買収された後、別の会社に売却されたようです。

新型コロナ:スウェーデンは成功したのか

※2020/7/1。オルタナティブブログはコメント機能が無効化/非表示になりました。少し前までの過去コメントは archive.org で参照できる場合があります。

スウェーデンの集団免疫策
この記事から1カ月経ちました。この時点で2355人だった死者数は、4395人にまで増え、単純に日本人の人口に換算したら約3万人だったものが今では87%も増えて約5.5万人相当です。日本は致死率の高まる高齢者人口が多いので、先の記事のように年齢人口で重みづけすると約8.5万人相当に及びます。

こうした状況ですから、かつて「日本もスウェーデンを見習うべき、彼らは乗り越えて勝利した」と言っていた人たちも、スウェーデンについて語らなくなりました......と思いましたが、そうでもないようです。「スウェーデンの集団免疫、いよいよ「効果アリ」の声が聞こえてきた」(現代ビジネス)という記事では、スウェーデンの集団免疫策を肯定的に紹介しています。しかし、今のところ集団免疫を獲得しそうと発表されているのはストックホルムだけです。ヨーロッパの他国より低いと書かれている人口当たりの死者数について、そのストックホルム(Stockholm、人口238万人)では現時点で2055人で、100万人あたりでは863人となり、最も死者率が高いと紹介されているベルギーの816人を上回っています

スウェーデンを見習うべきだという人は、日本で数万人規模で死者が出ても「経済を思えば、割り切れる人数」と主張するのでしょうか。スウェーデンでは、延命治療もせず、自力で食事できない人は介護も打ち切られるほど"割り切った"国です。その分、少子化もしておらず、高齢者の比率は日本に比べてずっと低いのですが、そういう国のマネが日本にできるでしょうか。そもそも、その人たちはスウェーデンの死者数が何人くらいに収まると思っているのでしょうか。

付け加えるなら、集団免疫策が有効なのは抗体を獲得した後の免疫力が続く間だけです。その免疫力が数年、あるいは数か月で切れてしまうなら、その後で、ふたたび感染が広まることになります。獲得した免疫がどれくらい維持されるのか、たしかなことは分かっていません。集団免疫策は、本当に有効な対策なのでしょうか

■感染者の推移
集団免疫を獲得しつつあるなら、感染者の増加は低いレベルに収まっているはずです。スウェーデンの感染者の増加を1週間単位でグラフにしてみます。(日別だと曜日によって報告数にムラがあるため)

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たしかに4月半ばに比べれば多少減っているかもしれませんが、それほど落ちているようには見えません。人口一千万の国で今なお1日あたり500人近くの感染者が増えているということは日本の人口ならば1日6000人ずつ感染者が増えていることに相当します。それこそが死者数が多い理由でもありますが、もしそんな状態が日本で続いていたら、間違いなく国民の反発を浴びるでしょう。
現代ビジネスの記事にあったヨーロッパの他の国(ベルギー、スペイン、イタリア、イギリス、フランス、オランダ)とも比較してみます。ここは人口100万人当たりの週ごとの感染者数です。当然のこととはいえ、他国が感染を抑え込んだため、このところはトップになっています。

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さて、ストックホルムが集団免疫を獲得しつつあるのに、スウェーデン全体の増加ペースがあまり落ちないのはなぜでしょうか。まず、ストックホルムだけの感染者をグラフにします。

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4月半ばがピークで、以後は下がっています。ただ、最近は横ばいのようで、ストックホルムだけで毎日100人以上(東京の人口に換算すれば1日約600人)も感染者が増えています。そもそも集団免疫を獲得する程度に感染が広がっているなら、検査が全然追いついておらず、実際の感染者数はもっと多いでしょう。死者数/感染者数が11.8%と高いことからも推察できます(日本は5.3%)。一方、今月22日にはストックホルムでの抗体保有率が7.3%という報道がありました。ほんとうに集団免疫を獲得しつつあるのでしょうか。

さらに気になるのは他の地域です。 

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スウェーデン第2の都市・ヴェストラ・イェータランド(Västra Götaland、人口173万人)は今月半ばがピークだったようですし、第3の都市・スコーネ(Skåne、人口134万人)はこれから感染者が増えそうです。これが、スウェーデン全体でなかなか感染者の増加ペースが落ちない理由でもあるでしょう。早くから首都で感染が広まっていたのが、これから地方に広まろうとしているということです。

■田舎は感染者が増えにくい
少し望みのある話もしましょう。スウェーデンは日本よりも国土が低いのに人口は10分の1以下ということです。人口密度が低いということは、もとから接触機会が少ない(可能性が高い)ということでもあります。

新型コロナの深刻な影響を受けているアメリカでも、すべての州で外出禁止令が出されたわけではありません。惨状といってもよいニューヨーク州では、休校や集会禁止、外出禁止、ほとんどの業種を閉鎖といった厳しい措置にもかかわらず、人口100万人あたり1533人が死亡しています。

一方、ワシントン大学による推測グラフでノースダコタ州を見てみると、教育機関や外食など一部の産業は閉鎖しているようですが、集会や外出禁止、移動制限などはないようです。それでも、感染者は急増しているわけではなさそうですワイオミング州では教育機関や一部の産業に加えて、集会の規制はあるようですが、やはり外出禁止や移動制限はないようですが、こちらも感染者は落ち着いています

(私が"村"出身ということもありますが)そもそも田舎には外食店も、ライブハウスも、夜のお店も(あんまり)なく、ましてイベントの機会なんかありません「都会で接触機会を減らす」というのは、「田舎のように暮らせ」ということみたいなものであると思うと、田舎はそもそも感染が広まりにくいのです。ですから、ストックホルムがニューヨーク程度になる可能性はあっても、人口密度の低いスウェーデン全体が同じような状況にはならない可能性はあります。もっとも、感染を抑え込もうとしていない以上、ある程度の感染は継続するでしょう。

スウェーデンの経済
さて、このように緩い自粛ですませてきたスウェーデンの経済は、強く規制した他の国に比べて明るい未来が待っているのでしょうか。Financial Times の "Sweden unlikely to feel economic benefit of no-lockdown approach"(スウェーデンの都市封鎖なしの手法は経済的利点を感じられそうにない)という記事から引用します。

"The Riksbank, the country's central bank, has an even gloomier outlook, estimating that GDP will contract by 7-10 per cent, with unemployment peaking at between 9 and 10.4 per cent. These are disastrous figures for the Scandinavian country."
「国の中央銀行であるリクスバンクは、GDPは7~10%縮小し、失業率は9~10.4%に達すると予測しており、さらに暗い見通しを示しています。これはスカンジナビアの国としては悲惨な数字です」

国際化が進んだ現代において、経済が世界と切り離せる先進国なんてありませんスウェーデンでも自動車産業ではリストラが相次いでいるそうです。欧米のジョブ型雇用と日本のメンバーシップ型雇用の違いが大きいとはいえ、規制を緩めたら経済の落ち込みを防げるというのは幻想でしょう。

"Sweden's death toll unnerves its Nordic neighbours"(スウェーデンの死者数は北欧の隣国を不安にさせる)こういう記事には、このようにも書かれています。

Denmark, Finland and Norway are debating whether to maintain travel restrictions on Sweden but ease them for other countries as they nervously eye their Nordic neighbour's higher coronavirus death toll.
デンマークフィンランドノルウェーは、お互いの国どうしでの渡航制限を緩和するのに、北欧の隣国であるスウェーデンにおいてコロナウイルスの死者数が多いことに神経質になっており、渡航制限を維持することを議論しています」

せっかく自国が苦労して感染を抑え込んだのに、その苦労をしていない他国から感染者がやってくることで努力を無に帰すようなことになるのは避けたいと思うものでしょう。

感染が大きく広まる前から対策することで比較的少ない影響で済ませたギリシャは、来月から日本を含む29カ国の観光客受け入れを再開するようです。

対象国には、ドイツ、オーストリアデンマークノルウェー、スイスなど欧州の一部ほか、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなどが含まれる。

デンマークノルウェーが含まれているのにスウェーデンは含まれていないのも、しかたがないでしょう。当のスウェーデンは、伝染病の恐怖による"差別"と戦うつもりだそうですが、果たしてうまくいくでしょうか。中国は、すでに韓国からのビジネス目的の入国を認めて正常化を進めようし、日本にも打診があったという報道がありました。日本が感染を抑え込んでいなかったら、そうした話も出てこなかったのではないでしょうか。

スウェーデンのような緩い自粛による集団免疫策は、本当に"経済的な成功"をもたらせるのでしょうか。ワクチンや特効薬など、事態を一変させるようなことがあれば別ですが、そうでなければとても私には信じられません。

※2020/6/2 最新情報に合わせてグラフを修正し、ゴミを除去し、若干大きくしました。

新型コロナ: アメリカCDCが発表した致死率0.26%の衝撃

※2020/7/1。オルタナティブブログはコメント機能が無効化/非表示になりました。少し前までの過去コメントは archive.org で参照できる場合があります。

■致死率0.26%
スウェーデンの状況も気になりますが、少し驚く報告がありました。アメリカCDCが"COVID-19 Pandemic Planning Scenarios"という新しい情報を公開しました。その推定によれば感染者全体に対する致死率が0.26%であると話題になっています。これは有症状者の致死率0.4%に加えて無症状者が35%いるという想定(つまり0.4%×65%)によるものです。CDCは3月には致死率1.8~3.4%と推定していましたので、桁違いに低い推定値になっています。医学雑誌「ランセット」は、無症状者がいるので初期に予想された致死率よりも低く0.66%程度になるという推定をしていたものの、それよりもずっと低い値です。

これは5つのシナリオのうち"Current Best Estimate"とされるシナリオ5によるものですが、実は他のシナリオを見ると致死率の推定値がもっと低いものがあります。以下に致死率と無症状者の割合を抜粋します。(確率はパーセント形式に修正しています)

パラメータ 年齢 シナリオ1 シナリオ2 シナリオ3 シナリオ4 シナリオ5
症状者の
致死率
0~49 0.02% 0.02% 0.1% 0.1% 0.05%
50~64 0.1% 0.1% 0.6% 0.6% 0.2%
65~ 0.6% 0.6% 3.2% 3.2% 1.3%
全体 0.2% 0.2% 1.0% 1.0% 0.4%
無症状者の割合 20% 50% 20% 50% 35%

 

シナリオ1と2では有症状者の致死率がわずか0.2%、しかもシナリオ2では無症状者が50%いることになっているので、感染者全体の致死率は0.1%となります。シナリオ3でも感染者全体の致死率は0.8%で、このシナリオだけがランセットの推定値(0.66%)を超えます。別記事で取り上げましたがインフルエンザの致死率が0.1%だそうですから、最も低い推定値どおりであれば致死率はインフルエンザ並ということになります。

■低い致死率に対する疑問
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」では、乗員・乗客3711人を全員検査し、陽性者が712人(うち無症状者331人)、現時点での死亡者14人(オーストラリア帰国後の死亡者を含む)であることが判明しています。高齢者の致死率が高いと言われているとおり、すべての死亡者は70歳以上ですが、全体を分母としても致死率は2.0%有症状者(712-331=381人)を分母とするなら致死率が3.7%になります。クルーズ船の死亡者が全員70歳以上であるという年齢を考えても上記の表のどれにもあてはまらないくらい高い値ということになり、実は「日本人は死にやすい」のではないか、ということになってしまいます。

そうではないでしょう。世界中で最も新型コロナの状況が悪いのはアメリです。アメリカのいくつかの州では、すでに"人口"に対する死者数が0.1%を超えていますニューヨーク州=0.15%、ニュージャージー州=0.13%、コネチカット州=0.11%、マサチューセッツ中=0.10%です。感染者全体に対する致死率が0.1%なのであれば、全員が感染していたとしても足りません。さらに、クオモ知事のツイート(5/3時点)によればニューヨーク市での抗体検査の結果は19.9%、その他の地域も2割前後です。この時点でニューヨーク州の人口当たりの死者数は0.1%を超えていましたし、そもそも、この抗体検査は(無作為抽出ではなく)ボランティアで行われているため検査してほしい(おそらく感染の確率の高い)人が集まりやすい可能性もあります。都市部で肥満や基礎疾患を持つ人が多いという可能性を否定するわけではないですが、それでも"死にやすい人"がそこまで偏って集まっていたというのは、ちょっと信じがたい話です。

スウェーデンの状況については改めてまとめたいと思いますが、先月末には「ストックホルムでは集団免疫を獲得しつつある」と発表したにもかかわらず、先週発表された抗体検査の結果が7.3%でした。「抗体ができるまでの時間を考えると、予測との差はあまりない」と言っているようですが、現在の死者数4266人に対して致死率0.26%なのであれば感染者は164万人、致死率0.1%であれば感染者は427万人となります。新型コロナは感染して即死するわけではないので、死者数の増加は感染者数よりも遅れているはずですから、人口一千万人の国なら本当に集団免疫が獲得されていてもよさそうなくらいです。しかし、スウェーデンの最新の報告による週ごとの感染者数を見る限り、感染者の増加がおさまっているようには見えません。そもそも、そんなに大量の感染者がいるなら、まったく検査が追い付いていないということにもなります。抗体検査の結果はストックホルムより他の都市の方がずっと低い値でしたから(スコーネでは4.2%、ヴェストラ・イェータランドで3.7%)、地方への感染はこれから進むとも予想されます。

感染者数
4~8(-2/23) 1
9(2/24-3/1) 13
10(3/2-8) 211
11(3/9-15) 835
12(3/16-22) 911
13(3/23-29) 1943
14(3/30-4/5) 3211
15(4/6-12) 3711
16(4/13-19) 3741
17(4/20-26) 4171
18(4/27-5/3) 3704
19(5/4-10) 4028
20(5/11-17) 3652

 

■CDCの報告は何を意味しているのか
シナリオのパラメーターは「公衆衛生の準備と計画を目的とした推定であり、新型コロナの起こりうる効果を予測したものではなく、行動の変化や社会的距離、その他の介入による影響を反映していない」そうです。決して英語が得意なわけではないので読み取り足りないところがあるのかとも思いましたが、それでも、この推定は上記の疑問に答えてはくれません。これがトランプ大統領の雇った外部機関なのであれば「経済を再開させたいがために、わざと低い致死率を推定させている」と思うところですが、一度は不良品の検査キットを配ってしまったCDCにとって、そんな失態は避けたいはずです。そもそも、この推定が事実なら大手メディアがこぞって取り上げそうなのに、意外にそうした記事が見当たりません。

......と思っていたのですが、BuzzFeed.Newsに"The CDC Released New Death Rate Estimates For The Coronavirus. Many Scientists Say They're Too Low."(CDCが新型コロナウイルスに対する新しい致死率を発表。多くの科学者が低すぎると言っている)という記事がありました。

"New CDC estimates of coronavirus death rates look suspiciously low and present almost no data to back them up, say public health experts who are concerned that the agency is buckling under political pressure to restart the economy."
新型コロナウイルスの致死率に関するCDCの新たな推定値は疑わしいほど低く、それらを裏付けるデータはほとんどない、と公衆衛生の専門家は語り、この組織は経済を再開させる政治的な圧力の下で捻じ曲げられたのではないかと懸念しています

トランプ大統領から「経済が再開できないのは不良品の検査キットを配ったオマエラが悪い、再開させる材料をよこせ」とでも脅されたのでしょうか。そうだとしたら、まさに「衝撃」ではあります。

新型コロナ: スウェーデンに学ぶ新型コロナ対策

※2020/7/1。オルタナティブブログはコメント機能が無効化/非表示になりました。少し前までの過去コメントは archive.org で参照できる場合があります。

スウェーデンと集団免疫
新型コロナに関しては、ほとんどの国で感染拡大を防ごうと外出禁止のような厳しい規制をかけている中、手洗いを奨励したり、高齢者との接触を抑止する程度で、厳しい規制をかけていないのがスウェーデンです。「スウェーデン、集団免疫に見通し」(共同通信)によれば、「同国首都では今後数週間以内に「集団免疫」を獲得できる、との見通し」が示され、スウェーデン政府の感染対策リーダーであるアンデシュ・テグネル氏によれば「ストックホルムでは既に25%が感染して免疫を獲得したとの見解が表明」されました。
※2020/5/10重要な追記。コメント(2020/05/09 21:58)で教えていただきましたが、この「25%」という感染率は、PCR検査や抗体検査の標本調査などを行ったものではなく、数理モデルによる予測値とのことです。この研究によれば、ストックホルムでは感染のピークは4月中旬にあらわれ、5月には落ち着き始めると予測されています。行政が、このような予測値を公式の発表とすることは驚きです。地域別に確認されている感染者数はこちらで参照でき、5/8時点の情報としてストックホルムの感染者数は9227人(全体の36.5%)です。スウェーデン全体の死者数(現在3220人)と致死率などから逆算すると、ストックホルムでの感染率が予測値通りに進行している可能性は否定できないものの、発表された感染率が標本調査のような結果でないことはご留意ください。

スウェーデンの人口は1022万人で現在確認されている感染者数は19621人(4月28日時点)ですが、人口96万人のストックホルムで25%が感染しているということは感染者数は最低でも24万人ということになり、まったく感染者の実態を追跡できていなかったということになります。NHKおはよう日本」では「他の国のような感染の爆発的拡大は起きていません」と伝えていましたが(NHKプラスで見逃し視聴できます、48:08~)、とっくに感染が広がっていたということです。
※どのような検査による判断なのか分からないですし、そもそも抗体を持っても免疫を獲得できるとは限らないという指摘もありますが、その点は脇に置いておきます。

これは悲報ではありません感染者が多いのに死者数が少ないのであれば、結果として致死率が下がるため、それほど怖がる必要がなくなるかもしれないということだからです。集団免疫を獲得するまでの「今後数週間」が具体的にどれくらいの期間なのかは分からないですが、スウェーデンの感染者数は1カ月前には3447人(3月28日時点)であり、この1カ月で5倍以上に急増したことを思うと、集団免疫を獲得する感染者率が50%(※)だとしても、それほど時間はかからないのかもしれません。
※フランスの原子力空母では乗組員2300人のうち半数が陽性反応が出たことが報じられています

■年齢と死者数
スウェーデンの死者に関する年齢別データがこちらで参照できます。現時点の死者は20代が5人、30代が8人、40代が25人、50代が81人、60代が185人、70代が549人、80代が938人、90代が564人、計2355人となっています。70代以上が87%を占めており、やはり高齢者にとってハイリスクな感染症であることがわかります。
もともとスウェーデン寝たきりになってまでの介護をせず、自分で食事ができなければそれまでという国で、延命治療もされません。worldometerによれば「感染終了(CLOSED CASES)」の3360人のうち、「回復(Recovered)/退院(Discharged)」が1005人(30%)に対して、「死亡(Deaths)」が2355人(70%)と非常に高い割合です。感染者全体に対する「重症(Serious)/重篤(Critical)」の割合は決して高くないのですが(現時点で3%)、高齢者に対しては積極的な治療が行われていないということかもしれません。今のところスウェーデン医療崩壊しているような報道はありません。

スウェーデンの状況をブログに書かれているglobaljourneyさんによれば、そもそも「慢性閉塞性肺疾患BMIが40以上の人、中毒患者、ペースメーカー利用者など、1つまたは複数の深刻な全身性疾患のある患者には、集中治療室での治療を施すべきではないというガイドライン」が出されているそうです。日本では考えにくいことですが、重症化しやすい(あるいは救命しにくい)人を積極的に治療をしないことは医療崩壊対策になりそうです。

■日本との人口比で考える
こちらにあったスウェーデンの年齢別人口構成を日本の最新の人口構成に合わせて計算してみます。2020は予測値で実数とは若干ずれがありますが、ご容赦ください。

年齢 スウェーデン
人口(万人)
死者数
(実数)
割合 日本人口
(万人)
死者数
(換算値)
人口あたりの
死亡率
20代 131 5 0.2% 1266 48 0.0004%
30代 135 8 0.3% 1414 84 0.0006%
40代 129 25 1.1% 1837 356 0.0019%
50代 130 81 3.4% 1639 1021 0.0062%
60代 111 185 7.9% 1588 2647 0.017%
70代 99 549 23.3% 1615 8956 0.055%
80代 44 938 39.8% 906 19314 0.21%
90以上 10 564 23.9% 241 13592 0.56%
合計 1029 2355 100% 12596 46018 0.037%(日本)※

 

※2020/4/30追記。
換算人数は各年代ごとのスウェーデンにおける致死率を日本の年代人口と乗じたもので、日本はスウェーデンに比べて少子高齢化が進んでいるため相対的に高齢者の死者数が多くなります。現在のスウェーデンの人口当たりの死亡率は0.023%(=2355/1022万人)です。

スウェーデンで高齢者が積極的に治療されないために死亡率が高くなることは、少子高齢化が進む日本での死者数を多く見積もらせる要因になっていることから、60代以下の死者数(スウェーデン=304人、日本=51人)の比率を、現時点の高齢者の日本の死者数(70代=77人、80代以上=147人)に適用してスウェーデンの調整した死者数とした場合、70代=451人、80代以上=862人となります(表内の(*)印)。この数値を使った表も以下に示します。(以下の本文でも調整値について追記しています)

年齢 スウェーデン
人口(万人)
死者数
(※上記)
割合 日本人口
(万人)
死者数
(換算値)
人口あたりの
死亡率
20代 131 5 0.3% 1266 48 0.0004%
30代 135 8 0.5% 1414 84 0.0006%
40代 129 25 1.6% 1837 356 0.0019%
50代 130 81 5.0% 1639 1021 0.0062%
60代 111 185 11.5% 1588 2647 0.017%
70代 99 451(*) 28.0% 1615 7357 0.046%
80代以上 54 862(*) 53.5% 1147 18310 0.16%
合計 1029 1612(*) 100% 12596 29823 0.024%(日本)※

(追記終わり)

現在のスウェーデンの死者数を日本の人口に当てはめて考えると死者数は5万人弱(調整した値で約3万人)というところです。別記事では致死率2%と計算していたのに桁違いに割合が低いじゃないかと怒らないでください。これは、現時点での人口に対する死者の割合であり、スウェーデンの全人口に対してどれだけ感染者がいるかは分かっていません。首都のストックホルムで25%ということなら地方ではもっと割合が低いでしょう。それこそ全国での平均感染率が10%くらいなのであれば、ざっと感染者に対する致死率は10倍ということになりますし、これから死者が増えればさらに割合は高くなります。

もっとも、感染者に対して2%の致死率というのは高い見積もりだったかもしれません。ニューヨーク州での抗体検査では、14%で抗体が確認されたと報道されましたニューヨーク州での現在の死者数は人口の0.12%ですから、集団免疫を獲得すると言われる50%まで増えるとして計算すると単純計算で人口に対する死亡者は0.42%(感染者に対する致死率は1%未満)になります。

■「スペインかぜ」との比較
新型コロナは100年前の「スペインかぜ」と対比されることもありました。wikipedia を見ると、スペインかぜでは世界中で1700万~5000万人が死亡し、1億人に及んだ可能性もあるそうです。Our World in Dataに、各国の寿命を示すグラフがあり、どの国も年を追うごとに伸びているのですが、1918年前後だけ10年近くも寿命が縮んでいます。スペインかぜは若年層の死者が多く半数が20~40歳の間だそうですから、寿命に与えた影響も大きかったのでしょう。

それに比べれば新型コロナの犠牲者は高齢者の比率が高いので、寿命に与える影響もわずかと思われます。ざっくり人口の1%が10歳早く死亡したとしても、平均寿命が0.1歳縮まる程度ですから、年ごとの平均寿命の伸びよりも小さいくらいです。スペインかぜとは比べるようなものではありません。

■現在進行形という意味
いかがでしたでしょうか。規制のないスウェーデンの現状を見る限り、新型コロナは決して恐ろしいものではありません。

 

......そんな締めくくり方をするわけがありませんね。そもそも、今見ているスウェーデンの数字は、決して「終わった数値」ではありません。新型コロナは感染したら即死するというものではありません。訃報が伝えられた岡江久美子さんの場合、発熱が3日、感染が確認されたのが6日で、23日に亡くなられたそうです。今すぐ感染者の増加がゼロになったとしても、これから死者数は増えていき、減ることはありません。スウェーデンの感染者数がこの1カ月で急増したことを考えても、死者数が倍増するくらいはあり得ると考えています。もっとも、実はNHKの番組で「死者が減り始めています」と伝えられていました。たしかに日によって差はあるものの、感染者が増えているのに死者数が増えないなんてことがあるのか、ちゃんと検査されて確認されているのか少し疑問はあります。

いずれにせよ首都での感染者率が25%なのであれば、集団免疫を獲得するまで"これから"感染者が倍増するということです。地方の感染者率が低いのであれば、もっと増えることになります。最終的な死者数が今の何倍かになっても何の不思議もありません。これまでの感染者に対して倍増、さらにこれから倍増するであろう感染者の分を合わせて4倍増としても18万人(調整した値で12万人)が死亡する計算になります。西浦博氏の推測した42万人の半分以下ですが、これは"少ない数値"でしょうか。これで収まるでしょうか。

スウェーデンは積極的な治療をしないから致死率が高いのであって、日本はそんなことにはならない、という話は現実味がないと思います。日本の医療が世界的に見てもリーズナブルかつ高度であることはいうまでもありませんが、すでに新型コロナ以外の治療にも影響が出ている状況で、医療機関から悲鳴が上がっています。通常の医療レベルが維持できていないという意味では、すでに医療崩壊しています。これ以上感染者が増えたら、十分な対応はできなくなるでしょう。何を考えているのか「防護服なしで治療すれば負担が減る」という声もあるようですが、そんな特攻隊のようなことを命じたら逃げ出す医者や看護師が続出して、いっそう医療崩壊が加速することは容易に想像できます。ここでは致死率しか計算していませんが、それ以上の割合で重症化はするのです。

スウェーデンも若い人には治療をしているでしょう。スウェーデンの死者のうち70歳以上は87%ですが、高齢者を救命している日本では70歳以上は81%です。若い人も一定の割合で亡くなるのです。そして日本はスウェーデンと違って死にゆく高齢者を見捨てるような社会ではありません。高齢者に対しても必要な治療や介護をする体制があり、世代を分断するような仕組みになっていません。

仮に国政を担う議員たちが「高齢者たちは変革を受け入れよう」などと言い始めたら、選挙で落選し、そのような政党は政権を失うでしょう。スウェーデンが特別なのです。"経済合理性"のために急にスウェーデンのマネをしようといっても、そんなことにはなりません。中国や韓国のように自粛によって感染を抑え込んでから、徐々に経済を再始動するしかありません。一刻も早く抑え込むためには、皆が協力してできる限り接触を避け、感染が広がらないようにすべきなのです

 

新型コロナ: 規制を解除したら経済は元通り動くのか

※2020/7/1。オルタナティブブログはコメント機能が無効化/非表示になりました。少し前までの過去コメントは archive.org で参照できる場合があります。

■「感染者も死者も絶対数は少ない」という主張
新型コロナ: 「インフルエンザでも人は死ぬ」との比較」で引用したアメリカCDCの数字をはじめ、新型コロナをインフルエンザと同じように考えてはいけないことは明らかですが、今なお、インフルエンザに比べて感染者や死者の絶対数が少ないことを理由に「数が少ないのに騒ぎすぎ」というコメントが相次いで寄せられるのは不思議でなりません。

いうまでもなく、絶対数が少ないのは自粛して感染の増加を抑止しているからです。3月9日に、アメリカのトランプ大統領次のようにツイートしました。

"So last year 37,000 Americans died from the common Flu. It averages between 27,000 and 70,000 per year. Nothing is shut down, life & the economy go on. At this moment there are 546 confirmed cases of CoronaVirus, with 22 deaths. Think about that!"
「昨年は37,000人のアメリカ人がインフルエンザで死亡しました。年間では平均27,000人から70,000人です。それでもシャットダウンされるものはなく、生活や経済は続いています。現在、新型コロナの感染が確認されているのは546人で、死者は22人です。それを考えてみてください!」

4月16日時点での日本の感染者は8582人、死者は136人です。日々、感染者は増加していますが、緊急事態宣言より前から強い自粛要請があったため、アメリカほどには増加していません。しかし、おそらく週末で検査数が減っているであろう日を除けば十分に感染者の増加ペースが下がってきたといえるほどではありません。

corona1.png

なにより、感染者数から回復者数を差し引いた「現在の感染者数(Active Cases)」が増え続けています

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すでに医療施設には余裕がなくなり、感染者が増加した都市部では感染者を隔離するために民間のホテルなどを借り受けているという状況です。そうした特別措置が必要なくなるほどに「Active Cases」が減らなければ、規制解除など夢です。

■感染はどこまで広がるのか
死者の絶対数が少ないのは、そもそも感染が広がっていないためです。日本で確認されている感染者は、人口の0.0068%だけです。一方、ニューヨーク州では人口の1.15%が感染しています。
自粛しないで放置したら、どの程度の割合まで感染が進むかは、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」が示してくれます。このクルーズ船では横浜を出発した初日(1/20)から感染者が乗船し、1月25日に香港で下船しました(この乗客の感染が判明したのは2月1日)、2月3日に横浜に入港し、2月5日に検疫が開始されるまでは、いわば無防備な状態でした。クルーズ船の乗員・乗客に対して検査が行われ、3711人のうち712人が感染が判明しています。これは全体の19.2%にも及びます

最近報道されていましたが、フランスの空母「シャルル・ドゴール」と護衛艦でも感染が広まったようです。検査を受けたのは1767人で、そのうち3分の2の結果が判明した時点で688人の感染が確認されています。残りが全員陰性だったとしても38.9%まで感染が広がっているということになりますし、残りの人たちが同じ割合で感染しているとしたら、半分以上にまで感染が及んでいたことになります。

感染症の「集団免疫」対策 なぜ英国は撤回したのか?」(NATIONAL GEOGRAPHIC)という記事では、(新型コロナが)「集団免疫を達成できる免疫獲得者の割合は人口のおよそ60%」と言及しています。感染を抑止しようとしない限り、それくらいの割合になるまで感染が広がる可能性がある、ということです。

西浦博氏が「新型コロナウイルスの流行対策を何もしないと、国内での重篤患者数が約85万人に上るとの試算」を公表されました。「重篤患者のうちほぼ半数の40万人以上が死亡すると予測している」そうです(※)。人口が日本の3倍にもならないアメリカではトランプ大統領が「対策をとらなかった場合、国内の死者数は150万~220万人に膨らむ恐れがある」と発表したことに比べればずいぶん控えめな数字です。
※中国での結果をもとに重篤患者の半数は助けられるという試算だそうですが、いくら同時でなくても85万人の重篤患者の半数を助けられるほど人工呼吸器や人工心肺(+医師)が充実している気はしません。

日本の人口と感染者率、現時点で推定される重症化率や致死率を考慮すればまったく大げさではありません。先月のアメリカを思えば、規制をしなければ感染者数が急増することは火を見るよりも明らかです。これまでの感染者数の推移から判断する限り、他人との接触を避け、強く自粛しない限り、この感染を抑えることができません

■集団免疫
集団免疫とは集団の一定の割合の人が免疫を持つことで新たな感染を生み出さないようになる状態のことです。感染によって抗体ができ免疫が生まれることが条件で、実際に感染するほか、集団に対するワクチン接種でも構成できます。ただし、現時点では十分に有効と確認されたワクチンはありません。そもそも免疫の仕組みすら明確に判明したわけではありません

どの国の感染者数も、あくまで検査で確認された数です。もし無症状者のような確認されていない(見えない)感染者が想像以上に多くいれば、集団感染(集団免疫)が構成できて感染が広がらないかもしれません(繰り返しますが、免疫がどのように有効かは未解明です)。最近、オーストリア政府が自国の状況を確認するために標本調査を行いました。

「無作為に選んだ国内に住む0歳から94歳までの1544人を対象にウイルスの遺伝子の有無を調べるPCR検査」によって「全体のおよそ0.3%が陽性と判定され」たそうです。人数にして5人程度の話なので、標本調査としては誤差の幅が大きくなりすぎるのですが、この時点でのオーストリアの感染者数が人口890万人に対して12200人(0.13%)ということを考えると、確認された感染者数の倍程度しかいない、ということになります。とても集団免疫が構成されたとはいえない状況です。

新型コロナの種類(変異)、BCG接種の有無、人種、生活習慣の違いなど、(早くから自粛が要請されてきたことを考慮せずに)日本の感染者数が抑えられていることに理由を与えようとされています。もしかすると本当に理由になっているものがあるかもしれませんが、「確定した情報は何もない」というのが現状です。

■規制を解除すれば経済は元に戻るか
世界には、新型コロナの感染が広まっても強く規制しない国がわずかにあります。日本も欧米の外出制限に比べれば緩い方ですが、ほとんど規制されていない国がスウェーデンです。スウェーデンの状況は、ときどき報道される程度で、あまり詳細に伝わってくることはありませんが、別記事にコメントされていたglobaljourneyさんが毎日のようにブログに状況を報告されています。そのスウェーデンでも経済問題があり、従業員のリストラが行われているようです。

当たり前のことですが、ビジネスの国際化が進んでいる今、欧米の多くが外出禁止のように厳しく規制している状況で、どこかの国だけが経済的に回復できるほど甘くはありません。一方、別記事で取り上げた中国・韓国だけでなく、強い規制を続けてきたオーストリア、スイス、オーストラリア、イランなどで「現在の感染者"(Active Cases)」がピークアウトしつつあり、完全とは言えないでしょうが規制が解除されつつあるところもあります。

そういう国々は、ふたたび感染者が増えることをおそれ、感染が蔓延している国からの渡航を規制するのではないでしょうか。日本はMERSが発生している中東諸国からの入国について注意を促していますが、それを挙げるまでもなく、新型コロナが世界に広まり始めた頃と同じように、感染者がほとんどいない国は、感染者の多い国からの渡航を規制・禁止されることが容易に想像できます。

各国が強い外出規制を続けて感染を抑え込んだ時期に、日本が自粛をあきらめて感染が広まってしまったら、ふたたび国際経済の仲間入りができるでしょうか。そうでなくても、20~44歳の人ですら24~50人に1人が重症化し、500~1000人に1人が死亡するという感染症です(アメリカCDCの推定に基づく)。"いつ"感染するかもわからない社会で、人々が安心して経済をまわすために働けるものでしょうか。私には、とても信じられません。十分に有効なワクチンが登場するなど、今はない決定打が生まれるのでなければ、自粛によって感染を抑える以外道はないのです。

日本には、欧米ほど強い外出規制ができる法律がありません。それは"自由を重んじる国"としては喜ばしいことです。コミケにしろ、音楽利用にしろ、フェアユースのあるアメリカですら許されないことが普通に認められているくらい"自由"の国です。もし、強く規制できなかったせいで新型コロナの蔓延を抑え込むことができなかったら、強く規制する法律が必要という話になっても不思議はありません。

自由を重んじる法律を守るためにも、今、できる限り感染を広げない行動をお願いします