新型コロナ:インフルエンザとの比較、現状

WHOがパンデミック宣言を出してから半年以上が過ぎ、感染者数は3500万人、死者数は100万人を超えました。これだけでもインフルエンザと同列扱いできないことは明らかですが、これらはあくまでも確認されている人数です。WHOは「世界人口の1割が感染」と報告しており、残りの人たちは依然感染のリスクにさらされています。新型コロナに関する情報については、忽那賢志医師が様々な情報を丁寧に解説されているので、そちらを読んでもらえばよいでしょう。

ほとんどの人は、もうここには来ていないでしょうが、「新型コロナ: 「インフルエンザでも人は死ぬ」との比較」を批判して、「インフルエンザと同じようなものだ」と無責任に書き散らかしていた人たちは、深く反省してもらいたいものです。いまなお現実を直視せず、インフルエンザと同じ対応でいいと言っている人もいるようですが、目をあけながら寝言を言っているようなものですね。バカの相手をする暇がないわけではないのですが、その対応に無駄な労力を割く気力はわきません。

もし、何年も前にこの未来、つまり現状が予測できたとしたら、感染対策のための施設を用意したり、医療や検査の体制を準備しておくことはできたでしょう。しかし、韓国や台湾と違ってそうした準備はできていませんでした。災害に対する準備とは、平時では無駄そのものです。日本は無駄を省けとばかり“効率化”を進めてきました。昨年の今ごろは使われていない地域医療を統合しようとさえしていました

実際の日本は、ウイルスへの準備がない中で対策を進めなければなりませんでした。新型コロナに対しては、これまで「イベントの自粛要請」「学校の一斉休校」「不要不急の外出自粛要請」「帰国・入国の制限」「緊急事態宣言(7都府県→全国)」「3密回避など新しい生活様式」「マスク全世帯配布」といった、さまざまな対策がなされてきました。もし、半年前に半年先の未来を予知できたとしたら、人々はどういう選択を好んだでしょうか。どこか他に「日本が見習うべきだった国」があったでしょうか。

感染対策を日本以上にうまくやってきた国には、台湾、韓国、中国、ニュージーランドなどがあります。これらの国は罰則付きの規制をかけて対策してきました。先日見たテレビでは、中国で3密回避すらせずに観光地がにぎわっているようすが放送されていました。それを見て日本も対策が必要ないと言っている人も見かけるのですが、これらの国ではクラスターが発生すれば、発生した地域を封鎖するという対策を取っています。感染とは確率であり、3密回避をはじめとする「新たな生活様式」は確率を下げる行動に他なりません。あらかじめ感染者数を減らしておくことと、メリハリのある対応で効率的に感染対策しているということです。

しかし、“自由を重んじる日本”では、そうした罰則規定を設けようという話は成立しそうにありません。緊急事態宣言も延長した期間を少しばかり早めに切り上げることになりました。上記の国ほどには感染を抑え込まず、緩い対策を維持しているせいで、効率の悪い対策を続けているという状況です。私は同調圧力に頼ったり、自警団なんかに出しゃばらせることなく、ちゃんと規制する方が“平等”だと思うのですが、人々はそういう厳しい規制を望んではいないようです。であれば“これが精いっぱい”としか言えません。

一方、他の欧米諸国を真似た方がよかったという話にはならないでしょう。たとえば、ノーガード戦法だったスウェーデンは日本人口への単純換算で7万人死亡しました。“それが分かっていて”真似ようと思う人はわずかでしょう。そもそも日本は有効性が実証されている子宮頸がんなどのワクチンですら、小さな副作用のせいで接種が進まない国です。「少しばかり感染リスクがあってもかまわない」という考え方に社会的合意が得られるとは思えません。ところでスウェーデンは、死者数が落ち着いたとはいえ、最近1週間の感染者数は2283人(日本人口への単純換算で2.7万人)も増えています。さらに、このところは増加傾向にあります。集団免疫を獲得したという話は何だったのでしょうね。

規制を解除したせいで感染が再拡大しているフランスやスペインでは、感染地域での再規制がはじまっています。イギリスも再規制している地域があります。先進国で「経済をまわすためには対策なんかしなくてよい」と思っているのは少数派です。その筆頭であるアメリカでは大統領が感染して行政が滞りました。当人が他人への感染リスクをものともせず3日で退院したのは驚きです。ブラジルと仲良くできそうですけれどね。

さて、インフルエンザの時期に入りつつある今、新たな情報を参考にできます。厚生労働省の「インフルエンザに関する報道発表資料 2020/2021シーズン」を見ると、インフルエンザの感染者数は次のようになっています。

2019年 2020年
1 3,813 3
2 5,738 4
3 5,716 4
4 4,543 7
5 4,889 7

まだ、本格的な感染時期ではないものの、新型コロナもインフルエンザも飛沫感染するものであり、新型コロナへの感染対策はインフルエンザにも効果があるでしょう。昨年同時期と比べると、インフルエンザの感染者数は3~4桁もの違いがあります。新型コロナとインフルエンザの感染リスクの比較は、今年の感染者数でこそ正当に比較できます。もし、たいした感染対策を取らずに(昨年のように)インフルエンザの感染者数が何十倍、何百倍にもなるというのであれば、新型コロナの感染者数も同じように桁違いに増える可能性がある、ということになります。“今、確認されている人数が少ない”ことは対策を取らずに少ない人数で済んでいた、ということにはなりません。それとも「感染対策など意味はない」という人は、今年も去年と同じくらいインフルエンザの感染者数が増えると主張するのでしょうか。

10月8日からは韓国との間でビジネス目的の渡航が再開します。もし、「インフルエンザと同じ」扱いをしていて感染の蔓延を防いでいなかったら、そうしたことも先送りされていたでしょう。常識のある人ならこういう説明も要らないと思いますし、逆に常識を持たず結論ありきで理屈をこじつける人には、まともな説明をしたところで聞いてはもらえないのでしょう。バカの相手をする暇はあっても、馬の耳に念仏を唱えたり、糠に釘を打ったりする気にはなかなかなりません。

※2020/10/9追記。インフルエンザ感染者数(第5週)の数値を追加しました。