すべての人を不幸にする「君は彼方」

もともとキービジュアルからして「なんか『君の名は。』の二番煎じ狙い?」が露骨に感じられて期待感が生まれない上に、声優が芸能人だらけである。とはいえ、「Fate」のように(ファンの人には素晴らしい作品と言われていても)見る気が起きないものと違い、路線が苦手な感じではない。期待していなくても思わぬ拾い物があったりもするので、一応前売券(ムビチケ)を買っていた。

そういう中、高速バスで10日間の旅に出る日(11/11)、ちょうど池袋で「君は彼方」のジャパンプレミアがあるというので参加することにした。なにしろ前売券が使えるというのだ(そういうものなの?) 封切までは前売券を売るだろうから、もし面白ければまた買ってもいい。ただ、招待客も多かったのか、ジャパンプレミアでは空席が散見された。舞台挨拶の後、本編が始まる前に抜ける人もそこそこいた。

それにしても酷い作品だった。アニメの声優は、ちゃんとプロにやってもらいたいと思っていて、本作の芸能人声優たちも決して良い評価をするわけではないのだが、全体的にそういうレベルではなかった。これだけの著名人を声優に使うくらいなのだから、それなりに大作に相当するものだろうと思っていたが、そうではなかった。丁寧な作画、素晴らしい動き、よくできた効果や音楽など、ストーリーに好き嫌いや出来不出来はあるものの、アニメとして大きな労力を割かれた作品を芸能人声優が台無しにするという作品が多い中、本作はどれをとってもダメである。

君の名は。」ヒットのときに、これでSF要素の入ったラブストーリーがたくさん出てくるだろうと予想はしていたが、そういうモノの中でも酷い。瀬名快伸監督にとっても、制作のデジタルネットワークアニメーションにとっても、初の長編劇場アニメらしいが、今後仕事が来ないのではないだろうかと思うほどである。予算がなかったのか、時間がなかったのか、どこかで揉めたのかわからないが、劇場アニメの品質ではない。なにしろ作画が雑な上に、止め画が多い。そこらのテレビアニメにすら負けている。それでもストーリーがよければ、と思うところだが、これがお粗末。及第点を与えていいのは(たぶん)音楽くらいだろうが、だからといって印象に残ることもない。

これは、ある意味、すべての人を不幸にする映画といってもいい。オリジナル作品なので、どこにも思い入れはない分、鑑賞する立場としてのダメージは決して大きくないのだけれど、こんな作品に対してすらジャパンプレミアではキャストが「大切な作品になりました」とか「内容が深いのでじっくり味わってください」とか言っていて、「役者魂」を感じるとともに、そう発言しなければならない立場を思うと痛ましくなってしまうほどであった。