新型コロナ: 自粛をやめるためには、強く自粛するしかない
■反自粛派の勝利
東京の新規感染者数が、1日4千人とか5千人という日が続いており、昨年来、オルタナティブブログやこの場のコメントで「日本人は特別だから自粛なんてしなくても感染者は増えない」とデマを流し続けることで感染者を増やし、飲食店や観光業にダメージを与えたくて仕方がなかった人たちからすれば、してやったりという状況に陥っています。そういう輩に限って、「医療がひっ迫するのは前から分かっていたことなのに、準備してない方が悪い」と主張しているのも興味深いところです。よほど記憶力が悪いか、根っからの嘘つきでもなければ、反自粛なんてできませんね。
■自粛の効果
菅首相が「世界でロックダウンをする、外出禁止に罰金かけてもなかなか守ることができなかった」とロックダウンの効果を否定したのは驚き(というよりデマ)以外の何ものでもなく呆れるばかりですが、もちろん自粛やロックダウンには効果があります。感染の発端となった中国では、それこそ死者の出なかった地域ですら長期にロックダウンして、感染拡大を抑え込みました。中国の累計感染者数は10万人に満たず、日本の10分の1以下、東京ですら3倍近い感染者が発生しています。
東京の緊急事態宣言も3回目までは効果がありました。7月12日から始まった4回目の緊急事態宣言をもってしても新規感染者を抑え込めないのはデルタ株の強い感染力に対して、ワクチン接種の割合が足りず、自粛が十分でないためです。そして自粛を緩めれば、もっと速いペースで感染が広がるでしょう。何度も書いたことですが、日本の民主主義が維持される限り「医療が間に合わなくなるのを諦めて自粛を解除しよう」なんてことにはなりません。
■自粛はいつまで続くのか
東京で、今回の緊急事態宣言が出された7月11日における新規感染者数の7日間平均は734人でした。それが今日(8月23日)時点では4659人で、まだ減少に転じる気配がないくらいです。そもそも、3回目の緊急事態宣言では「疫学調査ができる100人まで減らしたい」はずだったのが、そこまで下げられずに解除された経緯があります。3回目に調子よく減少していた頃でも1週間に3割減、2週間で半減程度ですから、今すぐ自粛を強めてそのペースで減少させられたとしても6週間で600人まで減らすのが精いっぱいです。
もちろん、ワクチン接種が進めば抑止効果は生まれるでしょう。大雑把に計算すると、ワクチンに95%の感染抑止効果があるとして接種者が53%くらいで人流を半減させるのと同じ効果があることになります。ワクチン接種と人々の自粛がデルタ株の感染力を上回れば、新規感染者は減ります。米CDCの報告どおりデルタ株の基本再生産数が水疱瘡並(5以上)あるなら、集団免疫の獲得には8割以上の免疫獲得者が必要になるので、この状況でも一定のワクチン拒否者がいるのが悩ましいところです。新規感染者数を抑え込めなければ、それこそ冬を過ぎるまで緊急事態宣言を解除できないかもしれません。
■季節
政府によれば、10~11月頃に希望者へのワクチン接種を終わらせる見込みのようです。ところで、昨年11月に新規感染者が増えたのを覚えているでしょうか。新型コロナ以前も、冬になってインフルエンザの感染者が増えていたように、気温と湿度が下がれば感染力は強まります。11月下旬には「勝負の3週間」という強い自粛要請が出されましたが、たいした効果は出ず、年明けの感染者急増を受けて2回目の緊急事態宣言が出されました。
オーストラリアやニュージーランドなど、これまでロックダウンで感染を抑え込んできた国でも、感染の抑え込みが難しい状態が続いています。これらの国の外出規制は日本よりも厳しいはずですが、日本よりもワクチン接種率が低いことと、南半球は冬なので気温や湿度が低く感染しやすい気候だということが推察されます。ワクチンを接種していれば(時間が経てば)感染してもほぼ重症化は防げるはずですが、感染者に対する特効薬がない現時点では、接種していない人にとっての感染リスクは変わりません。
オーストラリアが感染ゼロ戦略を断念したという報道があったことで、ロックダウンに意味がなかったとまで言う人がいるのだそうですが(どこのバカ?)、(デルタ株の感染力が強いため)ロックダウンしてもゼロに抑えることが難しく、ワクチン接種が進んだら緩めようという程度の話のようです。その程度には、「ワクチン接種」か「感染するか」という世界にはなりそうです。
■オマケ(インド)
感染力の強いデルタ株の震源地はインドです。ロックダウンで感染を抑え込んできたと思われてきたインドは、かつてBCGの効果だなんだと持ち上げられてきたこともあります。もはやBCGに有意の効果がないのは明らかですが、そのインドでの新規感染者数はずいぶん少なくなりました。
インドで2回のワクチン接種が終わってるのは1割程度ですが、なんと抗体保有者は7割にもなっているそうです。つまり人口のかなりの割合が感染経験があるということです。これはデルタ株の基本再生産数が少なくとも3.3以上ということでもあります。そのわりに死者数が43万人程度(人口は日本の11倍)と“少ない”のは、感染者の死亡率が高い高齢者の割合が少ないからかと思うところですが(65歳以上は6.6%、日本は28.4%)、たんに追跡し切れていないだけで、"Three New Estimates of India’s All-Cause Excess Mortality during the COVID-19 Pandemic"(Center for Global Development)によれば、超過死亡の推計が340万~490万人にも及ぶとあります。単純に計算しても「何もしなければ日本で40万人死亡する」と予測した西浦博氏の推計に匹敵しますし、高齢者率の高い日本ではより多くの死者が出てもおかしくなかったでしょう。なお、現在、日本の致死率が下がっているのは感染者が急増していることと、高齢者を優先してワクチンの接種を進めたためでしょう。