新型コロナ: 日本のPCR検査は足りなかったのか

オルタナティブブログに新型コロナについて最初に投稿したのが「新型コロナ: 日本のPCR検査は足りないのか」(移行後)というトピックでした。もう1年半も前のことですが、いまだに「感染を抑えこむためには大規模検査が必要だ」という人がいるのは不思議でなりません。

偽陽性偽陰性
実際には感染していないのに陽性と判断されてしまう偽陽性については、当時から専門家の方々の発言もあったわけですが、5%は過大であるという指摘はありましたし、その後に訂正した1%もやはり過大だったことは否めません。パンデミックの発端となった武漢では、感染が落ち着いた後に1000万人近い市民に対する検査で300人の無症状感染者がいたと報じられています。全員が偽陽性だとしても、わずか0.003%にすぎません。(※NHKの記事には“PCR検査”とは書かれていませんが、時事通信の記事には明記されていました)

一方、感染しているのに陰性と判断されてしまう偽陰性は有意に存在します。忽那賢志氏が引用していた論文によれば、発症前は検出されにくく、発症直後が検出されやすく、ふたたび検出されにくくなっていきます。

このことから「PCR検査の結果が陽性なら感染していることはほぼ間違いない」、一方で「PCR検査の結果が陰性でも感染していないとは限らない」ことが分かります。このような特性を考えると、「陽性の場合に隔離する」検査には意味がありますが、「検査が陰性だから安心する」検査には意味がありません

PCR検査は足りなかったのか
感染初期から大量の検査を実施していたと言われる韓国は、もともとMERSの経験から行政がパンデミックへの対策を講じてきました。しかし、日本は無駄を省けと効率を追求してきたため、十分な検査体制がありませんでした。数理モデルによる分析で「新型コロナの感染者で、他人に感染させているのは2割」と判明したことから、限られた検査リソースを「感染させる2割を疫学的に追いかけてクラスターを防ぐ」ことに集中させたのです。

「日本の対策が成功していたように見えたのは、少ない検査で大量の見逃しがあったから」という指摘は、厚生労働省による大規模抗体検査によって否定されました。昨年6月の調査では「東京0.10%、大阪0.17%、宮城0.03%」という結果になり、12月の調査でも「東京都1.35%、大阪府0.69%、宮城県0.14%、愛知県0.71%、福岡県0.42%」という結果でした。「検査が足りなくて感染が広がった」という指摘はあたりません

これは、尾身茂氏が国会で答弁していたことでもありますが、検査抑制論とは本来「無駄な検査をしない」ことであって「検査のキャパを増やさない」ことではありません。検査抑制論を批判する人たちは、しばしば(場合によっては意図的に)後者は問題だと批判するのですが、そういう認識ではいつまでも議論のすれ違いが起きるだけです。

大規模検査をしようとした広島では予備費の10億円をつぎ込んだそうですが、周囲の県に比べて目立って感染者が抑え込まれたという実績にはつながっていません。感染初期に比べればずいぶん民間検査所が増えましたが、「検査して安心したい」という目的で検査している限り、あまり意味はありません。

日本が第一波で感染の広がりを抑えることに成功したのは、早くかつ強く自粛したためです。何度も書いたことですが、検査はワクチンや薬の代わりにはなりません。ワクチンが登場する前は、感染対策に必要なのは自粛以外にありませんでした。少なくとも当時に限れば、大量に検査した欧米に比べても、日本の対策が成功だったことは疑う余地がなく、検査は足りていたという他はありません。なにより、第5波と呼ばれる今年7月以降の感染拡大こそが「放置すれば感染は拡大していたが、自粛したことで抑え込まれていた」ことを実証しています。