“フリーミアム”という情報商材

『フリー』騒ぎ

昨日、エントリを書いたばかりだが、川上量生氏が新たに「クリス・アンダーセン氏のFREEが糞な理由」というエントリを書かれていた*1。ここで、『フリー』について長々と批判しているのだけれど、前エントリに書いた通り、現実には『フリー』を発行した NHK 出版が『フリー』以降でフリーミアムモデルを採用していない(フリーミアムを礼賛していた自称経済学者の書籍も含む)。『フリー』に直接関わった人が、誰一人フリーミアムの効果を信じていないという何よりの証左だ。

世の中にうまい話はあるか?

「こんな儲け話があります」「こうすればお金になりますよ」という話は数々あるのだが、そんなにうまい話があったら誰でもやるだろうし、その儲け分は分散して結局儲からなくなる。投資が必要なものなら、損をするかもしれない。つまり「誰もに通じるような、うまい話なんかない」のだ。お金を稼ぐのは、時間を掛けたり、努力したり、投資するといった努力をしてこそ、なしえるものだ。

アンダーソンが

そして無料でサービスを提供するのは、だれでもできるから、早い者勝ちですよ

というのであれば、ある意味で正直ではある。まさにアンダーソンが早い者勝ちできる“1人枠”に収まったきりだからだ。

この手のアジテーターは扇動に成功すると、それを“確固たる事例”として紹介したがる。

ほら、成功したでしょ。

よかったね。ところが、その手の「成功の法則」は万人には適さない。最初のひとり、あるいは一握りだけが成功して、後に続くものはただの犠牲者となる。ねずみ講マルチ商法だって同じだ。「私は稼ぎましたよ」と言われても、それはリテラシーに欠けた人が信じて犠牲になったからであって、誰もが続いていくわけではない。NHK出版が、後続の書籍をフリーミアムで売り出さないのは、それが犠牲になることをよくわかっているからだ。

そして、アンダーソンが「早い者勝ち」というのは、彼の提唱する社会が犠牲者を生み出す仕組みになっているからだ。であれば、早い者になれない人や、あえてなろうと思わなかった人が彼の主張に追従する理由は“何もない”し、早い者勝ちできなかった人を切り捨てて済ませる社会が良い社会というわけでもない。アンダーソンの言う社会は、万人にとって望ましいものではない“糞な社会”なのだから、そりゃ食い止めようとするのが普通だよね。

*1:ちなみに、昨日はうっかり気づかなかったが "Free" の著者は Chris Anderson である。Andresen Consulting とは無関係。