BOOKSCAN が繁盛しているようだ

BOOKSCAN の成功

昨日はフリーミアムの件でアクセスが増えたかな、と思ったらそうではなく、たまたま "BOOKSCAN" で検索して「BOOKSCANについての雑感」にたどり着いた人が多かったようだ。GIGAZINE記事が話題になったので、そのせいのようだ。この記事を見る限り、随分繁盛しているようだ。

結果論だが、1冊100円という設定が絶妙だったのだろう。価格で競争するには、それなりの差をつけないといけないが、その余地があまりない。百均ショップに対抗して90円ショップを始めても、人件費は変わらないから、その他へのしわ寄せが大きくなるようなものだ(たとえば、商品の質が目に見えて落ちる)。かといって、150円ショップでは割高感が否めない。BOOKSCAN は、50円、100円のオプションはあるが、それでも価格設定の“百均ショップ”感覚が受けたように見える。

もうひとつは、岩松慎弥氏がマメな性格で、コスト削減や作業の効率化を追求してきたからだろう。GIGAZINE の記事や、以前の ASCII の記事*1などを見ても、事前に念入りに調べているようだし、そもそも GIGAZINE に掲載された物件を探す様子、機材準備や引っ越しの様子などを逐一写真に収めていることからも、それが推察できる。この緻密さは、もしかすると法的に問題視された場合の準備かもしれないが、それだけ“考えて経営されている”ことはたしかだと思う。

BOOKSCAN に対する立場

さて、BOOKSCAN が登場した当時に書いた7か月前のエントリだが、今も、ここに書いた立場からあまり変わっていない。唯一の違いは、最後に「重大な懸念」と書いた「1冊100円でやっていけるのか」という点で、記事によれば、この点は克服されているようだ。

著作権侵害のおそれについては、著作権者側から警告的な声は上がっているが、今のところ具体的な動きには至っていない。先のエントリにも書いた通り、ブックオフのような古本屋に流れるより、当人が電子データとして持ちつつ書籍が裁断・破棄される方がましという見方もある。

先月、知財高裁で「鑑定証書カラーコピー事件」が鑑定会社の勝利となった*2。これは、“引用”と認められるかどうかだから BOOKSCAN とは事情が違うけれど、この判決文では「被控訴人等が本件各絵画の複製権を利用して経済的利益を得る機会が失われるなどということも考え難い」と著作権者に損失がないことが認められている。BOOKSCAN についても、「スキャンして破棄する」というルールが守られている限り経済的な損失は基本的にない。まあ、電子書籍が出た時にまた買ってもらえるチャンスがあると思う出版社があるかもしれないし、出版社は BOOKSCAN を止める前に電子書籍を充実すべきなんて意見は出ているけれど、普通、同じ本をメディア違いで何度も買わないよね。どうせ“自炊”は止められない。

BOOKSCAN に求める改善点として「著作権の許諾がある」ことを前提にしない方がよいと思うのは、今でもそうだ。これは「著作権の許諾があるからやっているのであって、著作権の許諾がなければ違法なことをしている」と認めているようなものだ。事実上守れないようなルールを利用者に課すことは、むしろ運営者としての法的責任を問われかねない*3

いくらかの懸念

直接、BOOKSCAN に対する懸念ではないが、以前、断裁された大量の書籍がオークションに出品されるということがあった。どこかのスキャン業者が作業後の書籍を出品した恐れがある。あるいは、スキャン済みの書籍を買い取るというサービスもあるようだ*4。スキャンしたものを破棄するから“損失がない”と言えるが、このような動きはスキャンサービス全体を停止させることにもなりかねない。「スキャンデータに追跡可能な情報を埋め込んでおく」「断裁書籍の破棄を保証する」といった形で、業界と調整していくことはできないものかと思う。それこそ業界人の中にも、この手のサービスの潜在的な利用希望者は多いような気はするのだが。

*1:業界関係者から歓迎の声も――スキャン代行は「悪」なのか」。

*2:知財高裁平成22年10月13日平成22(ネ)10052」。

*3:それにそのような条件が課せられていては、やはり依頼できないしね。

*4:実際に成立しているのかどうかはわからない。