【ネタバレ注意】『アイの歌声を聴かせて』スタッフトークイベント@シネマシティ(+α)

11月12日にシネマシティで『アイの歌声を聴かせて』の「スタッフトークつき上映」が開催され、吉浦康裕監督と脚本の大河内一楼さんのお話を聞く機会がありました。同じ週の月曜日には新宿ピカデリーで「スタッフトーク 音楽篇」があり、そちらは公式レポートがあるのですが、シネマシティの方は報道でもレポートがなさそうなので、例によって雑なメモ書きと記憶をもとに書き起こしてみます。間違っていたらゴメンナサイ。
※2021/11/15追記。本日、公式レポートが公開されていました。以下、重複しているところもありますが、そのまま残しておきます。

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例によって【ネタバレ注意】です。まだ見ていない人は読み進めず、まず映画館で見てください。後述しますが、私は本作を絶賛はしません。しかし、65億を超えたらしい「竜とそばかすの姫」の“欠点”を思えば、あまり気にすることはないのかもしれません。あんまり広まらなかったね、で済ませてしまうにはもったいない作品です。



↓ネ
↓タ
↓バ
↓レ
↓し
↓ま
↓す

トークパート

ミュージカル映画ということもあり、まず岩浪美和音響監督による音響の良さがあり、吉浦監督が「僕はシネマシティ会員(シネマシティズン)ですから」(拍手)、シネマシティも岩浪さんが音響調整されていて「まさに理想に近い映画館」(吉浦監督)というお話がありました。

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大河内さん「原案プロットは、吉浦監督が作られていました」
吉浦監督「最初はAI(人工知能)、男女の話、SF、ラブロマンスなどの要素が含まれていて、もっとシリアス寄りでした。シオンも猫だったり、男性だったりしました。ちょっと行き詰まって(?)、別の方に手伝ってもらえないかということで、プロデューサー経由で大河内さんが参加されることになりました」
大河内さん「ちょうど別の企画で御一緒していたんですよね。その企画はなくなっちゃいましたけど。
前々から吉浦監督の作品はいいと思っていたんですよね。最初は脚本を手伝うという形ではなく(本作の)感想が欲しいと言われて、わりと辛口の内容をメールで送りました
吉浦監督「それで、じゃあご一緒に、ということになりました」

大河内さん「原案を分解・再構築するのに、ホワイトボードで説明したりしました。
AIの“変わった要素”をどうするかということで“突然歌いだす”というアイデアを挙げたら、それはいいということで採用になりました」
吉浦監督「ミュージカルはやりたいものでした。たぶん僕だからCGを使わず作画でやるんだろうな、と思っていて、作画でミュージカルをやろうと決めました
大河内さん「やりたいことをやるのがいいんですよ。情熱が持てるというか。
実際、いい作品になりました。出来上がりというのは脚本段階では分からないですからね
とくに歌の部分は何もわかりません。会話で盛り上げようとするんだけど、盛り上げ過ぎないように抑えめにしたりとか」
吉浦監督「歌が意味を持つようにしようと思いました。
脚本ができて、音楽を発注して、一発で形になったんですよね。
よく図面通りのものができあがってくると、“そのまま”だなと心配になることがあるんですが、依頼した以上のものができあがってきました
大河内さん「できあがりを見て、土屋太鳳すごいし、いっぱいいい部分がありました

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■質疑応答

質問「最近では、自転車の二人乗りや未成年飲酒のようなポリコレを気にするようになっていますが、子供のトウマがハッキングするのはともかく、大人である母親が他人のカードで侵入したり、序盤でもセキュリティ面など色々倫理的な問題が多い。横断歩道のところにバス停があるのも普通は危険度が高い。そのあたりの意図は」

吉浦監督「自動運転の世界は理想として書いた。セキュリティについても意識はしていた。そもそも(母親の)美津子はできた人間ではない。セキュリティ意識はひどいし、社員としては(上司の)西城や(部下の)野見山の方が正しいともいえる。そういう意味では、西城や野見山も“本当に嫌なキャラ”にはしたくなかったし、倫理的には西城の方が正しい。美津子がぶっこわれるシーンでは、脚本段階ではもっとひどいセリフがあったけど、やってみたらあまりにひどいので削ってる」
大河内さん「美津子は、感情に任せちゃう面がある」

質問「シオン奪還のくだりで、ロボットたちはシオンを応援しているのか」

吉浦監督「そう。ロボットたちは自主的にシオンを応援しはじめている。中盤での“世界中のAIがみんなシオンのようになる”というセリフがあるが、それを具現化している。いかにシオンが操っていないようにみせるかを考えて、ああなった

質問「支店長(西城)は、美津子を妬ましく思っているのか、そもそもAIが嫌いで邪魔をしているのか」

吉浦監督「もともと美津子と一緒に仕事をしていて、成功したら自分の手柄にしたいけれど、失敗されて足を引っ張られたくないとも思っている」

質問「AI規制法というのは、どういうものか」

吉浦監督「人間と区別できない扱いをしちゃいけない、という感じの法律。だから“モニタ品”と判別できるようにすることで社内の稟議を通している。緊急停止できるようにしているのも、そのための機能。
ロボットを家事に使ってもいいけど、怖がられて誰も使っていない状況」

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シネマシティでの舞台挨拶は、写真を撮らせてもらえることも多いですし、スタッフトークはキャスト/声優トークに比べて深い話が聞けることが多いので、とても楽しいものです。いろんなお話を聞くには30分というのは短いですが、また催してもらえないかと思います。



↓個
↓人
↓の
↓感
↓想
↓で
↓す

■絶賛できない部分

最初の質問をしたのは私ですが、IT業界に身を置くものとして、のっけから「深刻なバグが出現したのに、黙って見過ごしてもらうことで(バグを隠ぺいして)成功したことにしようとする」というストーリーにちょっと引いたというのが正直なところです。技術的に見れば小学3年のトウマが作ったアプリがウイルス化して、あちこちに感染して(悪さこそしないものの)サトミを監視し続けて、それがシオンにも感染しているわけで、セキュリティ弱すぎでしょ。“人格”(みたいなもの)がネットワークを移動していく、という展開はディズニー映画にもあるので、そこまで無粋なことは言わないですが(←言ってるじゃないか)、ちゃんとフィードバックできる仕組みを用意して、バグがあったら直すというのが倫理的な展開というものです。それじゃ、映画が10分で終わってしまうな(←オイ)

サトミが正しく判断できなかったとか、トウマがハッキングしているのも、ぜんぶ“子供だから”という理解はできますし、意図してウイルスを作ったわけでもないですが、終盤で大人である美津子が他人の子供が持ち出してきた別社員のカードを使って出禁中の会社に侵入するというのはヤバいです。吉浦監督の回答にあった「美津子はできた人間ではない」というのは、まさにそのとおりで、そもそもサトミが「お母さんは男社会で出世したからいじめられて」みたいに言っているのも、「それは美津子がそう言ってるからだろ」と突っ込まざるをえません。サトミは、直接親の会社の事情なんて分かるわけがないので、しょっちゅう美津子が愚痴をこぼしているに違いないのです。子供を仕事のはけ口にするな

一昔前ならともかく、ポリコレ全盛で色々ストップがかかるらしい今日の作品としては、気になってしまうのです。ただ、そういうレベルの気になる点は、冒頭に挙げた「竜とそばかすの姫」にもあるわけです。リンクした記事で指摘されているとおり、終盤の大人たちの行動はかなりひどい。あれをリアルでやったら炎上します。そして人々は、そういうところはあまり気にしないようです。「映画の中のコンピュータ」かよ。

というわけで、完全に個人的な見解ですが、吉浦監督の過去作(「イヴの時間」「サカサマのパテマ」)に比べれば、キャラデザはかわいいし、土屋太鳳さんの歌はうまいし、ストーリーも上記の気になる点を除けば、というか“美津子ができた人間でない”と理解しておけば、よく考えられています。はい、そこ、どういう仕掛けで花火打ち上げたんだよ、とか言わない(←ヤメナサイ)。なにより見た人の評価が高いらしいので、私の気になる点なんて気にしなければいいんです。

もともとミュージカルというのは、普通に喋るようなセリフを突然(不自然に)歌いはじめたりして、ストーリー展開が遅くなり、結果として“浅い話”になるのが苦手だったのですが、本作は歌う場面で歌っているだけで、「語るべきセリフを歌で表現する」ということがありません。作画のミュージカルシーンはとてもいいです。サトミやシオンの表情もいい。お姫様姿のサトミが座るシーンは繰り返し見たい

興行収入を見守りたい!」を見ると、どうやらこの週末は前週比で1.3倍くらい人が入ったようです。減った上映回数が増えている映画館も続出しているようで、「若おかみは小学生!」みたいに盛り返すといいなと思っています。まあ、あれも絶賛しない作品ではありましたが。

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