DVD/blu-ray ディスクは“ソース”か


今日は別のエントリを上げるつもりだったんだけど、id:heatwave_p2p さんが「DVD/Blu-rayのコピー、事実上の禁止へ:「コンテンツは二度買え」「嫌なら光学ディスクを捨てるな」」という読み捨てならないエントリを書いていたので、急遽変更。

“ソース”とは何か

冒頭に、こう書かれている。

正味の話、海賊版対策になるわけもなく、あくまでも建前に過ぎないんだろう。本当の狙いとしては、正規購入者の『ワンソース・マルチユース』を防ぎたいというところか。

コンテンツ業界の人が読んだら、何を書かれているのかピンと来ないと思う。コンテンツ業界が望んでいるのは、まさに「ワンソース・マルチユース」だからだ。読み進めていくと、その疑問が氷解する。ここでは、DVD/blu-ray ディスクを“ソース”と呼んでいるらしい。だが、コンテンツ業界には「ソースを提供しているんじゃない」と言われてしまうだろう。ソースとはコンテンツそのものだからだ。

DVD/blu-ray は“ソース”か

違う。少なくともソース(複製元)として販売されているものではない。だからこそ(法的な“技術的保護手段”に相当するかどうかはともかく)容易に複製できない保護手段が採用されている。そもそも DVD が発売された当初は複製などできなかった。DVD/blu-ray は「ユース」として提供されているものだ。

もともと、映画コンテンツが VHS で提供されていた頃、VHS テープは再生用(ユース)だけでなく複製元にもなりえた。だが、複製はデジタルではなく劣化が生じていた。とはいえ、複製を禁じるためにマクロビジョンのような複製防止信号が挿入されるようになった。その後、レーザーディスクが登場した。レーザーディスクには複製防止信号はないのでソースになりえたが、レーザーディスクに録画することはできなかった。そもそもレーザーディスクも(映像は)アナログ記録であり、複製による劣化は避けられなかっただろう*1

そして DVD が登場した。録画はできなかったが、VHS やレーザーディスクのような既存のメディアを置き換えていった*2。DVD は「ユース」として売られており、「ソース」として売られているのではない。最近、blu-ray に「車載DVDでも見られるように」という配慮で DVD が付属していたり、「携帯でも見られるように」と無料のダウンロード権が付属しているものがある。これらは複数の「ユース」をパッケージングしているのである。

先日のエントリを書くときは DVDをリッピングする人が意外に多いと感じたのだが、本来、そのような利用は想定されていないし、今なお“一部の人たち”のものだろう。そうでなければ複製防止技術そのものが意味を持たない。DVD/blu-ray から“誰もが”複製できるようにしろというなら、複製防止技術そのものを法律で禁止するように働きかけるべきだ。

なお、(複製防止信号のない)CD は“ソース”かという疑問も出てくるだろう。だが、「ソースはコンテンツである」という前提に立てば、これも違うことになる。CD は、(そのまま再生すれば「ユース」メディアだが)音楽プレーヤーに転送する場合の“中間メディア”である。

映像コンテンツのネット配信は「ワンソース・マルチユース

コンテンツの商用利用は「ユース」である。映画館で映画を見たら、DVD が貰えるようになるわけではない*3。ライブに行ったらライブCDが貰えるわけではない*4PSP で使われている UMD も、そのひとつだ。UMD の記録メディアは登場しそうにないが、それは技術的な問題ではなく、複製先として使われることを避けるためだ。DS のゲームカートリッジだって、複製されることを想定したものではない(たまたまマジコンがそれを可能にしているだけだ)。

「マルチユース」とは収益の手段を増やすことだ。収益が増大すれば、ひとつの「ソース」、つまりコンテンツを作るための投資も増えて良い作品作りができる。もちろん、安易に“良い”作品と言ってしまうと、その定義は難しいし、マルチユースを期待するあまり、ヒットアニメを素材にした映画に人気タレントを起用するなんてことがくぁwせdrftgyふじこlp

“プレーヤー”と“レコーダー”のどちらを普及させるかは難しい問題だ。コンテンツ業界にとっては普及してほしいのはプレーヤーだが、AV機器メーカーにしてみればコンテンツの揃っていないプレーヤーなど売れないから、ユーザーが自前でコンテンツを揃えやすいレコーダー(リッピング装置が別の場合も含む)を出したい。だが、無制限にリッピングものを受け入れることはコンテンツ業界から拒否されてタダの箱になりかねないから、そこに制限を課そうとする。本来、AV機器メーカーにすれば、わざわざライセンス料を払って複製防止手段を採用する必要などない。もし、自分だけ制限を緩くして抜け駆けしようとするメーカーがあれば非難されることになるだろう。

そしてアクトビラApple TV のような映像コンテンツのネット配信もまた、典型的な「ワンソース・マルチユース」である。コンテンツを配信するのに複製防止信号を入れたり、そもそも指定されたデバイスでしか再生できないようになっている。コンテンツを提供するときには常に複製を認めなければならないなんてことになったら、インターネットを通じて提供されているアクトビラコンテンツや Apple TV 向けのコンテンツは、パソコンでも視聴し、複製できるようにすべきということになるだろうか。私には少し考えにくい未来である。

*1:ちなみに、レーザーディスクは「レンタル禁止」とされていた。

*2:ビデオソフトの売上金額の推移(1978年〜2009年)表(PDF)」によれば、DVD-Video は1996年に登場し、2001年にすべての他のメディアを上回っている。

*3:そういう企画は面白いかもしれないが。

*4:そういう企画も面白いかもしれないが。