歴史は繰り返す

DVD の家庭内コピーが禁止へ

DVDコピー、家庭内も禁止へ 暗号で保護のソフト対象」によれば、DVD や blu-ray ディスクで提供されるコンテンツの複製が禁じられるようだ。

DVDやブルーレイなどに収録されている市販の映画やテレビドラマなどの映像ソフトをコピー(複製)する行為は、家庭内であっても違法になりそうだ。暗号化技術を使って保護されているソフトが対象で、保護を破るプログラムの製造や配布も禁止される。ネット上にあふれる「海賊版」を抑制するのが狙い。文化庁が3日、方針を固めた。

「罰則は設けない」そうで実効性に疑問はある。だが、今年施行されたダウンロード違法化は、それなりに実効性があったようだから、「あがいても無駄」ということにはならないのかもしれない。少なくとも、普通の書店に並んでいる『DVDコピー術』みたいな書籍は一掃されるだろう*1

いつか見た光景

予想できたことだが、はてブを見ると批判的コメントが大勢を占めている。興味深いのは、このような批判は20年以上前、ソフトウェアのコピープロテクトの頃に見かけたものとあまり変わらないことだ。その時代のソフトウェア業界を知る人には、批判への反論は容易なことだろう。

メーカーはメディアの破損や紛失の責任を取れるのか

書籍が日焼けしたり、うっかり破棄してしまうおそれがあったとしても、それは自己責任だ。ソフトウェアについては、フロッピーは(物理的・論理的に)破損するおそれがあった上、当時はメディア費用よりもはるかに高いものが多かったのでバックアップの可否が重視されていた面はあった。ただし、高額なソフトウェア、特にプロテクトをかけていたソフトウェアについては、破損したメディアを実費で交換するサービスを提供していたところも多かったと思う*2。ソフトウェアの提供媒体が CD-ROM に変化するにつれ、バックアップを必要とされることはなくなったし、実費程度のメディア交換サービスがあればよかった*3。また、現在のソフトウェアはシリアル番号等によるネット経由のアクティベーションを必要とするものも多い。

もともと DVD の記録保持性は、VHS テープの時代よりもずっと高い*4。モノにもよるだろうが、映画DVDなどは数千円程度なので、実費といっても手間賃を考えたら、ほとんど定価と変わらない程度になってしまうのではないか(在庫切れの場合はともかく)。手元には何百枚かのDVDがあるが、読めなくなったものはたぶんない*5

他のデバイスで見ることを禁止すべきではない

とはいえ、VHS からレーザーディスク、DVD、blu-ray、あるいは microSD や、その他のデバイスへの展開を含めて「ワンソース・マルチユース」が成り立っていたからこそ、コンテンツと新しいデバイスが成長してきたということはある。

そもそも、「複製は必要」というのであれば、「アクセス制御を回避して複製することを規制するのは許せない」というのは、ちょっと回りくどい主張である。むしろ、「コンテンツの複製防止を認めるな」というべきであろう*6。現状では、特別なツールを入手して複製できる人しか複製できないのだから、「回避を許容せよ」という主張は万人のためのものにならない。

私的録画補償金

補償金をどうするんだと言っている人がいるが、これは関係ない。私的録画補償金は複製できないもののために支払われているのではない。私的録画補償金は“適法な私的複製”に対して課せられているのであり、“無許可の複製”を大目に見てもらうためのものではない。

無料のDVDプレーヤー

記事を読む限り“再生”するだけなら問題なさそうだ*7

「だから日本はダメなんだ」とは言わない方がいい

前にも取り上げたが、リアルネットワークスが発売しようとした RealDVD というツールがあった。まさに DVD の私的複製を行うソフトだったが、裁判で全米映画協会に完敗し、大金を払って撤収することになった*8。RealDVD は無制限に複製できるものではなく、それなりに制限が設けられていた。しかし、フェアユースのあるアメリカですら、DVD の保護手段を回避して複製することは「フェア」だとは認められなかったのだ。「アメリカに後れを取る」と言ってしまうと、「“アメリカのように”規制して当然」という声を後押しするだけだろう。

余談

このロジックで、マジコンを規制するのは無理ではないかな。マジコンは、「アクセス制御を回避して複製する装置」ではないよね。

*1:もっとも違法な手法を雑誌が掲載することに違法性があるかどうかはわからないが。

*2:「メディアが破損してビジネスが滞るというなら、最初からソフトを2本買っておけ」と言っていた人がいたのも事実だが。

*3:その当時は CD-R がなく、CD-ROM をそのままバックアップすることはできなかった。

*4:むしろ、DVD-R やハードディスクよりも保存性は高いと思う。

*5:お金を払って買った音楽CDが CD-R だったことがあり、読めなくなったものはある。商用コンテンツを CD-R や DVD-R で売るのはやめてほしい。

*6:そうあるべきかどうかはともかく。

*7:もっとも DVD の再生には色々特許がありそうだから、特許料を払わない再生ソフトが認められるかどうかはわからない。

*8:リアルネットワークス、DVDコピーソフト「RealDVD」の販売差し止めを受け入れ」より。