マジコンとかアクセス制御の回避規制についての雑感

だから別に id:heatwave_p2p さんのエントリに文句をつけやすくするために「はてダ」に引っ越してきたわけではないのだが(←何か月前の話題だ)、グルーポンのレポートばかり書いているのも何なので、たまには違うことでも取り上げてみようと思い、アクセス制御の回避規制について書いてみる。

アクセス制御の回避規制では、何が規制されるのか

現在、たとえば DVD で使われている CSS のような保護技術は「複製(コピー)制御技術」(著作権法で言うところの技術的保護手段)ではなく、アクセス制御技術だとされている。制御されているのは DVD を Windows のドライブに差し込んで“再生”(アクセス)することだからだ。マジコンの件を脇に置いておけば、議論されていたことは、「アクセス制御技術を著作権法の技術的保護手段に含めるかどうか」だったと理解している。

ちなみに、米国では保護手段とみなされているようで、これを回避するツールは違法とされている。有名なものにリアルネットワークスが発売しようとした RealDVD がある。これは DVD をパソコンに取り込むツールで、再複製ができないような機能制限を自主的に設けていたにもかかわらず完敗した*1。実は、この裁判を興味深く見ていた。これが適法だとされたら、「レンタルしたものを返却後も利用できる形態がフェアユースとして認められる」ことになるからだ*2。でも、フェアユースとして認定されることすらなく多額の費用を支払う羽目になったわけだ。

アクセス保護技術を技術的保護手段とみなされると何が困るかと言うと、DVD 再生ソフトのない Linux では DVD が見られなくなってしまうからだ、という主張がある。著作権法第120条2の1には次のように書かれている。

第120条の2 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
1.技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とする装置(当該装置の部品一式であつて容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とするプログラムの複製物を公衆に譲渡し、若しくは貸与し、公衆への譲渡若しくは貸与の目的をもつて製造し、輸入し、若しくは所持し、若しくは公衆の使用に供し、又は当該プログラムを公衆送信し、若しくは送信可能化した者

それこそ、この条文のまま CSS が技術的保護手段とみなされてしまうと、そこらの「DVDプレーヤー」はどれも「技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とする装置」に該当してしまう気もするわけだが*3、それが気になるなら「不正に」とでも修飾すればよいのではないだろうか。かつて Linux 用に DVD 再生ソフトがなかったと言っても、今はあるようだし、そもそも DVD 再生ソフトって、それなりに各種のライセンスを支払っているはずのものだから、それを(自分ではない誰かが)無料で提供しなければならない義務があるんだ、ってものでもないだろう。誰にもライセンスを払わない DVD 再生ソフトがあって迷惑を被るのは DVD 技術のライセンス保持者であって、DVD コンテンツベンダーではないし、再生ソフトが欲しいなら、ちゃんとライセンス料払って作ればいい話だ。

もうひとつ技術的保護手段が絡むのが(というより、こちらがメインだろうが)、第30条の私的使用のための複製である。そう、“複製”である。アクセス保護技術を回避して複製することが私的複製とみなされなくなるということだ。これって、アクセスが禁止されるわけじゃないよね。アクセス制御の回避規制について、「アクセス権を奪うことは国民の知る権利を脅かす」という主張は*4、なんだか的外れな印象がある。

アクセスは制御されている

アクセス制御を回避できなくなると困ることがある、という主張もわからないでもないのだが、実際のところ、ほとんどの市民は、アクセス制御を回避できないし、していないのではないだろうか。いやもちろん、近所の本屋にも『DVDコピーの決定版』みたいなムックが堂々と置いてあるので、やる人は増えているんだろうけどね*5

むしろ、アクセス制御を回避せずにコンテンツを利用しているケースの方がずっと多いと思う。日本の音楽配信ビジネスを支えている「着うた」はガチガチにアクセス制御がかけられているのだし、ケーブルテレビだってスカパーだって、スクランブル解除して見てる人はほとんどいないのではないか。iTunes Store からダウンロードした音楽をプロテクト外してるって話もあまり聞かない。子供から“マジコン”という言葉を聞くようになり、近所にマジコン利用者がいるとわかってしばらく経つが、それでも「誰しもが使っている」という印象はない(田舎だからかもしれないけど)。

かつて CCCD が登場して問題視されたのは、もはや音楽プレーヤーへの仲介役に過ぎない CD を最終媒体にしようとしたことであって、「着うた」も DVD もゲームカートリッジも、アクセス制御された範囲で利用する上では何も問題がない。CCCD のように市民が受け入れにくいアクセス制御であれば、クレームになるし、流行らない。CCCD を見る限り、極限までのアクセス制御を取り入れても、それがビジネスに結びつかなければ採用されないだろう。逆に、今のアクセス制御は市民に受け入れられているのだと思う*6

ところで、しばらく前に話題になった「米著作権庁のフェアユースに関する見解」(TechCrunch)には、このように書かれている。

1. 教育上の目的ないし批評のために必要な公正な利用とみなされる範囲で複製を行うため、合法的に所有するDVDの暗号化を無効化すること。
2. ユーザーが合法的に所有するソフトウェアを携帯電話上で実行させることができない場合、そのソフトウェアが実行できるように携帯電話の機能を変更するプログラムを実行すること。(つまりiPhoneを脱獄(Jailbreaking)させてGoogle Voiceを走らせるなど)
3. 携帯電話を予め設定されたネットワークとは別のネットワークに接続させることを可能にするようなプログラムを実行すること。(つまりiPhoneを脱獄させてAT&TではなくT-Mobileに接続させるなど)
4. セキュリティーに関する合理的な試験ないし調査のためにビデオゲームの暗号化 (DRM)を無効にすること。
5. ハードウェア・ドングルによって保護されているソフトウェアについて、そのドングルが製造中止になるなど老朽化した場合に、当該のソフトウェアにドングルの機能を無効にするような改変を加えること。
6. 電子書籍に機械による読み上げを妨げる機能が組み込まれている場合に、その機能を無効化して内容を読み上げること。

なんだか太字部分を無視して喜んでいる人たちが大勢いた気がするけど、どう考えても、これらの条件って日本より厳しいよね。

アクセス制御の回避が認められなくなったら恐ろしい世界になるのだ、ということが多くの市民に実感として受け止められる気がしない。

マジコンの問題

マジコンで独自ソフトの開発が排除されることが問題、という主張がある。でも、どうして問題なのだろう*7。DS は「独自ソフトの開発」を意図して提供されているプラットフォームではない。そもそもファミコンが出た頃は、ソフトはすべて自社(任天堂)製だった*8。独自に開発できるプラットフォームは他にもあった。それどころか、安めのものを含め他のパソコンはすべてそうだったが、本体を大量に生産して安く提供するというファミコンに負けたのだ。

「安く大量に生産したからといって独占的に利用させてはいけない」という主張もありそうだが、だいたいそういうことを言う人は安く大量に生産する側にまわろうとはしない。「オーケー、それなら、ぜひ安く大量に生産する側を担当してくれ。こっちは利用する方にまわるから」と言われそうだ。もうひとつの問題は、マジコン側の論理で自由な開発が認められるのなら、本気で自由な開発を許すプラットフォームにチャンスがまわってこないことである*9。それに日本には、i-mode とか i-appli があるし、(セキュリティ面で使えない機能はあるものの)勝手サイト・勝手アプリを App Store のような規制もなく公開できるわけだから、普通の開発者はそちらを選ぶよね。実際、そちらでビッグビジネスを成し遂げた例はあっても、マジコンは同人ソフトが限度みたいだし、マジコンが規制されたって他のプラットフォームがあるじゃないか。

そもそもリアルな社会において、“マジコン”を見かけて「独自ソフトで遊んでいる」のを見た人ってほとんど聞かない。いや、そういう人が身近にいる人はそうかもしれないが、ものすごく範囲が限定されているのではないだろうか。量販店にマジコンを買いに来た人を実際に見かけたことがあるが、やっぱり「無料でゲームが遊べる」という認識だった(そんなことを店の人に聞くなよと思うけれど)。そういう状況であれば、「マジコンを規制すると独自ソフトが使えなくなる」ということを実感できる市民ってほとんどいないんじゃないだろうか。むしろ、多くの市民が、自分の周りにいるマジコンユーザーが市販ゲームで遊んでいたら、「マジコンを使っている人は“ズル”してタダでゲームを遊んでる」と思うだろう。こういう人が取り締まられないのを不満に思っても不思議はない。

ただ、どうやってマジコンを定義して、どうやって取り締まろうというのかは疑問ではある。それこそ“フェアユース”でもあれば、明文で定義する必要はなく、「不正に使われている態様が顕著」であることを理由にできそうな気もするのだが、マジコンはどうやって明文化するのだろう。まさか、PC-386*10まで規制対象になるようなヘマはしないだろうけれど。「PSP に DS シミュレータを載せました」なんてケースが出てきたら対応できるのだろうか。ついでに、マジコンは“複製機”ではないのだから、著作権法でどうこうしようとするのが筋が悪く不正競争防止法で対処すべきというのは、もっともな話だと思う

もう一つ考えられることとしては、完全に禁止してしまわず制限を設ければよいのではないかということだ。「モルヒネは癌患者の痛みを取り除く便利な薬品です。モルヒネに罪はありません」と主張してみたところで、おいそれと手に入れられるものではない(そうすべきものでもないだろう)。だが、適切な目的で使用されている限り、一切の使用が禁じられるわけでもない。不正に使用された場合の責任の所在を担保する、という程度の規制も考えられるのではないか。まあ、それはそれで大がかりな話になりそうだけれど。

誰がコンテンツを残すのか

アクセス制御がなくても、著作権保護期間を延長しなくても、著作物(コンテンツ)は消えていく。消えゆくものは、そんなものを待たずに、あっという間に消えてしまうからだ。逆に、何十年も経って残っているコンテンツは、アクセス制御があっても、著作権保護期間が延長しても残るだろう。国会図書館に古くからの書物が残っているのは「書籍が複製できたから」ではない。残す仕組みが強制されていたからだ。その意味で、グーグルのブック検索は図書館の代わりにはならない。版権レジストリで拒否できてしまうためだ。

国立国会図書館法の第24条には国会図書館に納入すべきものとして、図書以外に映画フィルムや蓄音機用レコードが指定されている。これをきちんと機能させるべきではないだろうか。

これについては以前書いたものがある→「著作物の保護期間が短ければ、著作物の保存は進むのか

マジコンは問題か

身近で見かけるマジコン利用が複製された市販ソフトばかりだったら、そりゃあ問題意識を感じるんじゃないだろうか。それを避けるにはマジコンをもっと独自ソフトの開発に利用してもらうよう努力すればいいと思うんだけれど、そんな印象はまるでない。まあ、「マジコンはゲームを買ってもらえない子供のためのツールなのか」って聞かれて口をつぐんでしまう関係者の気持ちはわからないが、「ハードには金を出しても、ソフトには金を出さない」って、いったいいつの時代の話なんだろう。

*1:リアルネットワークス、DVDコピーソフト「RealDVD」の販売差し止めを受け入れ」(CNet)

*2:日本固有の「レンタルCD」が、その代表格。

*3:冗談です、念のため。

*4:heatwave_p2p さんが、そう書いていると言っているのではない

*5:しかし、これもアクセス制御を回避してアクセスしてるんじゃなくて、複製してるわけだよね。RealDVD の件を考えれば、アメリカだったらこの手の本にも多額の賠償金を負わされそうな気がする。

*6:私自身は DRM 付きの音楽など買うつもりはないのだが。

*7:合法だとか違法だという主張はしていない。念のため。

*8:開発会社はハドソンとか色々あったけれど。

*9:まったくの自由とは言わないけど XNA とかあったりするわけで。

*10:かつて EPSON が発売していた PC-9801互換機