紙の書籍でできて、電子書籍でできないこと

電子書籍も借り貸しできますー米Amazon【湯川】」(TechWave)という記事があった。「電子書籍市場が伸びていく」ということに否定的な人なんているのだろうか。実は、私がこれを書いた頃は、この不景気で2009年はそれほど伸びないかもしれないと思っていたのだが、そんな予想も外れて2009年も大幅に伸びている*1。毎度同じことを繰り返しているけれど、日本で電子書籍が普及していない、というのは数字を見ない人の戯言でしかない。

しかし、それは「出版が電子書籍に置き換わっていく」ということとは違う。この記事には、蛇足として「ほかになにか紙でできて、電子でできないことってあったっけ」とコメントされているのだけれど、そんなのいくらでもあるじゃないか(他のはてブでもコメントされていたが、ほんとうに“蛇足”としか言いようがない)。私がはてブにざっくり書いものを、リストアップしてみよう。

  • 電池なしで読める*2
  • 叩いても落としても割れない
  • (現状で)300dpi程度の解像度がある*3
  • 発色が違う*4
  • バイスにサイズの制約を受けない*5
  • 飛び出す絵本のような仕掛けができない*6
  • 出版社やデバイス会社が潰れても、半永久的に保存できる*7

かつてレコード屋があった頃にレコード屋を見て、CD屋ができたらCD屋を見て、ビデオショップやらレンタルビデオやら、レーザーディスクとか、DVDショップとか、このところはblu-rayの販売コーナーに行った人なら、そこに整然と商品が並べられていることがわかる。“再生装置”が必要だから、ほとんどの商品は同じ形をしているのだ。書籍は違う。リアルな書店に行けば、本のサイズ、紙の質や厚さが実にさまざまである。“再生装置”が要らないからだ。日本で、電子書籍音楽配信ビジネスが携帯中心になっているのは、海外なら“スマートフォン”と呼んでもらえそうな高機能な携帯電話を誰もが持っていて、他の再生装置を持たなくても、携帯電話を再生装置として活用できたからだ。おかげで昨年のモバイルコンテンツ関連市場は、コンテンツ市場だけでも5525億円にも及ぶ*8

もちろん、「これらの理由があるから移行できない」というものではない。前述のとおり、電子化されているものは増えているのだし。でも、リアルの書店を見まわして、これらが全部電子化して済ませられるようになるだろうかと思うと“無理”という印象を持たざるをえない。その感覚は、レコードやDVDとは違う。たとえば、10年後に電子書籍が出版市場の半分を占めているという気はまったくしない。そもそも、現在電子書籍”をネタにして成功しているのは紙の書籍ではないか。もし、「絵画も、いずれはすべて電子化されていくのでしょうね」という人がいたら信じてもらえないと思う。電子書籍には、そういう印象を持ってしまうのだ。

*1:日本の電子書籍市場、2009年は574億円〜89%がケータイ向け」(Impress)によれば、574億円。

*2:“再生装置”が要らないということ。

*3:もちろん印刷の質にもよるが、紙と画面の解像度は現状では比較できるレベルにない。

*4:Kindle のモノクロに比べても、iPad 系に比べても読みやすいカラーが使えるという意味で。

*5:ポケットに入れられるA6サイズとか、大判のB4サイズとか、見開き、観音開きなど、バリエーションが豊富。

*6:不思議の国のアリス」のようなアプリができるという意味とは違う意味で。ロバート・サブダなどを参照。

*7:まあ、amazonApple が潰れないだろうという話はあるだろうけれど。

*8:モバイルコンテンツフォーラムの「発表資料(PDF)」より。