アクセス制御の回避規制に関する既視感


このくらいは朝飯前と言いたいところだが、朝飯は食べてしまったので昼飯前の分として書いておこう。

KinectXBOX360 以外で使えるのはなぜか

小寺信良氏が「アクセスコントロールの弊害についての補足」というエントリを書いている。ここでは、MicrosoftXBOX360 用に出したオプション Kinect について、このように書かれている。

アクセスコントロールへの規制は、こういうムーブメントが日本だけで起きない、起こせないという可能性も出てくるのではないか。日本のエンジニアは、ハッカーというよりはきっちり真面目な人達が多いので、あきらかに違法認定されたものには手を出さないし、面白い技術を開発しても発表できなくなる。これは日本の知財戦略にとって、大きなマイナスになり得る。

反対派の理由付けが妄言ばかりだと、正当な反対理由なんてないことが強調されてしまうことになるよ、とは言っておこう。

KinectXBOX360 ゲーム以外で使える理由について、engadget で紹介されている

…実際にオープンソースのドライバが公開され多数のプロジェクトが発表されていることについて、マイクロソフトの幹部はこうした利用はもともと問題視しておらず、USB接続をプロテクトしなかったのも意図的な設計であると語っています。

USBという規格をそのまま使っていて“プロテクトしていないから”つながっているのであって、元々アクセス制御なんてない。つまり、Kinect はアクセス制御の回避規制とは何の関係もない。

Linux での DVD 再生

小寺氏は、前日にも「アクセスコントロール規制を著作権法に組み込むとまずい理由」というエントリで、このように書いていた。

例えばアクセスコントロールの違法化で困るのが、LinuxでDVD Videoの再生が違法になってしまうということだ。なにせソフトウェアのDVDプレーヤーというのは、DVD Videoに対するアクセスコントロールを解除する機能なしには成立しない。しかしこの暗号化解除キーは、オープンソースのソフトウェアには貰えない。なぜならばオープンソースであるがゆえに、その解除キーも公開されてしまうことになるからである。

Linux で DVD を再生したければ、 PowerDVD for Linux がある。アクセス制御の回避規制が実施されたところで、PowerDVD for Windows に何ら影響しないのと同じように、「LinuxでDVD Videoの再生」をする PowerDVD for Linux にも影響はない。この手の妄言が出てくるのは、「Linux での DVD-Video の再生を心配している」からではなく「反対理由を考えているだけ」だからだろう。

以前のエントリ「マジコンとかアクセス制御の回避規制についての雑感」にも書いたけれど、現在検討されているアクセス制御の回避規制というのは、「アクセス制御を回避することを規制」するのではなく、「アクセス制御を回避して複製することを規制」するもののはずだ。この話は、どこかの議事録に残っていたものだし*1、関連する報道でも、そこから外れているような感じはしない*2

アクセス制限は無料で回避できなければならないか

映画館には代金を払って入るものだが、持ち合わせがないときに「映画館に入れないのはアクセス制限だ。無料でアクセス制限を回避できないのはおかしい」という人はいない。Kinect のドライバはオープンソースで登場したが、Linux 用の DVD プレーヤーが無料で存在しないことは別に問題視されるようなことではない。Windows 用の DVD プレーヤーだって無料なわけではない*3。必要なら、メーカーにお金を出して作ってもらえばよいというだけの話だ。

そもそも何らかのライセンス料を払って「アクセス制御」を回避(というか利用)できるのなら問題ないのではないか。それこそ日本の iTunes Store では、いまだに FairUseFairPlay が使われているようだが、FairUseFairPlay は「他社がライセンス料を払って使わう」ことすら認められていない。その方がずっと問題ではないのだろうか。

小寺氏が指摘する Jailbreak の件も「アクセスを回避してアクセスする」だけのことで、日本でも違法扱いされてはいないようだし、現在検討されている「アクセスを回避してコピーする」問題とは別物だ。

MIAUとしてはマジコン対してのピンポイントに規制であればあまり積極的に反対する理由は見つからないのだが、これがアクセスコントロール全般に規制がかかると、困るところは沢山出てくるので、ざっくりとした規制には反対であることを両省庁に訴えてきた。

ということらしいが、アクセス制御全般に規制がかかるという“現在検討されているもととは違う”話を挙げるからこそ困るところが出てくるだけで、“現在検討されている”アクセス制御を回避した複製という話については正当な反対理由なんてない、ってことになりそうだ。まあ、MIAUによれば、だけどね。

ああ、なんだかダウンロード違法化の際にも同じような状況があった気がするな。

*1:今さら調べなおすのは面倒だが、「そうではない、アクセスが規制されるのだ」という記録があるなら、具体的にご指摘ください。

*2:MIAU 関係者のものを除けば。

*3:エディションによっては標準機能になっているが。