「CD買おうぜ」を応援する

「CD買おうぜ」 ネットに対抗、若手音楽家ら呼びかけ」(朝日新聞)という記事に対して、批判的なブクマエントリが色々あるようだ。

でも、中学の時「さだまさし、いいよ、さだまさし」と言っているのに相手にされず、高校の時に「ポケコン、楽しいよ、ポケコン」と言っているのに一緒にプログラム組もうなんて話にならず、大学に入って「ビデオクリップ、はまるよ、ビデオクリップ」と言っているのに誰にも理解されず、社会人になって「これからはオブジェクト指向だぜ」と言って、これはまあ受け入れられたけど、21世紀になって「ドメイン、取ろうよ、ドメイン」と言っているのに耳を傾けてくれる人がほとんどいない我が身を振り返ると*1、「CD、買おうよ、CD」と言うくらい別にいいじゃないか、と思う。

なにしろ、この記事は「“音楽”が売れなくなっている」ということを悲観したものというわけではないし、記事を読む限りレコード会社がけしかけて「もっと音楽に金を払え」という運動をしているわけでもない。たんに当人が感じる「CD の魅力」を訴えているだけである。むしろ、CD 店からの協力を断っているというのだから、ほんとうに個人的な主張なのではないか。非実在青少年とかで「表現の自由」を言う人は、これくらいの主張は表現の自由と認めるべきではないのか(まあ、批判もまた表現の自由なんだろうけど)。

それに記事に掲載されているグラフを見てもわかるとおり、CD が売れなくなってきているとは言え、音楽配信がそれにとってかわるほどの勢いがあるわけではない。「レコードから CD を思い出せ」と笑う声もあるようだが、そう言っている人にその時代を思い出してもらうため、例によって RIAJ の統計を参考にしてみた。音楽ソフトの売上(金額)からレコード、CDを抜き出し、有料音楽配信の数字と合わせた数字が以下の通り。

レコード CD 配信
1981 172,407
1982 155,292
1983 152,682
1984 146,570 14,439
1985 130,246 47,931
1986 103,305 97,912
1987 69,933 139,016
1988 33,206 205,248
1989 7,142 286,761
1990 1,855 323,349
1991 1,484 399,796
1992 1,853 438,531
1993 1,522 480,464
1994 1,081 492,241
1995 881 551,169
1996 1,312 562,582
1997 1,369 567,078
1998 1,484 587,878
1999 3,575 551,296
2000 2,069 523,879
2001 1,351 489,578
2002 782 431,806
2003 676 387,988
2004 520 368,611
2005 406 359,800 34,283
2006 337 344,518 53,478
2007 563 327,174 75,487
2008 352 291,265 90,547
2009 190 245,971 90,982

グラフにするとこうなる。

CDが登場して4年でレコードの売り上げを抜き、5年目にはレコードはCDの6分の1以下に、6年目には40分の1以下にまで落ち込んだ。ところが音楽配信は、登場して5年たつのに、ようやくCDの3分の1を超えたところである。だから、「レコードを思い出せ」と言ってみたところで、状況はまるで違うのである。活動を始めた秦拓也さんが言うところの「音楽を形の無いデータでやり取りするだけなんて、あまりに味気ない」に賛同するかどうかはともかく、CD がこれだけ生きながらえているのは、それだけ利点があるからだろう。

思うにレコードから CD への移行では「ジャケットのサイズが小さくなってさびしくなったなあ」という程度で、ほとんど失うものがなかった。ノイズがなく、すり減ることもなく、再生速度も安定している*2。白黒テレビからカラーテレビへの移行と同じように、障害になるのは「新しい機械を買う」ことくらいだ。

だが、CD から音楽配信への移行は、そういうわけにいかない。個人的に一番気にしているのは保存性である。「デジタルなんだから、いつまでも保存できる」というのは一面では真理だが、本当にそうだろうか。携帯電話で買った「着うた」は場合によって新しい携帯に引き継げなかったりするらしい*3DRM がなく、パソコンでダウンロードした楽曲だったらよいだろうか。それでも、パソコンを買い替えたときに、毎度毎度転送し続けるのも大変そうだ*4

「CD-R に焼いておく」というのも信頼性に欠ける。3年ほど前に、Nick Beggs のソロアルバム(CD)を買ったことがあるのだが、なんと CD-R 製だった。そして、しばらくしてリッピングしなおそうと思ったら、CD-R が読めなくなっていた。CD-R が安物だったんだろうとは思うが、磁気メディアにしろ、光メディアにしろ、放っておいたらいつかは消えるという覚悟が要る。その点、CD は物理的にプレスされているのだから、さびに気をつければ保存性に対する信頼感は高い。

もちろん、「そんなにいつまでも聴こうと思っちゃいない」という意見はあるだろう。そして、それは音楽業界が導いてきた風潮でもあるとすら思う。ドラマやコマーシャルに楽曲を提供し、繰り返し聴かせることでヒット曲を編み出してきた。その結果、皆が聴きたがるのはそうした曲ばかりになり、売れるアルバムもヒット集だけという状況は、そのように業界が誘導し続けた結果だと思う。

それでも、「いつまでも聴きたい曲」があったら、それは CD で買うことを薦める。気に入った曲が、いつまでも音楽配信で提供され続けるとは限らない。「リッピングしたいときには、親*5はなし」というではないか。とにかく声を大にして言いたい>「売り物で CD-R はやめてくれー」(←そこかよ)

*1:誇張してます、念のため。

*2:今の人たちはワウフラッターという言葉を知らないかもしれない。

*3:キャリアを変えて引き継げることはないようだ。

*4:私の場合、音楽配信で楽曲を購入したことはないが、以前電子書籍はデータがどこかに行ってしまった……。

*5:マスターの意。