Amazon MP3は日本で流行るか

DRM フリーの音楽配信

Amazon.co.jp、DRMフリーのMP3楽曲配信を開始」などで報じられた通り、DRM フリーの音楽配信サービスである Amazon MP3 が日本でも始まった。1100万曲という楽曲は、やはり洋楽が中心のようだが、これは“DRM フリー”というサービスの特長に加えて、魅力的なビジネス規模になりうるのか様子を見られているのではないかと思う。米国でも決して iTunes Store と比較できるほどの規模に成長しているわけではないようだが*1、日本では、その iTunes すら歯が立たない「着うた」という市場があるからだ*2

Amazon MP3 より安価なサービス

着うた需要の多くはシングルと推察されるが、アルバムについてはどうだろうか。この領域で、Amazon MP3 は、より安価なサービスと競合することになる。こう書けば予想されるだろうが、言わずと知れた「レンタルCD」である。上記の記事によれば、アルバムは600〜2000円前後で販売されるようだが、TSUTAYA DISCAS を使えば1枚500円でレンタルできる(送料込)。一度に借りる枚数が増えれば、より安価に借りられる(最低は200円/枚)。しかも、「ジャニーズのCDがサービス対象外」ということもないし、CD のリッピングは元から DRM フリーである。

一般的に、映画が一度見たら返しておしまいになるのと違って、音楽は繰り返し聴くものということは大きな違いである。だからこそ、ポータブルプレーヤーに入れて持ち歩きたいという需要が生まれる。即時性だけが求められるわけではない。また、楽曲配信では、ジャケットとか握手権といった「CDを買ってこそ手に入れられるもの」が付属するわけでもない。Amazon MP3 もパソコンを必要とするサービスであり、MacBook Air のように“ドライブがない”環境というのでもなければ、DISCAS で借りてリッピングする方がずっと安上がりなのだ。即座に聴くために1000円余分に払うかというと、なかなか難しい気はする。

Amazno MP3 は、携帯とうまく連携させるソフトウェアを提供するなど、よほど頑張らないと日本で流行らせるのは難しい気がする。

Apple の立場

"Thoughts on music" を覚えているだろうか。「FairPlay を他社のデバイスにライセンスせよ」という声に押されて、Steve Jobs が出したメッセージである(2007年2月)。「楽曲の保護はレコード会社の要求である。FairPlay をライセンスしてもよいが、もっといいのは DRM フリーの世界だ」というメッセージが概ね肯定的に受け止められた*3。肯定的な印象が続いたのは、その3か月後に EMI の楽曲が DRM フリーになったことも影響しているだろう。

しかし、不思議なことに他のレーベルについての DRM フリー化は Amazon MP3 に後れを取った。2008年1月に Amazon MP3 が登場しても、iTunes は FairPlay をライセンスせず、他のレーベルについては DRM フリーにしない状態が続いたのである。iTunes Plus が登場したのは、1年も遅れた2009年になってからだ。FairPlay が防いだものは、楽曲の違法コピーというより、他社デバイスの進出ではないのか。私には、iPodiTunes が絶対的な地位を獲得してから、ゆるゆると囲い込みを外したようにしか見えないのだが。

日本ではどうだろう。まだ、FairPlay が外された話は聞かないし、日本のレーベルからは DRM が要求されているだろう。だが、Amazon MP3 で DRM フリーで配信されているものまで、iTunes Store で FairPlay を続ける必要があるのだろうか。日本の iTunes Store は、いつ "Plus" になるのだろう。

*1:デジタル音楽市場でiTunes Storeが70%のシェア」によれば、iTunes の70%に対して、Amazon MP3 は12%。

*2:RIAJ の統計」によれば、日本の有料音楽配信市場の9割近くは、携帯向けで占められている。

*3:実際、レーベルからは「別にライセンスしてかまわない」と言われていたが。