ゼロ年代のワースト映画

破壊屋さんで「ゼロ年代のワースト映画」という投票企画をやっている。年末には「ゼロ年代のベスト映画」というワクワクする企画があったのだが、こちらはワーストなのでシクシクする。

そもそもワースト映画への一般投票というのは、なかなか難しい企画だと思う。プロの映画批評家、あるいは破壊屋さん自身のようにあらゆる映画を観るという意気込みがある人はともかく、凡人は面白そうな映画こそを観に行くので、「面白そうだと思って本当に面白かった」→ベスト映画に投票であれば票が集中するのに、「面白そうだと思ったのに、たまたまつまらなかった」→ワースト映画に投票では票が分散するのではないだろうか。それは観た映画にしか投票できないという条件があるからだけど、例年の「この映画は一体誰が観に行くんだ!?大賞」受賞作ってほとんど観たことがない。まあ、私はゼロ年代ベストにも未見の映画が多いのでアレなんだけれど。

というわけで、私の投票内容は以下の通り。【ネタバレ】とあるものは、ネタバレを含んでいるので要注意。

1位「ファイナルファンタジー

「これがゼロ年代でよかった」と、安心してワーストに推薦できる映画である。酷い映画だとは聞いていた。だが、私は元々 CG が好きだ。あの『TRON』だってストーリーは単純すぎると批判されたし、興行的には失敗した映画だ。*1でも、TRON は良い映画だと思うし、実際、これで映画を目指したという映画人も多い。ついでに言えば、私は「キャシャーン」も好きだ(映像的に)。だから、中古DVDを見つけたときに迷わず……というわけでもないが……買った。

その駄作ぶりは凄まじい。「CG だけは評価できる」という人もいたが、「トイ・ストーリー」が6年も前に出ていることを思うと、ただ実写を真似ようとして失敗したことは明らかで、「実写よりもお粗末な映像」が出来上がっただけである。しかも、喋る口元の表現が難しいのか、背後からのカットやマスクしたまま喋るという不自然な映像が続く。「これ、実写でやればよかったのに」と思ってしまう(「バイオハザード」が成功しているだけに)。実際、実写(+SFX)で撮影していれば、ずっとコストを抑えることができただろう。もちろん、ストーリーに映像を補う力がないことは先刻承知の通りである。

なにはともあれ、この予算があれば、もっと面白い映画を何本作ることができただろう。

2位「銀幕版 スシ王子! 〜ニューヨークへ行く〜

破壊屋で悪名高かった映画。見る機会なんかないだろうと思っていたけれど、前職時代の北海道出張の折、雪で帰りの飛行機が飛ばず、ネットカフェで一夜を過ごしたときに無料で観られるというので観た。「ファイナルファンタジー」はいわば素人が自分の趣味のために会社の金をつぎ込んだようなものだけれど、これはプロの作品である(はずだ)。北大路欣也だけが無駄に好演しているのだけれど、総じて「日本のクリエイターたちって、ずいぶん恵まれているんじゃないか(ただし一部に限る)」ということを実感させられる映画である。

3位「ミスター・ルーキー

タイガースファンではまったくない(ドラゴンズファンである)が、現実にはありえない覆面ピッチャーという設定に惹かれたことと、意外に上映が延長されていたらしいという話を覚えていたので、テレビで観た。「長嶋一茂がタイガース映画の主役を演じる」というキャスティングも興味深いものだった。結論からいえば、タイガースファン以外が観るようなものではなかった。大根演技ばかりの中で、こちらも橋爪功が無駄に好演していたのだけれど、なぜ長嶋一茂日本アカデミー賞新人賞を取ったのかはまったくわからない。

4位「劇場版ポケットモンスター/ダイヤモンド&パール アルセウス 超克の時空へ

とにかく自分が観たい映画でないものを、(寝たら叱られるし、まわりにも迷惑なので)見続けることが相当に辛いものであることを実感させられる。とにかく「子供向け」って、こんなのでいいんだっけという疑念をぬぐえない。ただし、映像はそれなりにお金がかかっているし、ご都合主義だらけではあるものの、ストーリーが破綻しまくっているというわけでもない。もっと下のランクでもよいのだけれど、子供のいない人は観ないだろうから他に投票する人がいないかもしれないので、ポイントを上げるため4位にした。なお、他のポケモン映画も似たり寄ったりだけれど、そこで持ち点を消費するのはもったいないので投票するのは最新の作品にとどめておく。

5位「交渉人 真下正義【ネタバレ】

ユースケ・サンタマリアは悪い俳優ではないと思うが、脚本が酷い。凡庸とはいえ、あれだけ冷静沈着な交渉人を演じさせておきながら決断を勘に頼らせるとは恥を知れと言いたい。手掛かりらしいものがわからないまま、最後に何がわかるのだろうと期待させてあの結末。「激突」を真似たつもりかもしれないが、それなら展開を変えるべきである。何より、この映画の興収が42億円とヒットしたのが許しがたい。面白い邦画は、そこらの“ハリウッド大作”よりずっと面白いと思うのだが、つまらない邦画はつまらないハリウッド映画と比べ物にならないくらいつまらない。バシバシ宣伝すりゃいいってもんじゃないぞ:-<

6位「地球が静止する日

ここらでハリウッド映画を入れてみる。お金はかけるが脚本の中身のないパターンが散見される。その典型的なひとつが本作である。リメイク版なので脚本の問題はオリジナルが古くて原題に合わないからなのかと思っていたのだが、そもそも「静止する日」の設定が変わっていたようだ。そりゃないよ。

7位「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国

かつて恋した人が、いつまでも良き思い出として記憶に残っていたのに、年月が過ぎて会って見たら、すっかり風貌が変わってしまい、「会わなきゃよかった」と後悔してしまうような映画。登場人物もそんな感じだし。類似作品→「ターミネーター4

8位「ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝」

「作らなきゃよかった続編」の代表作として。あまりに“ご都合主義”な展開が目に余る映画なのだが、それよりも、いい加減“ハムナプトラ”というのをやめてはどうだろうか、という思いを込めて。類似作品→「AVP2 エイリアンズVS. プレデター」「エバン・オールマイティ」

9位「フライトプラン【ネタバレ】

ジョディ・フォスターが嫌いなわけではないが、彼女の出ている映画は苦手だ。どこかしら説教臭さを感じてしまう。その中でも凡作だと思うのが本作品。どう考えても、それしかない方向なのに展開がじれったい(ヒステリックなジョディもうざい)。「どんでん返し」すりゃ良い映画ってもんじゃないぞ。だいたい犯人は周到な計画を立てているはずなのに、その計画の前提がありえないほど偶然頼み。結末を「親子の愛情」とか言いたそうなんだけど、あまりに薄っぺらいストーリー。

10位「DRAGONBALL EVOLUTION

封切り日に観に行った映画だが、何も言うまい(たぶん皆が言ってくれるので)。投票数が多いと思われるので、あえて10位にしたが、もちろん、もっと上位でもよい。

余談

たまたま邦画5作、洋画5作という順序になったが、「つまらない邦画はつまらない洋画よりつまらない」という印象はたしかにある。ただ、ハリウッド映画(とくに映像に金をかけた大作)は、脚本が金太郎飴みたいな印象がある。私はかねて「直子の脚本」*2と呼んでいるのだが、概ねこんなところだろうか。

  • 後の伏線として使えそうなエピソードとともに主人公を紹介
  • 思わぬトラブルの発生(やがて大事件に)
  • 対策を立てるも効き目なし
  • 主人公または身近な人が巻き込まれていく(絶体絶命のピンチ)
  • 主人公が困難を乗り越える過程で成長
  • 親子または男女の絆を示すいくつかのエピソード
  • 主人公の職業や特技によって意外な方向で解決(または都合がよいだけ)
  • ハッピーエンド

やっぱり脚本が面白い映画こそが面白い。

懺悔の追伸

日頃から「くそつまらなかった」的なことはよく書いているのだけれど、テレビ解説者として知られた淀川長治氏は、どんな映画でも誉めていた。そんなエントリを白倉伸一郎氏のブログより。→ http://homepage.mac.com/cron/iblog/C1790922926/E20060415015727/

*1:余談だけれど、『TRON』の映像美は CG のそれとは違う。そもそも全編が CG で描かれたものではなく、アニメーターが大量動員されているし(エンドロールを見よ)、人間との合成は通常スチールで行うようなアナログによる膨大な手間がかかっているのだ。

*2:元ネタはこれです、念のため→ http://www.teglet.co.jp/naoko/