実写版「進撃の巨人」評

はじめに

実写版「進撃の巨人」を見てからだいぶ経つので今さらだけど、レビューを書き残しておこうと思う。年末ごとに破壊屋さんが「この映画はいったい誰が観に行くんだ!?大賞」(略称:誰映、日本版ラジー賞みたいなもの)という企画をしていて、映画を観終わって、ああこれは誰映候補の筆頭だな、と思った程度で、いつもなら、そこに「つまらない理由」をコメントする程度なのだけれど、町山智浩脚本というところにひっかかりを感じて、きっと長文になって誰映のコメントに収まりきらないだろうと思った次第。

最初に断っておくと、ツイートもしたけれど町山智浩は人物としては好きなほうだ。上杉隆との論争やら「匿名ダイアリーの公開質問へのお答え」といった姿勢などを見ても、普通に好感の持てる人物である。それを踏まえねばならないほどに、以下で批判的なことを書くわけだけど。

町山智浩の映画塾!」の「まどか☆マギカ」編

少し長い前振りがある。

今年2月に、たまたまWOWOWの企画「町山智浩の映画塾!」で「まどか☆マギカ」を取り上げるというツイートを見つけて応募したら当選した。そんな簡単に当選できるほど人気ないの?と思ったら、そもそもユーロライブという場所の定例&有料企画で、入ってみたら立ち見の人もいるという人気だった。「すげーラッキーじゃん」と思ったものだ。しかも、案内文には「日頃アニメは見ないのですが逃げられなくなって」と書いてある。それほどアニメを取り上げるのは珍しいことのようだ。当日は押井守の「スカイ・クロラ」「イノセンス」の映画塾も収録された。そのようすは WOWOW の公式サイトで見ることができる。

収録内容はどうだったかというと、“トーク”は面白いけれど「まどか」の映画塾としてはイマイチだった。よくいえば期待したものではなかった。劇場版「まどか」(前編、後編、新編)を1回ずつ見ただけで語っているから、「まどか」について奥深い話はなかった。ぶっちゃけ「なんで、こんなものやらされちゃってるんだろう」という雰囲気がありありと感じられた。まあ、案内文に“逃げられなくなった”と書くくらい、“逃げられるなら逃げたかった”ものなのだろう。収録の初めの方で、誰か別の人を挙げて「あの人の評論は、自分の世界に持ってきたりしないところが凄い」と言っていた気がするんだが、この日の映画塾は、それこそ自分の熟知したテリトリーにもってきて話をつないでる、という感じがした。

誤解のないように補足しておくと劇場版「まどか」は私もたいして評価していない。そもそも、(深夜アニメの)テレビシリーズで、総集編のような劇場版で評価に値するものというのは記憶にない。総集編でない「涼宮ハルヒの消失」は良かったけど、テレビシリーズを見ていなければ良さがわからないだろうし、「デート・ア・ライブ」なんてテレビシリーズが好きな人だからこそ楽しめる劇場版だ。テレビシリーズをもとにした劇場版で、その背景を知らずに単体の作品として楽しめるのは、近年では「たまこラブストーリー」くらいではないだろうか。「まどか」は24分×12話を前後編の2本の映画にした上で、お金をかけたので、他の総集編映画に比べればマシだが、もともとテレビシリーズが24分×12話という構成を存分に活かした内容になっており、それが再現できているわけじゃない(頑張ったとは思う)。

そういう意味では、この劇場版に「面白かった」という評価を期待していたわけではない。ただ、「まどか」の劇場版を見て「たいしたことないよねー」というのは、ウィリアム・シャトナー時代の劇場版「スタートレック」を見て(テレビシリーズを見ずに)「スタートレックってたいしたことないよねー」というようなものだ。そういえば、映画「鈴木先生」への批判に対してもテレビシリーズを未見なのではないかという指摘があった。まあ、「映画評論家」として「映画」を評論したということであるなら、それはそれで仕方のないことだけれど、ぶっちゃけ「雑な仕事だな」という印象は否めなかった。

収録の最後に質問する機会が得られたので、深夜アニメについて尋ねてみた。そもそも日本にいないから見ていないし、たまに見ても「眠いことやってるなー、としか思わない」という回答だった。何それ。「なんで、あんなに画が動かないの?」とも。そんなの予算(&時間)のせいに決まってるわけだけど、そもそも、たまに見たテレビアニメが面白くなかった、って、映画を途中だけ見たけど面白くなかったという感想みたいなもんじゃないの? ジブリだって「ナウシカ」の頃は「話は面白いけど動きは雑」な感じなのが「もののけ姫」あたりから「動きは綺麗だけど話がつまらない」になってきたんじゃないか? なんだかとても残念だった。まあ、このときの映画塾は「俺はアニメ嫌いなんだよ(こんな仕事に呼ぶなよ)」という感じがにじみ出ていたし、まわりもそういう仕事を持っていかない方がいいと思う。というか、逃がしてやんなよ

実写版「進撃の巨人」評【ネタバレ注意】

というわけで本題。といっても、総括すれば「つまんなかったよね」という話だ。これが“賛否両論”とか言われていた理由が私にはわからない。どこかに“賛”があった? 決してマンガ原作の実写映画が駄作ばかりに見える、とは思っていない。「ピンポン」はいい映画だし、(私は見てないが)家族によれば「テルマエ・ロマエ」は面白かったらしい。本作に比べれば、まだ「ガッチャマン」の方がマシだ(映像として)。さらにいえば、本作品は“アニメ”という映像化の成功例があったばかりだ。あれも放送が始まってからアニメーターを追加募集するという酷い状況だったようだが、それだけ手間をかけていたということでもあり、全体としては好評だった。

あの話を日本人が演じるために名前を日本人名にしたり、「リヴァイ」を「マキシマ」にしたという程度のことは、何も問題とは思っていない。名前なんて記号だ。だが、マキシマはリヴァイと違ってクールじゃない。あれじゃ、ただニヒルを気取った嫌味な野郎だ。これも役者の問題ってわけじゃないだろう。エレンやミカサのキャラ設定変更も悪化しただけだ。あのヘタレに感情移入しろとでもいうのか? 原作の印象的なエピソードがちりばめられた程度で何が楽しめるというのだろう。

※下記、もともと壁の外周はスペインほどの大きさがある、という設定らしい。へぇぇ。
そもそも、のっけから、だだっ広い“農地”が出てくるけど、何あの解放的な場所。それなりに広い農地がなければ、人々の食糧をまかなえないという理由付けはあるのかもしれないけれど、あの場面では“壁”が見えていなかったと思う。あの壁は50mの高さがあるはずで、これは25km遠くからでも見えるはずのものだ(少し高いところに登っても見えないなら、さらに広大な土地ということになる)。壁の中は安心だけど閉塞感がある、という設定まで変えていいのか?

たまたま同じ日に「ジュラシック・ワールド」を見たせいかもしれないが、映像も「すごく頑張った」のかもしれないけれど、「すごい映像」という感じはしなかった。そこにはもちろん予算とか時間の違いはあるのだろうけれど、深夜アニメに対して「動かない」批判したくらいなんだから、甘んじて受けてもらおう。映像すごくなかったよ。もうひとつ気になったのが、血しぶきがカメラに当たる感じの「撮影カメラを意識させる演出」だ。そういう演出は他にもあるというか、それこそテレビアニメの25話にもクライマックスでカメラ移動を意識させるシーンがある。それはクライマックスで“ここ”という場面で使われているから印象的なのであって、そんなしょっちゅうカメラを意識させてどうするんだよ。

町山智浩が実写版「進撃の巨人」についてラジオで語っている書き起こしを読んだが、この映画を「面白い」と発言しているのは山里亮太だけで、町山智浩は「ナントカがすごい」という発言しかしていない。どうやら本作についての“評論”はしていないようだ。まあ、自分で関わっておいて「つまらない」とネガティブな評価を公にするのは企業なら背信にあたるような行為だからできないのだろう。そもそも脚本における疑問点は、原作者の諌山創や編集者の川窪慎太郎、樋口真嗣監督が色々口出しした結果だと伝わっている。それが納得できるほど、「才能が潰しあった結果」ということは容易に想像できる。その意味では町山智浩自身、“被害者”なのかもしれない。だが、深夜アニメを雑に扱ったんだから、この被害はきっちり受け止めてもらうとしよう。「ねぇ、今、どんな気持ち? ねぇ?

……とここまでが「進撃の巨人(前編)」を見たときに書いたものだ。なんとなくアップし損ねたまま後編の上映が始まってしまったので、あまり見るつもりはなかったけど、見に行くことにした。それは見ずに批判するわけにはいかないからなというだけで、後編は悪評も聞こえてきていたし叩く気満々で見に行ったのだが、意外にまともだった。前後編を通しておススメ映画とまでは言えないけれど、前編で感じた圧倒的な“駄作感”は後編にはなかった。

もちろん“粗”はある。映像は相変わらずだし、クライマックスでも「それ、壁の高さが低くなるし、そもそも強度が弱くなるんじゃないの?」と思ったし、そもそも壁の上まで登ったことがなかったという設定(?)は苦笑するしかなかった。とはいえ、巨人の理由付けも、(ありきたりではあるけど)“決着させる”ものとしては妥当だったし(むしろ原作が違った結末を迎えたら意外)、悪役化したシキシマも、それなりの理由が付けられていた。

世間では後編の方が悪評のようだけれど、ちょっと理由がわからない。ただ、後編の興収が悪いのは、間違いなく前編のせいだろう。ある意味“中途半端”に質が上がったことで、どうでもいい凡作になり果てたとは言える。やはりテレビ版アニメの続編に期待する方がよさそうだ