新型コロナ: 規制を解除したら経済は元通り動くのか

※2020/7/4更新。オルタナティブブログはコメント機能が無効化/非表示になりました→過去コメント

■「感染者も死者も絶対数は少ない」という主張
新型コロナ: 「インフルエンザでも人は死ぬ」との比較」で引用したアメリカCDCの数字をはじめ、新型コロナをインフルエンザと同じように考えてはいけないことは明らかですが、今なお、インフルエンザに比べて感染者や死者の絶対数が少ないことを理由に「数が少ないのに騒ぎすぎ」というコメントが相次いで寄せられるのは不思議でなりません。

いうまでもなく、絶対数が少ないのは自粛して感染の増加を抑止しているからです。3月9日に、アメリカのトランプ大統領次のようにツイートしました。

"So last year 37,000 Americans died from the common Flu. It averages between 27,000 and 70,000 per year. Nothing is shut down, life & the economy go on. At this moment there are 546 confirmed cases of CoronaVirus, with 22 deaths. Think about that!"
「昨年は37,000人のアメリカ人がインフルエンザで死亡しました。年間では平均27,000人から70,000人です。それでもシャットダウンされるものはなく、生活や経済は続いています。現在、新型コロナの感染が確認されているのは546人で、死者は22人です。それを考えてみてください!」

4月16日時点での日本の感染者は8582人、死者は136人です。日々、感染者は増加していますが、緊急事態宣言より前から強い自粛要請があったため、アメリカほどには増加していません。しかし、おそらく週末で検査数が減っているであろう日を除けば十分に感染者の増加ペースが下がってきたといえるほどではありません。

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なにより、感染者数から回復者数を差し引いた「現在の感染者数(Active Cases)」が増え続けています

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すでに医療施設には余裕がなくなり、感染者が増加した都市部では感染者を隔離するために民間のホテルなどを借り受けているという状況です。そうした特別措置が必要なくなるほどに「Active Cases」が減らなければ、規制解除など夢です。

■感染はどこまで広がるのか
死者の絶対数が少ないのは、そもそも感染が広がっていないためです。日本で確認されている感染者は、人口の0.0068%だけです。一方、ニューヨーク州では人口の1.15%が感染しています。
自粛しないで放置したら、どの程度の割合まで感染が進むかは、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」が示してくれます。このクルーズ船では横浜を出発した初日(1/20)から感染者が乗船し、1月25日に香港で下船しました(この乗客の感染が判明したのは2月1日)、2月3日に横浜に入港し、2月5日に検疫が開始されるまでは、いわば無防備な状態でした。クルーズ船の乗員・乗客に対して検査が行われ、3711人のうち712人が感染が判明しています。これは全体の19.2%にも及びます

最近報道されていましたが、フランスの空母「シャルル・ドゴール」と護衛艦でも感染が広まったようです。検査を受けたのは1767人で、そのうち3分の2の結果が判明した時点で688人の感染が確認されています。残りが全員陰性だったとしても38.9%まで感染が広がっているということになりますし、残りの人たちが同じ割合で感染しているとしたら、半分以上にまで感染が及んでいたことになります。

感染症の「集団免疫」対策 なぜ英国は撤回したのか?」(NATIONAL GEOGRAPHIC)という記事では、(新型コロナが)「集団免疫を達成できる免疫獲得者の割合は人口のおよそ60%」と言及しています。感染を抑止しようとしない限り、それくらいの割合になるまで感染が広がる可能性がある、ということです。

西浦博氏が「新型コロナウイルスの流行対策を何もしないと、国内での重篤患者数が約85万人に上るとの試算」を公表されました。「重篤患者のうちほぼ半数の40万人以上が死亡すると予測している」そうです(※)。人口が日本の3倍にもならないアメリカではトランプ大統領が「対策をとらなかった場合、国内の死者数は150万~220万人に膨らむ恐れがある」と発表したことに比べればずいぶん控えめな数字です。
※中国での結果をもとに重篤患者の半数は助けられるという試算だそうですが、いくら同時でなくても85万人の重篤患者の半数を助けられるほど人工呼吸器や人工心肺(+医師)が充実している気はしません。

日本の人口と感染者率、現時点で推定される重症化率や致死率を考慮すればまったく大げさではありません。先月のアメリカを思えば、規制をしなければ感染者数が急増することは火を見るよりも明らかです。これまでの感染者数の推移から判断する限り、他人との接触を避け、強く自粛しない限り、この感染を抑えることができません

■集団免疫
集団免疫とは集団の一定の割合の人が免疫を持つことで新たな感染を生み出さないようになる状態のことです。感染によって抗体ができ免疫が生まれることが条件で、実際に感染するほか、集団に対するワクチン接種でも構成できます。ただし、現時点では十分に有効と確認されたワクチンはありません。そもそも免疫の仕組みすら明確に判明したわけではありません

どの国の感染者数も、あくまで検査で確認された数です。もし無症状者のような確認されていない(見えない)感染者が想像以上に多くいれば、集団感染(集団免疫)が構成できて感染が広がらないかもしれません(繰り返しますが、免疫がどのように有効かは未解明です)。最近、オーストリア政府が自国の状況を確認するために標本調査を行いました。

「無作為に選んだ国内に住む0歳から94歳までの1544人を対象にウイルスの遺伝子の有無を調べるPCR検査」によって「全体のおよそ0.3%が陽性と判定され」たそうです。人数にして5人程度の話なので、標本調査としては誤差の幅が大きくなりすぎるのですが、この時点でのオーストリアの感染者数が人口890万人に対して12200人(0.13%)ということを考えると、確認された感染者数の倍程度しかいない、ということになります。とても集団免疫が構成されたとはいえない状況です。

新型コロナの種類(変異)、BCG接種の有無、人種、生活習慣の違いなど、(早くから自粛が要請されてきたことを考慮せずに)日本の感染者数が抑えられていることに理由を与えようとされています。もしかすると本当に理由になっているものがあるかもしれませんが、「確定した情報は何もない」というのが現状です。

■規制を解除すれば経済は元に戻るか
世界には、新型コロナの感染が広まっても強く規制しない国がわずかにあります。日本も欧米の外出制限に比べれば緩い方ですが、ほとんど規制されていない国がスウェーデンです。スウェーデンの状況は、ときどき報道される程度で、あまり詳細に伝わってくることはありませんが、別記事にコメントされていたglobaljourneyさんが毎日のようにブログに状況を報告されています。そのスウェーデンでも経済問題があり、従業員のリストラが行われているようです。

当たり前のことですが、ビジネスの国際化が進んでいる今、欧米の多くが外出禁止のように厳しく規制している状況で、どこかの国だけが経済的に回復できるほど甘くはありません。一方、別記事で取り上げた中国・韓国だけでなく、強い規制を続けてきたオーストリア、スイス、オーストラリア、イランなどで「現在の感染者"(Active Cases)」がピークアウトしつつあり、完全とは言えないでしょうが規制が解除されつつあるところもあります。

そういう国々は、ふたたび感染者が増えることをおそれ、感染が蔓延している国からの渡航を規制するのではないでしょうか。日本はMERSが発生している中東諸国からの入国について注意を促していますが、それを挙げるまでもなく、新型コロナが世界に広まり始めた頃と同じように、感染者がほとんどいない国は、感染者の多い国からの渡航を規制・禁止されることが容易に想像できます。

各国が強い外出規制を続けて感染を抑え込んだ時期に、日本が自粛をあきらめて感染が広まってしまったら、ふたたび国際経済の仲間入りができるでしょうか。そうでなくても、20~44歳の人ですら24~50人に1人が重症化し、500~1000人に1人が死亡するという感染症です(アメリカCDCの推定に基づく)。"いつ"感染するかもわからない社会で、人々が安心して経済をまわすために働けるものでしょうか。私には、とても信じられません。十分に有効なワクチンが登場するなど、今はない決定打が生まれるのでなければ、自粛によって感染を抑える以外道はないのです。

日本には、欧米ほど強い外出規制ができる法律がありません。それは"自由を重んじる国"としては喜ばしいことです。コミケにしろ、音楽利用にしろ、フェアユースのあるアメリカですら許されないことが普通に認められているくらい"自由"の国です。もし、強く規制できなかったせいで新型コロナの蔓延を抑え込むことができなかったら、強く規制する法律が必要という話になっても不思議はありません。

自由を重んじる法律を守るためにも、今、できる限り感染を広げない行動をお願いします