2013年夏アニメのレビュー

個人的に、夏アニメは“大豊作”だったと思います。継続中ですが<物語>シリーズは安定していますし、2クールの放送を終えた「進撃の巨人」も序盤の作画問題が解消されたようで勢いがありました。「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」は、珍しくアニメ化が始まる前から知っていた作品であり、「バカとテストと召喚獣」などで知られる大沼心監督が原作の魅力を十分に引き出した作品だったと思います。
※例によって、多少のネタバレはご容赦のほど。

作品賞「帰宅部活動記録


そう、これです。休止が何回かあり、今月の10日深夜にようやく最終回を迎えたギャグアニメです。その分、“最終回の余韻”が相対的に強く残っているとは思いますし、ギャグアニメを選ぶかどうかで最後まで悩みました。しかし、夏アニメで一番気に入ったのは、やはりこれなのです。セルBDが各巻3話収録で比較的価格がリーズナブルということもありますが、はじめてBOXを待たずに全巻揃えようと思った作品でもあります。
帰宅部活動記録」に対する批判はあります。というより当初は否定的要素が目に付く作品でした。5人の主役のうち、安藤夏希の声を木戸衣吹さんがあてている以外、他の役は事務所のプロフィール紹介もないような声優があてるという、ジブリアニメを彷彿とさせる脱力感がありました。ときどき出てきたメタフィクショナルな展開も、ギャグアニメにありがちな安易な手法だと思っていました。その上、放送時間が深夜3時前後で普通の生活サイクルを送っているとリアルタイムで視聴するのは辛いものでした。前半は録画を見ることの方が多く、序盤は「木戸衣吹さんのツッコミを楽しむ程度のアニメ」と割り切っていました。
それでも中盤(5話)あたりから少し面白さが上向いてきたのですが、7話がそれまでの印象を吹っ飛ばしてくれました。映画「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」が好調な長井龍雪監督は「アニメでやれることは、まだまだ掘り尽くされていない」と語ったそうですが(「ニコニコニュース」より)、まさしくこの7話はそれを体感できるものでした。いわゆる「神回」と言ってよいでしょう。ここでストーリーを掘り下げることはしませんが、少しだけ触れておくと「しりとり」という古典的な素材を使い、その普遍的な感覚を利用した上で新しい仕掛けを追加し、最後のオチに至るまで実に素晴らしい展開でした。前半はほぼ原作通りで、それがアニメ向きの話だったということもあるのでしょうが、うまくアニメに昇華されており、ギャグアニメのお手本として末永く語り継いでいい回だと思います。※「しりとり」がテーマだけに海外向けに翻訳する際には面倒そうですが。
この一話だけですべてを決めたわけではありませんが、それをきっかけに過去回を見直すと、ぎこちない声優にも慣れ、その面白さを十分に感じることができました。個別の評価としては7話のインパクトを上回ることはありませんでしたが、終盤の構成もよく全体的には非常に満足できた作品でした。

主演女性キャラ賞「ミカサ・アッカーマン(進撃の巨人)」


あまり説明は要らない気はしますが、両親を殺され、自身も誘拐の危機に立ち向かって誘拐犯を殺すという暗い生い立ちを持ち、沈着冷静な性格を持ちながら、エレンの危機には我を忘れてしまうという熱い感情を持つ「進撃の巨人」のヒロインです。いや、そういう設定はともかく、エレンの危機を救わんとする際のミカサは驚くほどカッコいいわけですね。今期は、黒木智子(私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!)は論外としても、倉橋莉子(恋愛ラボ)、山神ルーシー(略)(サーバント×サービス)、弁天/鈴木聡美有頂天家族)など魅力的なヒロインが多かったです。

主演男性キャラ賞「リヴァイ兵長進撃の巨人)」


主演かどうかのカテゴライズは迷うことも多く、リヴァイ兵長も2クールの後半になって登場したキャラではありますが、「夏アニメ」の範囲としては主演と言っていいでしょう。冷静かつ、リーダーとしても兵士としてもすぐれた人物として描かれていますが、冷静ではあっても、冷酷なわけではなく、個人の感情を押し殺して徹底してなすべきことをやり遂げる強い意志を持っています。あまり表情に変化がないキャラという面はあるのですが、間違いなく“カッコいい”存在でした。

助演女性キャラ賞「矢島美怜(げんしけん二代目)」


ざっくりまとめてしまえば、「げんしけん二代目」の登場人物は皆「クセがある良き人」です。矢島美怜は1話で入部する3人の新入生のひとりです。その意味では“主演”と言ってもよいのですが、「キリング・フィールド」で記者を演じたハイン・S・ニョールもアカデミー助演男優賞なのでヨシとしましょう。そして、過去、こんなにポジティブに描かれたデブがいたかな、と思うほどいいキャラクターなのです。「デブの発汗量をなめるんじゃねぇぞ」「デブの筋力をなめるんじゃねぇぞ」「一寸の腐女子にも五分の純情」などの名言も残しています。同じ「げんしけん二代目」のスザンナ・ホプキンスや「恋愛ラボ」の水嶋沙依理もよかったのですが、ここで矢島美玲を選んだのは決して親近感を持ったからではないと断言しておきます。

助演男性キャラ賞「斑目晴信(げんしけん二代目)」


過去の作品では主役ですし、彼も後半は主役級の描写をされ、エンドクレジットの声優紹介でも9話と11話以降では「1ページ目」に昇格しているのですが、リヴァイ兵長に押し出されたと思ってください。根っからのオタクだけど、長年、彼氏のいる女性に恋心を持ち続け、諦めきれないのが周囲にはバレバレの「ヘタレだけどいい人」です。終盤は、まさにその話題が中心になってストーリーが進行していき、そこでも過去作品が大きく絡んでくるのですが、たぶん、典型的なオタク像が描かれていると言ってよいでしょう。

非人間キャラ賞「モノクマダンガンロンパ)」


超高校級のなんとかという高校生たちがサバイバルを繰り広げるアニメ「ダンガンロンパ」の悪役であるクマ型のロボットです(モノクロなのでモノクマ)。「ドラえもん」で知られる大山のぶ代さんが30年ぶりに演じた新キャラ、かつ人生初の悪役というだけで出オチ感はあるのですが、ひょうひょうとした喋りとは裏腹の残忍な企みを持つキャラです。キャラ設定の詳細には踏み込みませんが、最終話の最後に登場した新キャラ「モノミ」をタラちゃん役の貴家堂子さんが演じているというのも興味深いところです。

女性声優賞「橘田いずみ(黒木智子、私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!)」


冒頭に書いた通り「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」(ワタモテ)は、アニメ化が決まる前から知っていた作品で、そういう作品に限って声優に違和感を持ちやすいということはあるのですが、この作品の“もこっち”に関しては、まさにぴったりの配役でした。「ワタモテ」は、そのタイトルに反して“悪いお前ら”は一切出てこず、悪いのは本人(もこっち)だけなのですが、そのクズっぷりがいかんなく発揮されていました。その橘田さんが、「恋愛リプレイ」でぼーっとした印象の八雲志乃役をあてていたということも意外でした。ちなみに「超次元ゲイム ネプテューヌ」の主要キャラクターは女神に変身するのですが、人間の姿と女神の姿のときで、声が全然違い、まさに“プロ”の声優の本領発揮という感じでした。

男性声優賞「櫻井孝宏(下鴨矢三郎、有頂天家族)」


有頂天家族」は京都を舞台にして、狸や天狗が人に化けて暮らしているというお話です。これも雰囲気があってお気に入りの作品なのですが、その主役である下鴨矢三郎(四兄弟の狸の三男)を演じているのが櫻井孝宏さんです。常時、多くの作品で活躍されている方を選ぶというのもなんだか負けた感じがしてしまうのですが(←意味不明)、わけのわからない展開で何が目的だか最後までわからなかった「犬とハサミは使いよう」でも、不条理な犬の役を演じていたのも高ポイントです。

主題歌賞「Best FriendS(藤女生徒会執行部、恋愛ラボ)」


ゆるゆり」「琴浦さん」の太田雅彦監督(シリーズ構成はあおしまたかしさん)の「恋愛ラボ」のエンディング曲です。女子中学校が舞台であり、キービジュアルを見ていたときは、「ゆるゆり」のような萌え系のコメディアニメかと思っていました。しかし、意外にストーリー性の高い作品でした。序盤でライバル役で登場した人物もあっさり仲間になり、多少の仕掛けはあるものの、仲良し生徒会役員たちの話です。「とっておきの関係 羨ましがられるような友達なんだ 私たちは」ではじまる歌詞は、仲の良さをアピールし、絵に描いたような(絵に描いてるんですが)さわやかなストーリーであることを想像させてくれます。

脚本賞帰宅部活動記録


本作品には原作(漫画)があり、アカデミー賞ならば「脚色賞」になるところです。おおむね原作をもとに話を膨らませている(ときどきカットされているものもある)という作り方になっています。作品賞でも紹介しましたが、序盤は打ち切るかどうか迷っていた作品でした。それが、中盤(5話)から面白くなり、7話で突き抜けました。全体的に、いかにもアニメ的な演出がなされているところがあるのですが、原作を読んでみると、それらの多くが原作に基づいたものであり、うまくアニメに昇華されているのです。メタフィクショナルの多用もギャグアニメを作る際の演出だと思っていたのですが、原作由来のものも少なくありませんでした。細かい伏線がしっかり回収されていたりするので、脚本だけでなくシリーズ構成がうまいのかもしれません。最終回の最後まで実に「帰宅部活動記録」らしい展開でした。

映像賞「進撃の巨人


放送が始まってから twitter でアニメーターを募集するなど、序盤は微妙なところもありましたが、2クール目に入ってからは人材を安定してきたのか、止め画でのごまかしも少なくなり立体機動の描写も素晴らしくなりました。とくに24話の終盤で(巨人を追いかける)ミカサを追うカメラワークは、静止画(漫画)がアニメ(動画)になるということの意義を見せつけてくれました。「有頂天家族」も舞台となる京都の雰囲気をかもしだす独特の画作りで背景も綺麗でしたし、「ガッチャマン」の画作りも好きでしたが(ストーリーはともかく)、ここは素直に「進撃の巨人」を選んでおきます。

オープニング賞「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!


「ワタモテ」のオープニングは、映像としては他に比べて突出しているという気はしませんでした。しかし、10話のアバンからオープニングの入り方は、少なくとも私は今まで見たことないユニークなもので素晴らしい演出でした。見ていて「おおっ!」と思った人は多いと思います。ヘビメタ調のオープニング曲は、決して好みのタイプではなかったのですが、この演出までを想定していたのかと思うとゾクゾクしました。この曲を使った最終話の演出も、いかにも最終回らしいものでした。

エンディング賞「超次元ゲイム ネプテューヌ


ネプテューヌ」は同名のゲームを原作とするアニメで、おそらく向井雅浩監督の初監督作品です。監督自身、このゲームが好きだそうで、かわいさの演出がとてもよい作品でした。中でもエンディングはアフィリア・サーガが歌う、いかにも歌謡曲っぽい曲に乗せてデフォルメされた登場人物たちが出てくるのですが、この曲とキャラの動きが実に楽しくて良いのです。個人的に本編の2話が気に入ったものの、そんなに注目していたわけではないのですが、途中で視聴を打ち切らなかったのはこのエンディングがあってこそだったとも言えます。そうして視聴し続けて10話の感動的な結末に驚いたりもしました。いなくなった登場人物が増えていく「ダンガンロンパ」とか、いい雰囲気の「有頂天家族」とか、実写を組み合わせた「ガッチャマン クラウズ」など他に選択肢はあるかもしれませんが、やはり本作品がベストです。

予告賞「超次元ゲイム ネプテューヌ


次回のタイトルを告知していたという以外、予告ではなくCパートみたいなものでしたが(7話だけは、ちゃんと予告していた)、毎回本編に関連したパロディやショートコントのようなアニメになっていました。それが、実に本編を活かした笑える内容なのです(感動的な結末を迎えた10話も例外ではありませんでした)。予告代わりに「今週のサバクイズ!」という枠を設けていました「サーバント×サービス」、弟とシュールな会話を繰り広げていた「ワタモテ」もよかったです。

エンドカード賞「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!

(タイトルに反して)“悪い”主役のもこっちがセクシーポーズを取っていたり、超美人に描かれていました。

続編賞「げんしけん二代目


実のところ作品賞として最後まで悩んだ、もうひとつのアニメが「げんしけん二代目」でした。ヒット作「ガールズ&パンツァー」の水島務監督の作品で、1話の予告でも語られているとおり一期(2004年、OVAあり)、二期(2007年)と2度のアニメ化を受けた三期目です。そして、おそらく、それが本作の弱みだとも言えます。今期のみでも楽しめることは楽しめるのですが、過去作品から引っ張ってきている設定が多く、そういういきさつがわからないと「なんで?」と思ってしまうところは多いと思います。私は、序盤から面白いと思い、思い切って過去作品の blu-ray BOX を買いました(レンタルでもよかったのですが)。これでようやく人間関係を把握できたという感じですが、実際には漫画だけで進んでいた話も前触れなく回想シーンに登場していたようです。そういう状況が把握できていればいるほど、本作品の登場人物の心理を理解しやすくなるのは間違いないでしょう。
ストーリーにも少し触れておくと、「げんしけん」とは「現代視覚文化研究会」というオタクサークルを舞台にした学園ものです。オタクサークルをテーマにしているだけあって、「進撃の巨人」やら「艦これ」を含め、随所にそういう演出もなされつつ、腐女子と男の娘という要素を加えてストーリーが進みます。現実にあるかといえば、そういうわけでもないのですが、SFまがいの突拍子のない設定もなく、過去の作品との連携や、必然と偶然の持ち込み方が実に巧妙なのです。とくに、一期、二期を見ていた人にとっては、さまざまな伏線が回収された三期と言えるのではないでしょうか。過去作品も、決して好調な売上というわけではないようでしたが、続きそうで消滅してしまう作品も多い中、10年越しでこの作品が出てきたことを賞賛します。

短編賞「マジでオタクなイングリッシュ!りぼんちゃん The TV


突然始まって、あっという間に(全10話で)終わったという印象があるのが本作品です。1話でも「放送が突然決まったので絵コンテも台本も何もない」というメタネタなセリフが出てくるくらいでした。普通なら、それも“仕込み”だろうと思うところですが、放送が終わって1カ月経つのに、いまだ blu-ray の発売も決まっていないどころか、公式サイトの「商品情報」が無効のままという状態です。いったい誰の道楽で地上波アニメとして放送することになったのか疑問がいっぱいの作品です。