2013年秋アニメのレビュー

「今さら」感いっぱいですが、書いておかないと忘れてしまうというものでもあるので、秋アニメについて振り返ってみます。実のところ夏アニメが豊作と感じていただけに、秋アニメへの期待度は低く、序盤の印象もそれを覆すものではありませんでした。そもそも今期は忙しいことが多くて、なかなか消化できないアニメも少なくなかったのですが、それでも気に入ってしまうアニメがいくつもありました。例によって、軽くネタバレするところもあるのでご注意を。

■作品賞「WHITE ALBUM2
「この物語はフィクションです」というテロップを出してほしいものです。この物語は、実在の人物や団体とは関係ないし、楽器演奏がお手のものというクールビューティと、歌のうまいミスコン勝者に好意を持たれるなんてことは現実には起きないし、積極的に迫られたりなんてしないし、学校の屋上なんて鍵が閉まってるもので出られないし、そもそもお前は学年で一番優秀なイケメン高校生じゃない、これは作り話なんだと念を押す必要があります。それでもなお、そういう「感情移入」ができる、そういうアニメでした。ユーザーエクスペリエンスの世界で没入型(immersive)という表現がありますが、まさに没入型のアニメでした。本作品のストーリーは、決して奇をてらったものではありません。それどころか主人公の男子高校生と、2人の女子高校生で繰り広げられる三角関係がメインの王道といってもよいストーリーです。三角関係なのだからドロドロした展開を思い浮かべそうですが、実に爽やかなのです。こんな爽やかな三角関係があるか、ってくらいに。原作がエロゲだそうで、ソフトながらもその手の描写がないでもありません。作画が微妙と思ったところもありますが、とにかくストーリー構成がよく考えられていて、毎回楽しめるアニメでした。“定番”の「物語シリーズ≪セカンドシーズン≫」もよかったですし、「のんのんびより」も迷ったのですが、これを秋アニメのベストにします。

■主演女性キャラ賞(宮内れんげ、「のんのんびより」)
のんのんびより」を作品賞にするか迷ったのは「れんちょん」こと小学1年生の宮内れんげが実にいいキャラクターだからです。いや、決して「にゃんぱすー」というセリフに引き込まれたのではありません。成績優秀で、子供っぽい感じではないのですが、そうはいっても小学1年生、と感じさせる描写が多くあります。秋アニメでは、まっさきに「のんのんびより」の blu-ray を購入することにしたのですが、そう決めたのはれんちょんがいたからこそです。

■主演男性キャラ賞(貝木泥舟、「〈物語〉シリーズ セカンドシーズン/恋物語」)
ここに挙げてしまうとそれだけでネタバレになってしまう部分があるくらいですが、とりあえず「カッコよかった」とだけ言っておきます。詳しい理由を書かないのもアレですが、最終回を見るまで、そんな役回りだとは思いもしませんでした。

■助演女性キャラ賞(岡千波、「ゴールデンタイム」)
ちょっとおかしい登場人物の中で、普通に変わっている程度の人物なのが岡千波なのですね。いや、実のところ「アルペジオ」のタカオを選びたかったのですが。

■助演男性キャラ賞(飯塚武也、「WHITE ALBUM2」)
WHITE ALBUM2」の中心になっているのが軽音楽同好会で、飯塚武也はその部長です。主人公の北原春希にギターや打ち込みを教えたのも彼で、当然彼よりギターがうまいのですが、話の展開上、裏方にまわされてしまいます。その立場に文句を言いつつも北原の行動や恋を応援するといういい奴です。でも、他の部員(北原春季+2人のヒロイン)が出かける一泊旅行にさえ呼ばれません。大変かわいそうな役どころなのですが、ちゃんと立場をわきまえて行動しているところに好感が持てます。

■非人間キャラ賞(イオナ、「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」)
ぎんぎつね」のぎんぎつねがいいか、「ミス・モノクローム」のルーちゃんもどうか、いやモノクローム自身が人間じゃないよな、と思っていたのですが、ふとイオナが該当することに気付きました。迷うことなかったですね。「蒼き鋼のアルペジオ」が人気があるのは気付いていましたが、「艦これ」の便乗だろうと思っていた上、知り合いが「割とどうでもいい」と言っていたので、ほとんど最終回が放送された後で見ました。これもとてもよかったです。10話のタカオが泣けますね。イオナを演じた渕上舞さんは「ガールズ&パンツァー」の西住みほ役でもありましたが、この“持っている”感が凄いです。

■女性声優賞(小岩井ことり、「のんのんびより」)
秋アニメの放送が始まる前から、今期は花澤香菜さん一択だと思っていました。秋アニメだけでも「〈物語〉シリーズ セカンドシーズン」「東京レイヴンズ」「凪のあすから」「フリージング ヴァイブレーション」「IS2」「COPPELION」「てーきゅう」でメインキャラを演じ、それ以外にも多くのアニメに参加しています。でも、「のんのんびより」のれんちょんこと宮内れんげが、とてもよかったのです。最初にインパクトがあったのは4話の終盤なのですが、その場面については小岩井さん自身が「私にとって挑戦でした」とおっしゃっています。他にも赤ちゃんの頃の演技も含め、れんちょんあってこその「のんのんびより」という印象を深めたのも小岩井さんの演技あってことだと感じています。決してパソコンを自作するから選んだのではありません:-)

■男性声優賞(三木眞一郎貝木泥舟〈物語〉シリーズ セカンドシーズン「恋物語」より)
今期の「ぎんぎつね」のぎんぎつねを演じたのも三木眞一郎さんなのですが、ここはやはり「恋物語」の貝木泥舟です。<物語>シリーズは、手間のかかった映像も魅力なのですが、基本は会話劇であり、その会話劇を成立させるのは、声優の腕の(声の)見せ所でもあります。渋い声の声優さんは他にもいらっしゃいますが、とくに最終話の貝木泥舟は魅力的でした。

■主題歌賞(「木枯らしセンティメント」、戦場ヶ原ひたぎ斎藤千和)、貝木泥舟三木眞一郎)、〈物語〉シリーズ セカンドシーズン「恋物語」オープニング曲)
ここはネタで「STAND UP!」(てさぐれ!部活もの)を選ぼうかと思ったのですが、どうせネタで選ぶなら、これです。〈物語〉シリーズ セカンドシーズンを締めくくる「恋物語」の3話で流れだした、このオープニングは昭和のアニメを思わせる映像を、現代の映像と混在させているのですが、戦場ヶ原ひたぎが歌うのを、貝木泥舟が追いかけてデュエットしているという、おそらく誰も想像しなかったであろう楽曲になっています。この昭和くさい楽曲を作曲したのも神前暁さん。素晴らしいです、神だけに。

脚本賞のんのんびより
どちらかというと演出賞という感じもするのですが、もともと田舎出身なので、「田舎っていいもんだ」的なストーリーというのは苦手です。たとえば、ジブリの「おもひでぽろぽろ」は声が今井美樹柳葉敏郎という組み合わせをさておいても「田舎なめんな」と思った作品です。それでも、この作りには圧倒されました。たしかにストーリーの下地には「田舎のよさ」があるのですが、それが強調されることはなく、むしろ「田舎という舞台にいる良き人たち」が丁寧に描かれているのです。とくに4話。これは田舎ならではのエピソードでもあるのですが、れんちょんの子どもっぷりが心に染みます。こういうのをリアリティというんでしょう。時間の使い方も絶妙です。

■映像賞(境界の彼方
物語シリーズ」と迷いましたが、全体的に凄いなと思ったのは「境界の彼方」です。最近では「さすが京都アニメーション」と言われることも少なくなった気はしますが、さすが京都アニメーションですね。

■オープニング賞(俺の脳内選択肢が、学園ラブコメを全力で邪魔している)
ここで「恋物語」を選ぶべきだったかもしれませんが、この作風かつ内容なのに、ニュートンに恨みでもあるのかと思うほど重力の法則に逆らったスカートの描写と、楽曲のテンポのよさで、これを選びます。

■エンディング賞(ミス・モノクローム
正味4分のショートアニメの最後の1分を飾るエンディングですが、「そういえば“CG”の映像とはこういうものだった」という、他とは一線を画すCGで作られた映像がよかったです。YouTube公式 PV がアップされていました。

■フレーズ賞「にゃんぱす」(のんのんびより
これも迷うことのない選択です。

■続編賞「〈物語〉シリーズ セカンドシーズン」
映像もストーリーも作品賞でもよいくらいの出来だと思いますが、なんとなく定番すぎて外してしまいました。