2013年春アニメのレビュー

オルタナティブブログにはアニメネタが紛れ込ませるほど他の投稿をしなくなっていてツイートで済まそうと思っていたら、ちゃんとエントリとして書いておけというご要望があったので、こちらに投稿。いや、140文字制限で感想を書く、というのも、それなりに興味深かったのだけど:-) 例によって(割と遠慮なく)ネタバレを含むので、ご注意を。

作品賞「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。


通称「俺ガイル」。主人公がひとりぼっちとか、引きこもりとか、仲間外れという設定はよくあるかもしれない。分類すれば、これも「アンチヒーロー」なのだろう。だが、その「ぼっち」を肯定的に描写してるのが面白い。いや、他人と交わらない“灰色の人生を好む”という点では「氷菓」の主人公もそうだったが、事件が起きても「氷菓」のようにスッキリと解決するわけではない(そもそもミステリーではないが)。それなのに、その展開には納得できるし、感情移入もできる。そういう見事なストーリー作りだった。

主演女性キャラ賞「佐々木千穂(はたらく魔王さま!)」


かわいいという点はさておき(さておかなくてもよいけど)、主人公の魔王(真奥貞夫)に好意を持ち、あまり隠そうとしない。はじめての待ち合わせに向かう電車の中で、ひとり気合を入れる描写があったり(←原作にはなさそう)、(実際には違うが)恋のライバルの登場に慌てふためき、いわゆる“変顔”を見せたり、アニメ制作陣にも愛されていたんじゃないかと思わせるキャラだった。最後まで、恋愛成就という展開にはならなかったけれど、魔王がそれを真摯に受け止めている姿勢もよかった。

主演男性キャラ賞「比企谷八幡やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。)」


「俺ガイル」の主人公。「ぼっち」という設定だけれど、本人はそれを気にしていないどころか気に入っている。「男って、優しくするとすぐその気になる生き物」であることを理解し(みんなも理解しよう)、惑わされないよう注意を払っているのに、忘れそうになることもある。アニメでは何度か揉め事や事件が起きるけれど、それを解決するのは頭脳明晰な奉仕部部長の雪ノ下雪乃ではなく、人付き合いの悪い主人公、比企谷八幡である。しかも、素晴らしい解決策ではなく、泥臭く自らが悪者を演じて解決する。ただ、それが意図したものであることを、少なくとも部長の雪ノ下雪乃や同級生の葉山隼人、顧問の平塚先生は理解している。そこがフィクションであり、そうした理解者がいなければ物語に救いがない。その救いが解決法の後味の悪さを消し去ってくれているのである。「わかってくれる人がひとりでもいたら、きっと大丈夫なんだよね」という「とらドラ」、川嶋亜美のセリフを思い出す。

助演女性キャラ賞「サシャ・ブラウス(進撃の巨人)」


好評の「進撃の巨人」は、大勢の人が理由もわからず、ただ食べられ続けるという救いようのないシリアスな話だけれど、3話のサシャの登場は印象的だった。“大食い”という設定でここまでさせるのか、いや体が大きくないだけで実は巨人の親戚じゃないかと思わせるシーンだった。「それは何故ひとは芋を食べるのか、という話でしょうか」というセリフには笑いをこらえることができなかった。このアニメで、ここまで笑いをとる必要があったのか、と考えてはいけないのだろう。本来なら、何人もが決死の覚悟で向かってもなかなか倒せない巨人をひとりで何体も倒してしまうスーパーウーマン、ミカサ・アッカーマンの方が役どころは上のはずです、とミカサは己の存在感をアピールします、とか言われそうな気がしないでもないのだが(←作品が違う)。

助演男性キャラ賞「葉山隼人やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。)」


イケメンで成績優秀、性格もよく、誰からも慕われるという点で、主人公の比企谷八幡と対照的な存在。「君に届け」なら、風早くん並の好人物。比企谷八幡と対極的な存在として登場するチョイ役かと思っていたら、意外に深く、ストーリー本編に絡んでいた。比企谷八幡の行動に賛同はしていないが、理解者でもある。ダークなアンチヒーローの救い主なのだ。

非人間キャラ賞「チェインバー翠星のガルガンティア)」


人間じゃないどころか生命体ですらない、ただの機械である。だから最後まで選択するか迷っていたのだが、最終回を見て、やはり“彼”を選ぶべきだろうと確信した。チェインバーは、主人公レド少尉が登場するロボットであり、人工頭脳(AI)である。当初は、未知の場所(地球)に飛ばされたレド少尉への状況説明や、翻訳を請け負っていた。それはもちろん「機械的な翻訳」なのだが、干物を出されて「水生生物の死骸である」「無害な食料と推測」とか、その機械的に過ぎる翻訳がネットでも(少し)話題になっていた(togetterのまとめNAVERのまとめ)。“ただの機械”なら、こうはならない。この彎曲な表現が、逆に人間くさい。あたかも結婚式に呼ばれて優柔不断な新郎を語るのに「たかし君は、どんなことでも興味を持ち、積極的な性格です」と表現するかのようである。あるいは「レド少尉を守る」という至上命題があり、そのために機械的な理由を生み出していたのかもしれない。実に人間くさいやつなのだ。(これ以上の言及は致命的なネタバレになりそうなので自粛)

女性声優賞「東山奈央(佐々木千穂/はたらく魔王さま!由比ヶ浜結衣/やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。)」


佐々木千穂と由比ヶ浜結衣は、春アニメの個人的な2大ヒロインだったのだが、その両方を担当していたのが東山奈央さん。どちらも主人公に想いをよせる“かわいい”感じがにじみでていて、とてもよかった。どちらの作品も面白いというだけじゃなく、営業的にも好調なようで、ヒロイン“力”(りょく)もあるのではないだろうか。まだ若手の部類に入る人のようだけれど、今後が楽しみである。

男性声優賞「逢坂良太(真奥貞夫/はたらく魔王さま!)」


こちらも主役級の配役が次々と決まっている若手の逢坂良太さん。真奥貞夫は、元が異世界の魔王のくせに、人間界で“人間”としてまじめ、かつ有能なアルバイトとして働く。そういうまじめな好青年という感じと威厳のある魔王という役の両方がよかった。まあプロの人相手に、表現力をほめてもしかたないけれど^_^; いや、それこそ色々な感情表現という意味では「よんでますよ、アザゼルさん。Z」のアザゼル(CV、小野坂昌也)さんもよかった。

主題歌賞「美しき残酷な世界進撃の巨人日笠陽子)」


アニメのオープニングやエンディングは、たいてい90秒と決まっているのだけれど、その限られた中で印象深いものにしようとするせいか、聴きやすかったり、印象に残るものが多い。「美しき残酷な世界」は「進撃の巨人」のエンディングテーマ曲で、日笠陽子の歌手としてのデビュー曲。後述のエンディング映像とともに「進撃の巨人」の世界ともマッチして、毎回いい終わりになっていた。他にも、「ゆゆ式」のオープニング、「はたらく魔王さま!」のエンディング、「波打際のむろみさん」のオープニングなどがお気に入りだった。

脚本賞はたらく魔王さま!


もちろん、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」もよかったと思う。「はたらく魔王さま!」は、たまたま序盤で気に入って原作を読んだということもあり、この原作をアニメ化する際のストーリーの作り替え方が素晴らしいと感じた。作り替えといっても、大きな改変がなされたわけではなく、順序が変わったり、初デートに向かうちーちゃん(佐々木千穂)が静かに気合を入れるシーンがあったりといった、アニメとして見たときの細かい演出に快い気持ちさせられたのである。

映像賞「惡の華


決して技法に頼る作品が好きなわけではないし、そういうものは「何とかという技法を採用したはじめての作品」と呼ばれたいがために「何とかという技法」を採用したかったのではないかという意味で、スタッフ側の自己満足と思ってしまうこともある。それだけに本作品も全編ロトスコープという技法が、どこまで“作品”として通用するのか、ということに興味を持っていた。最終回を迎えて、これはロトスコープでこそのアニメだったな、と思うことができる。正直なところ、好きな作品とは言い難い。主人公は狂気に陥っている。一言謝れば済むだろうところを、それができずに泥沼である。こういうじれったい話は好きじゃない。その上、話がなかなか進まない。元になる実写を1時間ドラマの感覚で作っているのではないかと思うほどである。だが、作品を観終わって、これが普通のアニメだったら、どうだっただろう。主人公の狂気は表現できただろうか。佐伯さんや仲村さんが萌えキャラである必然性はない。そう考えると、ロトスコープという選択は必然だったのではないかとすら思えてくる。商業的な結果がどうなるかわからないが、特筆すべき映像作品だとは言えるだろう。

オープニング賞「あいうら


凝ったカッコいいオープニングという点では「進撃の巨人」も捨てがたいのだが、正味4分というショートアニメの1分間のオープニングにジョブズやウォホールまで絡めた凝っていたのが「あいうら」のオープニングである。何しろ、メインは「カニ」である。なぜ、そこまでカニ推しなのか。ジョブズまで "Think Crabing" なのに、本編には「カニ」は出てこなかった。ちなみに、オープニング曲の「カニ☆Do-Luck!」が「かに道楽」の“もじり”になっていることに最近まで気付かなかった。ついでに、オープニングにシリアスなナレーションが入る「デート・ア・ライブ」が温泉回でもまじめなナレーションを入れていたのは笑いをこらえられなかった。

エンディング賞「進撃の巨人


主題歌も選んでエンディングも、というのもどうかと思ったけれど、「進撃の巨人」のヒロイン、ミカサ・アッカーマンが「逃げ惑う少女」からナイフを手に取り「戦う女」に変化していくさまが、独特の鉛筆画で描かれているのが魅力的だった。作画の解説については、こちらを参照→「アニメーター・平松禎史氏の『進撃の巨人』のED作画について

短編アニメ賞「あいうら


トんでるオープニングとは裏腹に、とりたてて何かが起きるわけでもない日常アニメである。4分の放送時間のうちオープニングで1分、エンディングで1分弱を使っているので、本編は2分強しかない。その2分もゆったりと進んでいく。アニメの公式サイトでも「過度な期待はしないでください」と、「みなみけ」で見たような注釈があるが、エンディング曲の歌詞にもあるとおり、ほんとうに「何気ない会話」ばかりだ。しかし、その何気ない会話と丁寧に描かれた画で癒されるのである。ところで、そういうコメントがあって気付いたが「脚フェチ」アニメとも言われているらしい。いや、たしかに脚へのこだわりは強かった。

予告賞「ゆゆ式


正確には「予告」ではなくて、予告映像を背景に主役の3人がトリビアを語っていただけだけど、本編が面白い割に、どれにも該当するものがなかったので、とりあえずここに。

アイキャッチ賞「進撃の巨人


毎回、CM前後で「CMまたぎ劇場」という小ネタを入れていた「ハヤテのごとく!Cuties」という選択もあったのだけれど、ちょっと小ネタ感が強く、それくらいならキャラが短いコメントを喋る「這いよれ!ニャル子さんW」の方がかわいい感じがする。しかし、かけている手間を考慮するのでなければ、本編に関する情報を「現在公開可能な情報」として説明画像を入れている「進撃の巨人」が雰囲気としてもかっこいいと思う。「現在公開可能な情報」と言われても短い時間では読み切れないこともあるし、読み切れないから本編が分かりづらくなるということもないのだけれど。

提供画面賞「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。


本編終了後の提供画面には、線画で部室前のようすが描写されている。最初はモノクロで途中から少しずつ色が入り、最終話では普通のアニメになるのだが、これは奉仕部に持ち込まれた問題を解決するたびに、由比ヶ浜結衣が部室前の表札にシールを貼っていたというショートアニメになっていたのだ。なかなか面白い演出である。ちなみに、今晩(7/7 26:00〜)TBSチャンネル1で2話ずつ再放送がはじまるのだが、TBSチャンネル1ではスポンサーがいないので、この画面に提供が表示されないはずである(私は、このためだけに録画準備している)。

エンドカード賞「進撃の巨人


エンドカードを提供画面中に表示する例もあるので提供画面賞と分けることに意味はないかもしれないが、あえて別の賞として「進撃の巨人」を選んだ。「進撃の巨人」は7話あたりから、オープニング後の提供画面と本編後の提供画面にも独自の画を用意している上に、その後にもエンドカードとして別の画が表示されるようになった。そして何よりすごかったのは12話のエンドカードだ。サシャを演じている小林ゆうさん直々のエンドカードであるが、本編を凌駕する絶望感を与えたといっても過言ではない。原作者の諫山創氏をして、「一体どんな絵を描けば、人はショックを受け記憶に残すのか?誰も無視することが不可能な絵があるとすれば、それはなにか?その答えがあります」(ブログより)と言わしめた画である。

フレーズ賞「やっはろー(やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。)」


「やっはろー」は、由比ヶ浜結衣の挨拶。「やぁ」と「はろー」を組み合わせた(?)ものらしい。7話で、小町(比企谷八幡の妹)と挨拶したときは、八幡が「その挨拶、流行ってんのか?バカっぽいからやめろ」と反応してるのに、直後の戸塚彩加と挨拶したときは「何それかわいい、もっと流行らせようぜ」と反応してたのがよかった。ちなみに、次点は「デート・ア・ライブ」の藤袴美衣のセリフ「まじひくわー」。「デート・ア・ライブ」はシリアスな設定を持ちつつも、真剣にギャグをやってるアニメ。そして、藤袴美衣は全話を通じて(登場したときは)このセリフしか言わない。どんな状況でも、「まじひくわー」としか言わないのだ。CVを担当しているのは月宮みどりさんである。月宮みどりさんといえば、「これはゾンビですか?」でセリフのないヒロイン、ユークリウッド・ヘルサイズを演じていた声優さんである。「エクストリーム声優を目指しているのか、月宮さん!」

続編賞「ちはやふる2


一期もよかったがBD/DVDの売上が芳しくないと聞いていたので、二期は難しいと思っていた。そんなところで、ふたたび2クールかけて放送された。原作から面白いのだろうが(低調なBD/DVD販売に比べて、原作の売上が急伸したとも聞く)、「競技かるた」という題材だけに頼らず、シリアスも笑いもうまく描写されている。二期の最終回は決して綺麗にまとまった終わり方ではなかった。これはアニメスタッフの三期に向けた決意だと思うので、とても期待している。