3D映画は映画か

技術的なレベルで3D映画が持つ魅力は認めています。でも、実際には自分の場合、撮影で3Dだと思うような美しさの作品にならないんですよ。どうしても3Dで撮ると暗くなってしまい、通常の明るい作品より見劣りしてしまったりします...
(『ダーク・ナイト』『インセプション』のクリストファー・ノーラン監督、GIZMODO の記事 より)

ニューズウィークの記事

半年ほど前に「3D騒ぎが映画をダメにする9つの理由」という記事があった。タイトルのみ引用する。

1)もう1つの次元は要らない
2)より深い感動を与えることはない
3)集中を妨げる場合がある 
4)人によっては吐き気や頭痛を催す
5)画面がやや暗い
6)デジタルプロジェクターを売りたい商魂が透けて見える
7)観客は特別料金をふんだくられる
8)シリアスなドラマに3Dは必要ない
9)ハリウッドは危機を感じるたびに新技術に頼ってきた

すべてに賛成しないし、むしろ反論を受けかねないものはある。画面が暗いのは技術が進歩すれば解決するだろうし、商業的に見込みがあると思われるからこそ技術は進歩してきた。だが、おおむね同意せざるを得ない。

1年前、『AVATAR』の登場に期待していた。昨年の春、たまたま製作の Jon Landau 氏の講演に参加する機会があり*1、その時に披露されたリアルな人と仮想キャラクターへの表情のマッチング技術は凄いものだった。新技術を映画の要素として取り込むキャメロン監督の手腕は語るまでもない*2。だが、私が『AVATAR』に期待していたのは「3D時代の幕開け」としてでなく「幕引き」としてだった。『AVATAR』は、新技術を盛り込み映画として大いに期待していたが、そこに盛り込まれた技術も活用法も後続の映画が簡単に乗り越えられないように思っていた*3

そもそも洋画の3Dは、日本人にはハンディがある。『ベオウルフ』で3D映画の字幕が見づらいことを思い知り、『モンスターVSエイリアン』では吹替えを聞かされる羽目になった。『AVATAR』は字幕で見て、それなりに改善されていると思ったが、後でDVDで見て、やはり2Dの方が見やすいと感じた。

『ソウ ザ・ファイナル』

AVATAR』は素晴らしかった。そして、もう3D映画を観るのはこれで最後にしようと思った。『AVATAR』を超える3D映画が出てくる気がしなかったからだ。3Dでしか上映しない魅力的な映画もあったが、このところは自宅作業ばかりで、そもそも映画館が遠のいたこともあり、実際に3D映画を観る機会はなかった。そこに出てきたのが『ソウ ザ・ファイナル』だ。これが3D上映しかないという。これまで観続けてきたものを3Dだじゃらって観ないのはもったいない。だから観に行った。

ガッカリした。

ストーリーは悪くない*4。問題は“3D”がまったく効果的に使われていなかったことだ。『AVATAR』は、必ずしも3Dだけが強調されていた映画ではなかった。他の技術とともに自然にストーリーに取り込まれていた。だが、『ソウ』は古臭い3D映画のようだった。

先日、『トイ・ストーリー3』をDVDで観た。これほど素晴らしい“Part 3”があっただろうかと思うほど、素晴らしい映画だ。そして、映画館で3Dで観ていたらどう感じただろうと思う。

趣味の問題

「ラブコメは好きだがホラーは嫌い」というように、3Dが好きな人もいると思うし、それはかまわない。3D映画なんて映画じゃない、とまでは言わない。だが、“3Dでなきゃならない映画”でもないのに3D上映しかしない、というのはやめてほしい。「ソウ ザ・ファイナル」など「客単価を上げたいだけ」に感じられて仕方がない。

もうすぐ『トロン レガシー』が公開だ。これも3Dでしか上映しないらしい。予告編を見ても、『TRON』のような期待感がまるでない。映画館に観に行くのはやめることにした。個人的には、さっさと過ぎ去ってほしい“流行”である。

*1:ちなみに、質問する機会もあった。質問「続編がもてはやされることをどう思いますか?」、答え「大事なのは続編かどうかではなく、ストーリーだ」。

*2:あくまで私の好みとしては、キャメロン監督の映画は好きだが、スピルバーグ監督の映画はいまいちである。

*3:当時の mixi日記

*4:突っ込みどころ満載ではあった。ネタバレしてる私のレビューはこちら