Amie Street が終わっていた

Amie Street とは

今年の9月の話なので、いまさら感いっぱいの話だけれど、「最愛のAmie StreetがAmazonに入籍, 幸せな花嫁ではなさそうだ」で報道されているように Amie Street が Amazon に買収される形で終了していた。TechCrunch にも書かれているように、Amie Street は

アーチストが曲をアップロードすると、それは最初は無料。ダウンロードが増えるたびに、1セント、5セントと値段が上がっていく。上限は1ドルだ。

という販売モデルを採用していた。そして、TechCrunch が称賛していたように私もこのアイデアは素晴らしいと思っていた。出たばかりの楽曲はタダかタダ同然だから、試しに買ってみることに抵抗がない。しかし、タダ同然ではどんなに良い音楽を出しても儲からない。だから人気が出たら値段が上げていく。最初からその楽曲に目をつけていた人はタダ同然で聴き続けられるし、人気曲にだけ興味を持つ人は高い値段…といっても iTunes Store と同程度の値段で買うことになる。

Amie Street は2006年に登場したのだが、翌年末には日本にも進出した*1。「フリーミアム」を早くから実践していたとも言える Amie Street のビジネスモデルは、ネット・コミュニティの力を存分に発揮できたはずだ。何がいけなかったのだろう。

人は良い音楽を探そうとしているか

つまり、そうではない、ということなのだろう。何度か書いているけれど、音楽と映像(映画やテレビ番組)との違いは、繰り返し楽しむものかどうかだ。買ってまで聴きたい音楽とは、繰り返し聴きたい音楽だ。逆に言えば、繰り返し聴いて好きになれるものとも言える。焼肉屋の BGM で場にそぐわない音楽が繰り返しかかって辟易とすることがあるのだけど、そういう中でも耳に残る音楽があれば、何かの機会に買おうと思うかもしれない。だからラジオでヘビーローテーションしてもらうためにお金を払ったり、CMやドラマで使ってもらうためにタイアップしたりする*2

音楽を焼肉屋で聴く、テレビのドラマを見ながら聴く、街中で流れているのを聴くという分には無料だ。それは“ついで”だからだ。だが、無料で配信されている音楽を聴くのはどうか。“音楽を聴く”ことを時給880円の仕事に換算したら、得体のしれない3〜4分の曲を聴くことは50円分のコストがかかる(最後まで聴くとして)。しかも1回聴くだけで気に入るものかどうかはわからない。以前、napster*3で、とあるバンドの新譜を聴いて「なんだかいまいちだな」と思っていたものがある。だが、その曲が街中で聴こえてきて「あ、けっこういける」と思い直したことがある。それを思うと、ドラマで効果的に使われたからこそ人気になるという楽曲だってあるだろう。

ほとんどの人は“お気に入りを自分で探す”なんて手間がかかることはしない。好きなアーティストの新作を聴いたり、どこかで聴いた音楽を聴こうとする。著名人が無料で音楽配信することが宣伝になる(ケースもある)のは、無料配信することが珍しくて「ニュース性」があるからだ。ニュースになって、メディアに情報が流れれば宣伝になるのは当然だ。だが、無名なアーティストが無料で音楽を配信しても「ニュース性」がないから話題にならない。そうでないなら、なぜ muzie から大ヒットが生まれないのだろう*4。私は、かつて Jamendo で色々楽曲を探しまくった時期があるのだけれど、なかなかこれぞ、というものを見つけられなかった。では、「音楽を無料で配信すれば宣伝になる」と主張する人のどれだけが、“今”無料で配信されている音楽を宣伝しているのだろう*5。Amie Street の終了は、その主張の説得力を失わせる出来事だったように思う。

*1:曲の値段は人気次第 「Amie Street」日本版オープン」。だが、1年あまりで日本からは撤退した。楽曲も少なく広まる機会のないまま根付かなかったか…とは思ってはいたが、結局、本国でも終了してしまった((Amazon による買収は、ビジネスモデルの買収ではない。かねて投資してきた Amie Street を閉鎖するにあたり Amazon MP3 に誘導しただけだ。

*2:日本はタイアップが顕著なお国柄でもありそうだ。

*3:すでに日本から撤退した。

*4:中国嫁日記 の成功は、時間がかからず面白さが理解できる漫画だから、という理由がありそうだ。

*5:もちろん、誰もいないとは言わないよ:-)