amazon の70%ルールを軽く読んでみる

「薔薇は何と呼ばれても香しい」かもしれないが、amazon が“印税(Royalty)”と呼んでいるからと言って、出版社から著者への印税と比較するのはどうかと思う。たしかに、ニュースリリースには "Royalty" と書かれてはいるのだが、これは amazon にしてみればただの仕入れ価格(Cost Price)であって、印税ではないだろう。それとも、amazon は印刷物の書籍を仕入れるときに、それを仕入れ価格と呼ばずに、印税と呼んでいるのだろうか。出版界における書籍の仕入れ率について知っているわけではないが、販売価格に対して仕入れ価格が70%なんてのは、そんなに驚くような数字なのだろうか。むしろ、在庫管理が必要なわけでもないのに仕入れ価格35%で鞘を65%も抜いていた、という方が驚きではないか。

閑話休題

Amazon70%印税ルールの各条項を深読みする」というブログのエントリで、amazon の70%ルールを深読み(しようと)しているのだけれど、その割に個別の条件について評価しているだけに見える。言いたいことはそういうことだ、とは思っているのかもしれないが、より大局的に言うなら、amazon の戦略は「出版界における iTunes Store を目指す」ことにあるのではないか。しかも、Apple が乗り込む前に。

Kindle のようなガジェットを成功させるために必要なものはコンテンツである。「ソフトウェアがなければハードウェアはただの箱」である。そして、米国では音楽配信と言えば iTunes Storeデファクトだ。もともと成功していた iPod という強力なハードウェアを武器に、これも比較的高いと聞くロイヤリティによってレコード会社と提携し、豊富な品ぞろえを実現した。(日本では成功していないが)iTunes は、大きな成功を実現した。Apple にとって、iTunes Store は収益源ではなく iPod/iPhone を支えるサービスなのだそうだ。だからロイヤリティを高く維持することができるのだろう。

だから、とりあえず Kindle で電子出版の好感触を得ているという amazon は、いっきに底固めしておきたいのだろう。そのためにはコンテンツの品ぞろえを増やさねばならない。平たく言えば、「70%」というのは、コンテンツを増やすための餌である。もともと、書籍というのは音楽 CD などに比べれば、個々の価格の幅が大きいものだが、ユーザーが気軽に買える品ぞろえを増やしたいと言うこことであって、必ずしもメインターゲットを安い価格帯に持っていくということではないはずだ。

むしろ、Google のブック検索和解案における「Google への最恵国待遇」に対して amazon は批判していたはずなのに、70% ルールを適用したい場合には最恵国待遇(最安値設定)を与えよと言っているのは興味深い*1

余談だが、書籍は、音楽のように「ながら聴き」できるわけではないけれど、電子書籍の可能性については、それなりに期待している。それどころか、日本は先端を行っているとすら思う。たとえば、インプレスR&Dの発表によれば、日本の電子書籍市場は464億円に達しているそうだ(2008年度)。もっとも86%が得意の携帯市場だけれど。さらに日本には電子辞書がある。その市場規模も(2008年は少し落ち込んだようだが)、ここしばらくは400億円程度の規模を維持している(JBMIA資料、PDF)。おまけで2007年に発売された「DS文学全集」(2,800円、税込)は26万本出荷されたから、これだけで7億円である。昨年は金融危機で数字も落ち込んでいるかもしれないが、日本はすでに電子出版大国なのだ。

補足すると、書籍とは言えないが、docomo の iチャネルは月額150円(税別)で1500万契約を超えているから、パケット代を除いた基本料だけでも年間270億円の市場があることになる。海外では有料化に苦労している新聞があるようだが、日本は、うまくやっているところは、うまくコンテンツビジネスを成功させているようである。

*1:70%ルールを選択する裁量は著作権者に任されているのではあるが