『走れメロス』がパチスロになったのは著作権が切れたから?

走れメロス』のパチスロ

今さらだけど、「走れメロスがまさかのパチスロ化 色々とぶっ飛んでる」という2chのまとめ記事が話題になっていた。はてブのコメントにいくつか「著作権が切れたからって、これは…」とあるのは本当だろうか。

ドラえもんの最終回」は、キャラクターという“創作物”をそのまま使っていたから著作権侵害(翻案権侵害?)にあたるそうだが、走れメロスは文学作品であり、その創作性は文章にこそあらわれている。まとめの画像を見る限りパチスロで使われているのは、ただの“設定”に過ぎない。そして、作品の設定は著作物にはあたらないらしい。実際、wikipedia によれば『ルパン三世』の初出は1967年で、その時点でモーリス・ルブラン(1941年没)の著作権は有効であり、『金田一少年の事件簿』の初出は1992年でも横溝正史(1981年没)の著作権は有効だった*1

もっとも、これは日本限定の話かもしれない。アメリカでは、『ライ麦畑でつかまえて』の設定を借りただけであろう“続編”の発売が故サリンジャーが起こした裁判により差し止められたという例がある*2。一方で『風と共に去りぬ』の“パロディ”は認められたようだから*3アメリカでは続編よりもパロディの方が認められやすいお国柄ということかもしれないけれど*4

著作者人格権

ところで、アメリカには著作者人格権がほとんど認められず、日本の著作者人格権は厳しすぎるという話をする人もいるが、サリンジャーの件から推察する限り、アメリカでは著作者人格権が認められないというより、(一身専属性を有する著作者人格権ではなく)ビジネスとして売り買いできる著作権で処理しようということではないだろうか*5。日本の著作者人格権は、著作者の「意に反して」いると侵害とみなされるわけだが、現実には原作のあるアニメや映画で「原作とはまったく違ってしまった」という話はしばしば聞く。だからといって日本で「著作者人格権があるから差し止められた」という話を聞くわけではない*6

走れメロス』のパチスロ化にしろ、コミケ*7の存在にしろ、アメリカのような訴訟大国でない日本では、著作権者は(その心情はともかくも)大半が緩やかに対応しているのが現状ではないだろうか。“厳格な解釈”を想定するのはかまわないし、一部の著作権者が過激な“発言”をしているのは事実だが、全体的に見れば、それほど“厳格な解釈”がはびこっているわけではないと思う。

*1:wikipedia によれば、遺族からのクレームはあったらしい。

*2:「[http://jp.reuters.com/article/entertainmentNews/idJPJAPAN-38615720090618:title=ライ麦畑でつかまえて」続編、出版差し止めの仮処分」

*3:"SUNTRUST BANK v. HOUGHTON MIFFLIN COMPANY"

*4:コミケの存在はともかく、日本には「パロディは合法」と言える判例などはないようである。

*5:なお、ベルヌ条約では著作者人格権("moral rights")は必要なものとされている。

*6:事例はあるかもしれないが、一般的な話としては。

*7:別に、すべてがパロディってわけではないだろうけれど。