新型コロナ: スウェーデンに学ぶ新型コロナ対策

※2020/7/4更新。オルタナティブブログはコメント機能が無効化/非表示になりました→過去コメント

スウェーデンと集団免疫
新型コロナに関しては、ほとんどの国で感染拡大を防ごうと外出禁止のような厳しい規制をかけている中、手洗いを奨励したり、高齢者との接触を抑止する程度で、厳しい規制をかけていないのがスウェーデンです。「スウェーデン、集団免疫に見通し」(共同通信)によれば、「同国首都では今後数週間以内に「集団免疫」を獲得できる、との見通し」が示され、スウェーデン政府の感染対策リーダーであるアンデシュ・テグネル氏によれば「ストックホルムでは既に25%が感染して免疫を獲得したとの見解が表明」されました。
※2020/5/10重要な追記。コメント(2020/05/09 21:58)で教えていただきましたが、この「25%」という感染率は、PCR検査や抗体検査の標本調査などを行ったものではなく、数理モデルによる予測値とのことです。この研究によれば、ストックホルムでは感染のピークは4月中旬にあらわれ、5月には落ち着き始めると予測されています。行政が、このような予測値を公式の発表とすることは驚きです。地域別に確認されている感染者数はこちらで参照でき、5/8時点の情報としてストックホルムの感染者数は9227人(全体の36.5%)です。スウェーデン全体の死者数(現在3220人)と致死率などから逆算すると、ストックホルムでの感染率が予測値通りに進行している可能性は否定できないものの、発表された感染率が標本調査のような結果でないことはご留意ください。

スウェーデンの人口は1022万人で現在確認されている感染者数は19621人(4月28日時点)ですが、人口96万人のストックホルムで25%が感染しているということは感染者数は最低でも24万人ということになり、まったく感染者の実態を追跡できていなかったということになります。NHKおはよう日本」では「他の国のような感染の爆発的拡大は起きていません」と伝えていましたが(NHKプラスで見逃し視聴できます、48:08~)、とっくに感染が広がっていたということです。
※どのような検査による判断なのか分からないですし、そもそも抗体を持っても免疫を獲得できるとは限らないという指摘もありますが、その点は脇に置いておきます。

これは悲報ではありません感染者が多いのに死者数が少ないのであれば、結果として致死率が下がるため、それほど怖がる必要がなくなるかもしれないということだからです。集団免疫を獲得するまでの「今後数週間」が具体的にどれくらいの期間なのかは分からないですが、スウェーデンの感染者数は1カ月前には3447人(3月28日時点)であり、この1カ月で5倍以上に急増したことを思うと、集団免疫を獲得する感染者率が50%(※)だとしても、それほど時間はかからないのかもしれません。
※フランスの原子力空母では乗組員2300人のうち半数が陽性反応が出たことが報じられています

■年齢と死者数
スウェーデンの死者に関する年齢別データがこちらで参照できます。現時点の死者は20代が5人、30代が8人、40代が25人、50代が81人、60代が185人、70代が549人、80代が938人、90代が564人、計2355人となっています。70代以上が87%を占めており、やはり高齢者にとってハイリスクな感染症であることがわかります。
もともとスウェーデン寝たきりになってまでの介護をせず、自分で食事ができなければそれまでという国で、延命治療もされません。worldometerによれば「感染終了(CLOSED CASES)」の3360人のうち、「回復(Recovered)/退院(Discharged)」が1005人(30%)に対して、「死亡(Deaths)」が2355人(70%)と非常に高い割合です。感染者全体に対する「重症(Serious)/重篤(Critical)」の割合は決して高くないのですが(現時点で3%)、高齢者に対しては積極的な治療が行われていないということかもしれません。今のところスウェーデン医療崩壊しているような報道はありません。

スウェーデンの状況をブログに書かれているglobaljourneyさんによれば、そもそも「慢性閉塞性肺疾患BMIが40以上の人、中毒患者、ペースメーカー利用者など、1つまたは複数の深刻な全身性疾患のある患者には、集中治療室での治療を施すべきではないというガイドライン」が出されているそうです。日本では考えにくいことですが、重症化しやすい(あるいは救命しにくい)人を積極的に治療をしないことは医療崩壊対策になりそうです。

■日本との人口比で考える
こちらにあったスウェーデンの年齢別人口構成を日本の最新の人口構成に合わせて計算してみます。2020は予測値で実数とは若干ずれがありますが、ご容赦ください。

年齢 スウェーデン
人口(万人)
死者数
(実数)
割合 日本人口
(万人)
死者数
(換算値)
人口あたりの
死亡率
20代 131 5 0.2% 1266 48 0.0004%
30代 135 8 0.3% 1414 84 0.0006%
40代 129 25 1.1% 1837 356 0.0019%
50代 130 81 3.4% 1639 1021 0.0062%
60代 111 185 7.9% 1588 2647 0.017%
70代 99 549 23.3% 1615 8956 0.055%
80代 44 938 39.8% 906 19314 0.21%
90以上 10 564 23.9% 241 13592 0.56%
合計 1029 2355 100% 12596 46018 0.037%(日本)※

 

※2020/4/30追記。
換算人数は各年代ごとのスウェーデンにおける致死率を日本の年代人口と乗じたもので、日本はスウェーデンに比べて少子高齢化が進んでいるため相対的に高齢者の死者数が多くなります。現在のスウェーデンの人口当たりの死亡率は0.023%(=2355/1022万人)です。

スウェーデンで高齢者が積極的に治療されないために死亡率が高くなることは、少子高齢化が進む日本での死者数を多く見積もらせる要因になっていることから、60代以下の死者数(スウェーデン=304人、日本=51人)の比率を、現時点の高齢者の日本の死者数(70代=77人、80代以上=147人)に適用してスウェーデンの調整した死者数とした場合、70代=451人、80代以上=862人となります(表内の(*)印)。この数値を使った表も以下に示します。(以下の本文でも調整値について追記しています)

年齢 スウェーデン
人口(万人)
死者数
(※上記)
割合 日本人口
(万人)
死者数
(換算値)
人口あたりの
死亡率
20代 131 5 0.3% 1266 48 0.0004%
30代 135 8 0.5% 1414 84 0.0006%
40代 129 25 1.6% 1837 356 0.0019%
50代 130 81 5.0% 1639 1021 0.0062%
60代 111 185 11.5% 1588 2647 0.017%
70代 99 451(*) 28.0% 1615 7357 0.046%
80代以上 54 862(*) 53.5% 1147 18310 0.16%
合計 1029 1612(*) 100% 12596 29823 0.024%(日本)※

(追記終わり)

現在のスウェーデンの死者数を日本の人口に当てはめて考えると死者数は5万人弱(調整した値で約3万人)というところです。別記事では致死率2%と計算していたのに桁違いに割合が低いじゃないかと怒らないでください。これは、現時点での人口に対する死者の割合であり、スウェーデンの全人口に対してどれだけ感染者がいるかは分かっていません。首都のストックホルムで25%ということなら地方ではもっと割合が低いでしょう。それこそ全国での平均感染率が10%くらいなのであれば、ざっと感染者に対する致死率は10倍ということになりますし、これから死者が増えればさらに割合は高くなります。

もっとも、感染者に対して2%の致死率というのは高い見積もりだったかもしれません。ニューヨーク州での抗体検査では、14%で抗体が確認されたと報道されましたニューヨーク州での現在の死者数は人口の0.12%ですから、集団免疫を獲得すると言われる50%まで増えるとして計算すると単純計算で人口に対する死亡者は0.42%(感染者に対する致死率は1%未満)になります。

■「スペインかぜ」との比較
新型コロナは100年前の「スペインかぜ」と対比されることもありました。wikipedia を見ると、スペインかぜでは世界中で1700万~5000万人が死亡し、1億人に及んだ可能性もあるそうです。Our World in Dataに、各国の寿命を示すグラフがあり、どの国も年を追うごとに伸びているのですが、1918年前後だけ10年近くも寿命が縮んでいます。スペインかぜは若年層の死者が多く半数が20~40歳の間だそうですから、寿命に与えた影響も大きかったのでしょう。

それに比べれば新型コロナの犠牲者は高齢者の比率が高いので、寿命に与える影響もわずかと思われます。ざっくり人口の1%が10歳早く死亡したとしても、平均寿命が0.1歳縮まる程度ですから、年ごとの平均寿命の伸びよりも小さいくらいです。スペインかぜとは比べるようなものではありません。

■現在進行形という意味
いかがでしたでしょうか。規制のないスウェーデンの現状を見る限り、新型コロナは決して恐ろしいものではありません。

 

......そんな締めくくり方をするわけがありませんね。そもそも、今見ているスウェーデンの数字は、決して「終わった数値」ではありません。新型コロナは感染したら即死するというものではありません。訃報が伝えられた岡江久美子さんの場合、発熱が3日、感染が確認されたのが6日で、23日に亡くなられたそうです。今すぐ感染者の増加がゼロになったとしても、これから死者数は増えていき、減ることはありません。スウェーデンの感染者数がこの1カ月で急増したことを考えても、死者数が倍増するくらいはあり得ると考えています。もっとも、実はNHKの番組で「死者が減り始めています」と伝えられていました。たしかに日によって差はあるものの、感染者が増えているのに死者数が増えないなんてことがあるのか、ちゃんと検査されて確認されているのか少し疑問はあります。

いずれにせよ首都での感染者率が25%なのであれば、集団免疫を獲得するまで"これから"感染者が倍増するということです。地方の感染者率が低いのであれば、もっと増えることになります。最終的な死者数が今の何倍かになっても何の不思議もありません。これまでの感染者に対して倍増、さらにこれから倍増するであろう感染者の分を合わせて4倍増としても18万人(調整した値で12万人)が死亡する計算になります。西浦博氏の推測した42万人の半分以下ですが、これは"少ない数値"でしょうか。これで収まるでしょうか。

スウェーデンは積極的な治療をしないから致死率が高いのであって、日本はそんなことにはならない、という話は現実味がないと思います。日本の医療が世界的に見てもリーズナブルかつ高度であることはいうまでもありませんが、すでに新型コロナ以外の治療にも影響が出ている状況で、医療機関から悲鳴が上がっています。通常の医療レベルが維持できていないという意味では、すでに医療崩壊しています。これ以上感染者が増えたら、十分な対応はできなくなるでしょう。何を考えているのか「防護服なしで治療すれば負担が減る」という声もあるようですが、そんな特攻隊のようなことを命じたら逃げ出す医者や看護師が続出して、いっそう医療崩壊が加速することは容易に想像できます。ここでは致死率しか計算していませんが、それ以上の割合で重症化はするのです。

スウェーデンも若い人には治療をしているでしょう。スウェーデンの死者のうち70歳以上は87%ですが、高齢者を救命している日本では70歳以上は81%です。若い人も一定の割合で亡くなるのです。そして日本はスウェーデンと違って死にゆく高齢者を見捨てるような社会ではありません。高齢者に対しても必要な治療や介護をする体制があり、世代を分断するような仕組みになっていません。

仮に国政を担う議員たちが「高齢者たちは変革を受け入れよう」などと言い始めたら、選挙で落選し、そのような政党は政権を失うでしょう。スウェーデンが特別なのです。"経済合理性"のために急にスウェーデンのマネをしようといっても、そんなことにはなりません。中国や韓国のように自粛によって感染を抑え込んでから、徐々に経済を再始動するしかありません。一刻も早く抑え込むためには、皆が協力してできる限り接触を避け、感染が広がらないようにすべきなのです

 

新型コロナ: 規制を解除したら経済は元通り動くのか

※2020/7/4更新。オルタナティブブログはコメント機能が無効化/非表示になりました→過去コメント

■「感染者も死者も絶対数は少ない」という主張
新型コロナ: 「インフルエンザでも人は死ぬ」との比較」で引用したアメリカCDCの数字をはじめ、新型コロナをインフルエンザと同じように考えてはいけないことは明らかですが、今なお、インフルエンザに比べて感染者や死者の絶対数が少ないことを理由に「数が少ないのに騒ぎすぎ」というコメントが相次いで寄せられるのは不思議でなりません。

いうまでもなく、絶対数が少ないのは自粛して感染の増加を抑止しているからです。3月9日に、アメリカのトランプ大統領次のようにツイートしました。

"So last year 37,000 Americans died from the common Flu. It averages between 27,000 and 70,000 per year. Nothing is shut down, life & the economy go on. At this moment there are 546 confirmed cases of CoronaVirus, with 22 deaths. Think about that!"
「昨年は37,000人のアメリカ人がインフルエンザで死亡しました。年間では平均27,000人から70,000人です。それでもシャットダウンされるものはなく、生活や経済は続いています。現在、新型コロナの感染が確認されているのは546人で、死者は22人です。それを考えてみてください!」

4月16日時点での日本の感染者は8582人、死者は136人です。日々、感染者は増加していますが、緊急事態宣言より前から強い自粛要請があったため、アメリカほどには増加していません。しかし、おそらく週末で検査数が減っているであろう日を除けば十分に感染者の増加ペースが下がってきたといえるほどではありません。

corona1.png

なにより、感染者数から回復者数を差し引いた「現在の感染者数(Active Cases)」が増え続けています

corona2.png

すでに医療施設には余裕がなくなり、感染者が増加した都市部では感染者を隔離するために民間のホテルなどを借り受けているという状況です。そうした特別措置が必要なくなるほどに「Active Cases」が減らなければ、規制解除など夢です。

■感染はどこまで広がるのか
死者の絶対数が少ないのは、そもそも感染が広がっていないためです。日本で確認されている感染者は、人口の0.0068%だけです。一方、ニューヨーク州では人口の1.15%が感染しています。
自粛しないで放置したら、どの程度の割合まで感染が進むかは、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」が示してくれます。このクルーズ船では横浜を出発した初日(1/20)から感染者が乗船し、1月25日に香港で下船しました(この乗客の感染が判明したのは2月1日)、2月3日に横浜に入港し、2月5日に検疫が開始されるまでは、いわば無防備な状態でした。クルーズ船の乗員・乗客に対して検査が行われ、3711人のうち712人が感染が判明しています。これは全体の19.2%にも及びます

最近報道されていましたが、フランスの空母「シャルル・ドゴール」と護衛艦でも感染が広まったようです。検査を受けたのは1767人で、そのうち3分の2の結果が判明した時点で688人の感染が確認されています。残りが全員陰性だったとしても38.9%まで感染が広がっているということになりますし、残りの人たちが同じ割合で感染しているとしたら、半分以上にまで感染が及んでいたことになります。

感染症の「集団免疫」対策 なぜ英国は撤回したのか?」(NATIONAL GEOGRAPHIC)という記事では、(新型コロナが)「集団免疫を達成できる免疫獲得者の割合は人口のおよそ60%」と言及しています。感染を抑止しようとしない限り、それくらいの割合になるまで感染が広がる可能性がある、ということです。

西浦博氏が「新型コロナウイルスの流行対策を何もしないと、国内での重篤患者数が約85万人に上るとの試算」を公表されました。「重篤患者のうちほぼ半数の40万人以上が死亡すると予測している」そうです(※)。人口が日本の3倍にもならないアメリカではトランプ大統領が「対策をとらなかった場合、国内の死者数は150万~220万人に膨らむ恐れがある」と発表したことに比べればずいぶん控えめな数字です。
※中国での結果をもとに重篤患者の半数は助けられるという試算だそうですが、いくら同時でなくても85万人の重篤患者の半数を助けられるほど人工呼吸器や人工心肺(+医師)が充実している気はしません。

日本の人口と感染者率、現時点で推定される重症化率や致死率を考慮すればまったく大げさではありません。先月のアメリカを思えば、規制をしなければ感染者数が急増することは火を見るよりも明らかです。これまでの感染者数の推移から判断する限り、他人との接触を避け、強く自粛しない限り、この感染を抑えることができません

■集団免疫
集団免疫とは集団の一定の割合の人が免疫を持つことで新たな感染を生み出さないようになる状態のことです。感染によって抗体ができ免疫が生まれることが条件で、実際に感染するほか、集団に対するワクチン接種でも構成できます。ただし、現時点では十分に有効と確認されたワクチンはありません。そもそも免疫の仕組みすら明確に判明したわけではありません

どの国の感染者数も、あくまで検査で確認された数です。もし無症状者のような確認されていない(見えない)感染者が想像以上に多くいれば、集団感染(集団免疫)が構成できて感染が広がらないかもしれません(繰り返しますが、免疫がどのように有効かは未解明です)。最近、オーストリア政府が自国の状況を確認するために標本調査を行いました。

「無作為に選んだ国内に住む0歳から94歳までの1544人を対象にウイルスの遺伝子の有無を調べるPCR検査」によって「全体のおよそ0.3%が陽性と判定され」たそうです。人数にして5人程度の話なので、標本調査としては誤差の幅が大きくなりすぎるのですが、この時点でのオーストリアの感染者数が人口890万人に対して12200人(0.13%)ということを考えると、確認された感染者数の倍程度しかいない、ということになります。とても集団免疫が構成されたとはいえない状況です。

新型コロナの種類(変異)、BCG接種の有無、人種、生活習慣の違いなど、(早くから自粛が要請されてきたことを考慮せずに)日本の感染者数が抑えられていることに理由を与えようとされています。もしかすると本当に理由になっているものがあるかもしれませんが、「確定した情報は何もない」というのが現状です。

■規制を解除すれば経済は元に戻るか
世界には、新型コロナの感染が広まっても強く規制しない国がわずかにあります。日本も欧米の外出制限に比べれば緩い方ですが、ほとんど規制されていない国がスウェーデンです。スウェーデンの状況は、ときどき報道される程度で、あまり詳細に伝わってくることはありませんが、別記事にコメントされていたglobaljourneyさんが毎日のようにブログに状況を報告されています。そのスウェーデンでも経済問題があり、従業員のリストラが行われているようです。

当たり前のことですが、ビジネスの国際化が進んでいる今、欧米の多くが外出禁止のように厳しく規制している状況で、どこかの国だけが経済的に回復できるほど甘くはありません。一方、別記事で取り上げた中国・韓国だけでなく、強い規制を続けてきたオーストリア、スイス、オーストラリア、イランなどで「現在の感染者"(Active Cases)」がピークアウトしつつあり、完全とは言えないでしょうが規制が解除されつつあるところもあります。

そういう国々は、ふたたび感染者が増えることをおそれ、感染が蔓延している国からの渡航を規制するのではないでしょうか。日本はMERSが発生している中東諸国からの入国について注意を促していますが、それを挙げるまでもなく、新型コロナが世界に広まり始めた頃と同じように、感染者がほとんどいない国は、感染者の多い国からの渡航を規制・禁止されることが容易に想像できます。

各国が強い外出規制を続けて感染を抑え込んだ時期に、日本が自粛をあきらめて感染が広まってしまったら、ふたたび国際経済の仲間入りができるでしょうか。そうでなくても、20~44歳の人ですら24~50人に1人が重症化し、500~1000人に1人が死亡するという感染症です(アメリカCDCの推定に基づく)。"いつ"感染するかもわからない社会で、人々が安心して経済をまわすために働けるものでしょうか。私には、とても信じられません。十分に有効なワクチンが登場するなど、今はない決定打が生まれるのでなければ、自粛によって感染を抑える以外道はないのです。

日本には、欧米ほど強い外出規制ができる法律がありません。それは"自由を重んじる国"としては喜ばしいことです。コミケにしろ、音楽利用にしろ、フェアユースのあるアメリカですら許されないことが普通に認められているくらい"自由"の国です。もし、強く規制できなかったせいで新型コロナの蔓延を抑え込むことができなかったら、強く規制する法律が必要という話になっても不思議はありません。

自由を重んじる法律を守るためにも、今、できる限り感染を広げない行動をお願いします

新型コロナ: 世界の国々はどれくらい検査しているのか

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■世界の感染者数
まず、私が日頃見ている情報を説明します。

WHO(世界保健機関)
毎日報告書を公開しています。他に比べて数字の反映が遅くなりがちです。手作業で編集されていると思われ、ときどき抜けてしまったり、増加分のデータがおかしかったり、なにか争いがあるのか「国」欄と「地域」欄を行ったり来たりするところがあったりします。
まぎれもない世界的な公的機関なのでニュース報道でも使われています。当然ながら、テドロス議長が「100万人を超えました」と発表するようなときは、この報告書の数値がもとになっています。

ジョンズ・ホプキンス大学
更新が早く、グラフィカルに表示されています。ニュース報道でもよく取り上げられます。

worldometer
ジョンズ・ホプキンス大学の数字と少しずれはありますが、やはり更新が早く、数字が一覧表で見られます。ただし、データ入力をイタズラできるのか(?)、以前、明らかにおかしなデータが表示されていたことがありました。そのためかどうか、以前はニュースでも見かけましたが、最近はジョンズ・ホプキンス大学の方がよく使われているようです。
一覧表上部の「Yesterday」タブをクリックすると「前日」のデータが見られます。一部の国を除き、GMT+0時に数値がリセットされますが、丸1日あたりの増加分を見たいときは「Yesterday」を見ないといけません。個人的には、こちらの方が扱いやすいため、一番よく見ています。

covidtracking
アメリカ限定ですが、CDCの報告があまりに遅いため、有志が作ったサイトです。感染者数(陽性者数)だけでなく検査で陰性になった人の数(および保留中の数)も表示してくれます。全体、および州ごとの日次データも得られます。APIなども使えます。

厚生労働省(4月分)
日本のデータです。「新型コロナウイルス感染症の現在の状況について」または「新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について」というタイトルで毎日更新されています。ときどき、どちらかの一覧に反映されるのが遅くなることがあるようです。これも手作業で編集されているためか、ときどき数字がおかしいことがあります。以前、検査"件数"と"人数"を間違えていたという理由でつじつまを合わせるために検査人数がマイナスになっていたこともあります。

■陽性率に基づく他国との比較
昨日からworldometer「検査数」の項目が追加されました(※)。感染者数に比べて、すべての国から報告されているわけではなく、ざっくりした数値しか登録されていない国もありますが、参考とすることはできるでしょう。この数値について評価してみます。
※以前は「Our World in Data」というサイトでも検査数が公開されており、ニュースでも使われていましたが、今は(データ公開は)なくなってしまいました。

日本が「検査が少ない」と言われるときに、よく比較されるのは韓国です。朝日新聞報道(2/29付)によれば「韓国では2015年に中東呼吸器症候群(MERS)で38人が死亡し、政府は国民から非難を浴びた。これを教訓に感染症対策を強化し、今回の新型コロナウイルスでは、国の研究機関や民間医療機関など全国の計100カ所でPCRなどの検査が行われている」とのことです。

別記事にも書いた通り、韓国の"現在の感染者数"(Active Cases)は減少し続けており、おおむね危機は脱したとみられます。ただし、これは検査をしただけで実現できたものではなく、厳しい監視社会とプライバシーを制限することで成し遂げたものです。感染者が判明すると、スマートフォンの位置情報やクレジットカードの使用履歴から濃厚接触者が割り出されて検査を受けるようにアラームが鳴る、という仕組みまであるそうです。日本のクラスター追跡班が同じようなこと人海戦術でやっているのですが、行政が個人情報を利用することで効率的に実現していると言えます。

このような形で大量に検査すれば、当然、感染していない人も大量にいます。韓国のこれまでの感染者(陽性者)数は10237人、検査数は461233人となっており、陽性率=陽性者数/検査数=約2.2%です。これに対し、日本は感染者数=3139人、検査数は42882人ですから、陽性率=約7.3%です。

クルーズ船に乗り込んだ岩田健太郎氏によれば「最低限の適切な検査数は、陽性者が検査数の10%未満に収まっている時」だそうですから、日本も累計としてはこの比率に収まっています。ただし、東京などの地域は陽性率が高いこともありますし(接触者の追跡に苦労していると推察します)、以前に比べて大量検査したときでも高い割合になっているのは事実です。日本の検査数は、韓国に比べれば少なく、手広く検査しているとは言えません。

もうひとつ大量に検査していることで知られるのがドイツです。日本経済新聞の報道には、早くから大規模検査の態勢を整えたことで、充実した医療体制とともに低い致死率を実現しているとあります。現在、ドイツは感染者数=96092人、検査数=918460人です。検査の絶対数は多いのですが、陽性率を計算すると約10.5%になります。これはちょっと不思議です。これは岩田氏が指摘する「最低限の適切な検査数」にも達していません。本当に手広く検査しているなら、日本の陽性率よりもずっと低くなるはずではないでしょうか。実は感染者が増えすぎて、症状の出ていないような人を除外するといった絞り込みをしているのではないでしょうか。

■感染の抑え込みに成功しつつ、手広く検査している国/地域
別記事のコメントにも書きましたが、感染者数といっても、国ごとに検査の基準が違うので、単純に多い少ないで国ごとの状況を比較できるというものではありません。韓国のように手広く検査している場合は、無症状や軽症の場合でも数に入りますし、フランスは最初から重症のかぜ症状の人だけを検査していました。実のところ感染者数を比較しても国ごとの深刻度合は分かりにくいのです。

そこで死者数を比較します。日本の場合は感染症法があり、新型コロナで死亡したと診断した医者は国への届け出義務がありますから、ごまかしはできません。ドイツやイギリスでは死因を調べないこともあるとのことですが(そのせいで感染が広がっているという噂もありますが)、ここではいったん脇に置いておきます。たとえば、フランスと韓国の感染者数は9倍程度しか違いませんが、死者数は40倍以上も違います。これが、感染者に無症状・軽症も含む韓国と、重い症状のある人だけを調べているフランスとの違いをあらわしています。

worldometer のデータから「人口当たりの死者数が日本よりも少ない(→感染の抑え込みに成功している/まだ感染が広がっていない)」かつ「陽性率が日本より低い(→検査の絞り込みをしていない)」国/地域は以下の通りです。

ロシア、インド、南アフリカ、コロンビア、ニュージーランド、香港、アゼルバイジャンラトビアスロバキアベラルーシ、台湾、ベトナムパレスチナ、ナイジェリア、ニジェールキルギスタンケニアカンボジアバングラディッシュグアテマラウガンダザンビアエチオピアナミビアラオスモザンビークジンバブエ、ネパール、ボツワナパプアニューギニア
※人口100万人未満を除く。

言うまでもありませんが一覧表に掲載されている「新型コロナによる死者数」とは、それぞれの国の医療制度のもとで確認された数であって、医療制度が行き届かない国では死者数が低くなる可能性もあります。さて、あなたが日本に見習ってほしいと思う国はいくつあるでしょう。

■ドイツとの比較
陽性者率から判断すると、どうやら感染者が増えたから検査数が増えているだけにも見えるドイツですが、大量検査と医療制度によって新型コロナ対策が評価されているようですから、それぞれの感染者数の推移を比較してみましょう。日本の方が早くから感染者が見つかっていますが、ちょうど感染者数の多寡が入れ替わる3月5日からの推移が以下の通りです。

日付 日本 ドイツ
3/5 317 262
3/6 349 534
3/7 408 639
3/8 455 795
3/9 488 1,112
3/10 514 1,139
3/11 568 1,296
3/12 620 1,567
3/13 675 2,369
3/14 716 3,062
3/15 780 3,795
3/16 814 4,838
3/17 829 6,012
3/18 829 7,156
3/19 873 8,198
3/20 950 10,999
3/21 996 18,323
3/22 1,046 21,463
3/23 1,089 24,774
3/24 1,128 29,212
3/25 1,193 31,554
3/26 1,291 36,508
3/27 1,387 42,288
3/28 1,499 48,582
3/29 1,693 52,547
3/30 1,866 57,298
3/31 1,953 61,913
4/1 2,178 67,366
4/2 2,384 73,522
4/3 2,617 79,696
4/4 2,920 85,778

※いずれもWHOの記録。

前述の通り、国ごとに検査の基準は違いますが、現時点で日本の死者数は77人、重症/重体数は64人であるのに対し、ドイツの死者数は1444人、重症/重体数は3936人です。

コメントでは繰り返し書いていますが、日本の感染者増が抑えられているのは感染者数が少なかったころからイベントの自粛を要請したり、クラスター対策班が戦略的にクラスター追跡を行った成果です。

人それぞれ、色々な見解はあるのでしょうが、こういうデータを見ると「日本の戦略は失敗でドイツを見習うべきだったのだ」という意見があっても、耳を傾ける気にはなりません

新型コロナ: お詫びとお願い

※2020/7/4更新。オルタナティブブログはコメント機能が無効化/非表示になりました→過去コメント

■お詫び
この記事のコメントで、病院で仕事をされているという方から、不安を煽ることで医療負担や心理的負担を増やしているというご批判がありました。経済を重視したいがあまり、「新型コロナはインフルエンザと同じようなもの」という誤った理解で、その脅威が軽視されることを問題視したものでしたが、無用な負担を招いているようでしたらお詫びします。
ただし、この記事の主旨が誤っていたということではありません。CNNの "Coronavirus death rate is lower than previously reported, study says, but it's still deadlier than seasonal flu"(研究によればコロナウイルスの致死率は従来の報告よりは低いが、それでも季節性インフルエンザより危険)という記事では "it is very clear that any suggestion of COVID-19 being just like influenza is false"(COVID-19をインフルエンザと同じようなものだと言うのは、明らかな誤りです)と締めくくられています。

■お願い
ワクチンはないので、感染を広げないためには人々の行動を変えるしかありません。これには、不要不急の外出を控える、専門家会議によって示された3密(密室・密集・密接)を避ける、手洗い・うがいの励行などがあります。
さて、昨日放送されたNHKクローズアップ現代+」では、東京都に助言している大曲貴夫氏が感染者数の増減するグラフを見ながら「対策をすればやがて患者さんの数は減ってきます」と説明されていました。(※26:40頃~) 諸外国の状況を見れば分かる通り、私は、その"対策"こそが外出禁止のような厳しい規制であり(日本の法律上はそこまで厳しい規制はできないそうですが)、緊急事態宣言なのだろうと考えていました。しかし、今のところ緊急事態宣言は出されていません。
早くから感染の広がった日本では、おそらくオリンピック開催が危ぶまれたことで安倍首相が早々とイベントの自粛を要請しました。この日(2/26)までの感染者数は、まだ164人に過ぎませんでしたが、おかげで日本は他国に比べても感染者増を抑えることができました。具体的な理由については、いずれ検証されることになるでしょうが、この低い増加ペースはBCG接種や日本人の体質には関係ないと思います。(クルーズ船では、乗員・乗客の17%が感染しました) それでも感染者の増加は回復者の増加を上回っている状態です。もっと感染者増を抑え込むためには緊急事態宣言を出すべきなのに、オリンピック延期も決まった今、政府が経済に遠慮してなかなか出さないんじゃないかと邪推していました。
番組の終盤で、大曲氏は次のように述べています。(※28:40頃~)

(都市封鎖のような上から制限をかけられるか、私たちでなんとかできるのか聞かれて)私たちの選択なのかな、と思います。強烈な都市封鎖をすれば感染が収まるのは、たしかに中国の事例でも分かっています。ただ、厳しいですよね。一方で、私たちが自分たちの行動を変える、たとえば狭いスペースを避けるといったことを意識的にやれば感染が減っていくと、抑えられるということも分かっています。私たちがどちらを取るのか、ということが大事なのかと思います。何もしなければ厳しい状況になりますし。そういう意味では、私たちが適切な行動を取ればですね、私はこの感染の危機は、この国であれば乗り切れるんじゃないかと、まだ日本はやれるんじゃないかと、私は思っています

医療現場を代表するであろう日本医師会だけでなく、経済同友会からも緊急事態宣言を出すべきと言われているのに出さないのは、決して政府の意向などではなく、こうした専門家の人たちが、いまなお自粛というレベルで感染を抑え込めると考えているということのようです。最後には「私たちは全然諦めていないです。まだ日本はやれると思います」と力強く語られていました。
NHKプラスでは、1週間見逃し視聴できます。

観光や外食産業など、すでに自粛によって壊滅的な打撃を受ける業種があります。それでもなお「まわせる経済はまわしたまま」感染を抑え込むことができるのなら、こんなに素晴らしいことはありません。その道は一歩間違えば、感染爆発が起きて深刻な医療崩壊が起きている欧米のような状況に突き進む可能性も否定できませんが(そうなりかけたら緊急事態宣言が出るでしょう)、大曲氏の力強い言葉に少し光を見た気がします。

お願いです。不要不急の外出はしないでください。外出するときは3密を避け、できる限り感染を避けるよう行動してください。報道されている通り、若者なら安心というウイルスではありません。高齢者と断絶できる社会でもありません。「言うは易し」で、そうした自粛により1日先の生活すら見えなくなっている人がいたり、組織があることは報道もされています。軽々しく「気持ちが分かる」と言えるものでもないでしょう。それでも人々が感染を防ぐ選択をすることで、劇的な経済ダメージを回避しつつ、再生できるかもしれないのです。今、この選択をしなければ、長い後悔が待っているだけです

新型コロナ: 日本が韓国に大敗北する日

※2020/7/4更新。オルタナティブブログはコメント機能が無効化/非表示になりました→過去コメント

※2020/4/2追記。「新型コロナ: お詫びとお願い」という記事を書きました。(こちらにもリンクを追加します)

■韓国の戦略
私は感染を抑え込んだのは強権で社会を規制した中国だけだと思っていましたが、韓国もそうでした
worldometer の韓国の情報から現在感染中の人(Active Cases)(=感染した人(Total Cases)から治癒した人(Total Recovered)を引いた数)のグラフを見てましょう。

covid19korea.png

完全にピークアウトしています。このまま韓国は日常を取り戻すことができるかもしれません。
前にも書いたとおり、韓国では新型コロナの検査をしたい人にどんどん検査をして、軽症・無症状の人を簡易的な施設で隔離した上で、重症者を治療するという手法を取っています。PCR検査は精度の高い検査をしても1%くらいは偽陽性が出てしまうものだそうで、大量の検査をすれば大量の陽性者(感染者)が計上されてしまうことになります。
しかし、偽陽性の人は本当に感染しているわけではありません。ちゃんと防護して検査さえしていれば、検査で症状が悪化するわけではありません。韓国の"見かけ上の"感染者が急増したとしても、実際に感染していないなら、一定期間をすぎれば治癒したことになるわけです。隔離される人の生活は息苦しいかもしれませんが、一定期間が過ぎて症状が悪化しなければ日常に戻ることができます。それは人工呼吸器やECMO、人工心肺などの貴重な医療リソースを必要としません
※なお、ドイツも大量検査している国ですが、ピークアウトには程遠いようです。

■緊急事態宣言
新型コロナに対する特別措置法に基づいた政府対策本部が設置され、緊急事態宣言が可能になったという報道がありました。
厚生労働省の報告(3/26付)を毎日見ていますが、「退院した者」は感染者増に追いつかず、「入院治療を要する者」は増え続けています。
感染蔓延のおそれが高い」という理由で対策本部を設置したのです。しかも、てっきり「私権を制限するから慎重になれ」と主張しそうな立憲民主党すら緊急事態宣言を出すよう提言しているというではないですか。
日本は早い時期からイベントの自粛などを要請したことが感染者数の増加を抑え込んでいましたが、韓国ではそれよりも厳しく社会を規制しています韓国の感染者数がピークアウトしているのは、まさにそのためでしょう。
今なら緊急事態宣言を出して、韓国のように社会を厳しく制限することで、感染を抑え込むチャンスがあります。ドイツのようにある程度広まってしまったら、いくら検査をしていても抑え込むことができなくなります。このまま感染者が増えれば、いずれ緊急事態宣言を出すことになるのです。どうせ出すなら早く出す方が、短い期間で済むはずです。それは平時ですら過重労働を強いられている医療従事者を守ることにもなります。

とっとと緊急事態宣言を出しましょう!!

それで再び中国、韓国とともに経済を回復できるなら、これに勝る「経済対策」はありません。

■感染を止められないということ
これも書いたことですが「経済が、経済が」とうるさい人はいますが、新型コロナの感染が止められない指定感染症であることの意味を理解していないのだと思います。インフルエンザのようにワクチンで感染を防御できないのですから、患者を治療するために医者や看護師は防御服やゴーグルを付けなければなりません。ゴーグル跡が痛々しい写真がいくらでもあります。ちょっとは勉強しましょう。

新型コロナ: 「インフルエンザでも人は死ぬ」との比較

※2020/7/4更新。オルタナティブブログはコメント機能が無効化/非表示になりました→過去コメント

※2020/6/30重要な追記(修正)。トップページに案内されているとおり、オルタナティブブログ全体でコメント機能が無効化/非表示となっていました。(過去コメントの取り扱いについて思案中です)

※2020/4/1追記。「新型コロナ: お詫びとお願い」という記事を書きました。
※2020/4/5追記。本文冒頭に「まとめ」、最後に「CDCによる情報」を追加しました。

※2020/4/5追記。2002/4/13修正。
■まとめ
長くなったので要点のみまとめておきます。
新型コロナを「インフルエンザでも人は死ぬ」と同じようなものと考えることはできません
・「CDCによる情報」によれば新型コロナの致死率はインフルエンザの20倍程度になり、50人に1人が死亡します(※1)。
・致死率の低くなる若者でも500人に1人が死亡します(※1※2)。
若者でも2%(50人に1人)以上の確率で人工呼吸器や人工心肺を使うほど重症/重体化します(※1)。場合によっては後遺症が残ります
※1 CDCが推定する致死率は全体で「1.8~3.4%」であり2%として計算しています。また、20~44歳の致死率は「0.1~0.2%」、集中治療室に入る割合は「2.0~4.2%」と推定されており、それぞれ「0.2%」、「2.0%」で計算しました。
※2 若者の死亡率としてCDCの推定値の上限である0.2%を採用したのは、山中伸弥氏が中国のデータをもとに「20代、30代であっても、感染者500人に一人くらいが死亡しています」と表現されているものに合わせました。
※2020/4/14修正。コメント欄でのご指摘を受けて、まとめの表現を見直しました。CDCの推定における「死亡」の割合を全て治療が間に合っていたものと考えて「治療が間に合った場合でも50人に1人が死亡します」と表記していましたが、個人的見解とのご指摘があり、この表現を削除しました。CDCの推定に関する詳細は本文最後の追記を、修正内容についてはコメント欄をご参照ください。
※コメント欄に紹介したCNNの記事では、致死率は低ければ0.66%程度と紹介されていますが、それでも「インフルエンザと同じ扱いをすることは明らかな誤り」と明言されています。

■ インフルエンザでも人は死ぬ
厚生労働省の「新型インフルエンザに関するQ&A」というページには、季節性インフルエンザの感染者数と死亡者数について次のように書かれています。

例年のインフルエンザの感染者数は、国内で推定約1000万人いると言われています。
国内の2000年以降の死因別死亡者数では、年間でインフルエンザによる死亡数は214(2001年)~1818(2005年)人です。
また、直接的及び間接的にインフルエンザの流行によって生じた死亡を推計する超過死亡概念というものがあり、この推計によりインフルエンザによる年間死亡者数は、世界で約25~50万人、日本で約1万人と推計されています。

(新型コロナについて調べるまで知りませんでしたが)「超過死亡概念」とはインフルエンザをきっかけに肺炎になって死亡した場合に、死因を「肺炎」とした場合でもインフルエンザによる死亡者に含める考え方です。ワクチン接種などでインフルエンザにかからなければ死なずに済んだ数という言い方もできます。そして、この数字をもって「インフルエンザでも1万人死んでるのに、(現時点で)1000人50人(※)くらいの死亡で騒ぐのはオカシイ」(そして自粛による経済ダメージを考えろ、というオマケがつく)という意見があります。
はたして、新型コロナは騒ぐほどのものではないのでしょうか。
※2020/4/6、執筆時点(3/25)の感染者数を死亡者数と勘違いしていたようです。お詫びして修正します。3/25までの死者数は43人でした。なお、4/5までの感染者数は3271人、死者数は70人です。(出典:WHO)

■イタリアの状況
ニュースなどでさんざん報じられていますが、今や新型コロナによる死者数が中国を超えたイタリアは酷い状態に陥っています。こちらの記事によれば医療崩壊した現場のために、引退した医者や卒業前の学生に資格を与えて対応しているという状況です。都市は封鎖され、生活必需品除く全産業の生産が停止されています。教会では、感染者を看取った聖職者までが相次いで亡くなっているそうです。
現在のイタリアの死者数は6000人くらいですから、イタリアの人口(6000万人)を考えれば、日本のインフルエンザによる(超過死亡概念による)死者数と大差ありません。それでは、なぜ、こんなに問題になっているのでしょう。
イタリアの感染者数は、現時点で63927人です。1000万人が感染して1万人が死亡するインフルエンザと違い、感染者の1割弱の人が亡くなっているのです。もちろん死者の急増で医療が追い付いていないため平時なら治せる患者が治せないという理由もあるでしょうが、そもそもイタリアでは"まだ"千人あたり1人しか感染していないのです。それでも重症化する人がこれだけ多いために深刻な問題となっています。

■強く規制されるヨーロッパ各国
イギリスでは、ボリス・ジョンソン首相がどうせ感染を防ぐことはできないという想定で、社会に規制を設けず免疫を持たせるという戦略を発表しました。しかし、この方針は翌日には転換され、強く規制されています。今、ジョンソン首相は「医療従事者を感染から保護するために自宅にいなさい」というメッセージを出しています。そして、そのイギリスでも、現時点での感染者数は8077人、人口1万人あたり1人という"低レベル"です。
ドイツでは、メルケル首相に予防接種した医者が感染していて自宅隔離に入りましたが、こちらも厳しい制限が課されています。
あまり話題になっていませんが、人口800万人弱の小国スイスは人口当たりの感染者率がイタリアに近づいており、こちらも6人以上の集会禁止(罰金あり)など、多くの規制が課せられています
しかし、どの国もイタリアの千人に1人よりは感染者率は低いのです。これでインフルエンザのように10人に1人が感染するという状況になったら、どうなるのでしょう。そこまで悪化しないと誰がいえるでしょう。

■致死率
新型コロナは感染したら即死というものではありません。(もし、そういうものだったら、もっと早い段階で発見され手が打たれていたかもしれませんが) 感染者数が急増している場合は、死者数の増加はある程度の間をあけて追いかけることになります。その点では、増加のとまっている中国の例が参考になります。現在、中国の感染者数は81171人、死者数は3277人ですから、そのまま割り算すると致死率は4%ということになります。無症状の感染者4.3万人を計上していなかったとのことですし、全員検査したダイヤモンド・プリンセスでは感染者の半数が無症状でしたから、感染者全体に対する致死率を低めに半分と見積もっても2%です。これは低い数字でしょうか。
前述した数字をもとにすればインフルエンザの致死率は0.1%ですが、その20倍です。「致死率が高いのは高齢者」というのはインフルエンザも同じです。だからこそ平均0.1%くらいの致死率でも、ほとんどの健康な若者はインフルエンザをおそれずワクチンを接種しない人が多いのです。2%というのはかなり深刻だと思います。そして、イタリアの例を挙げるまでもなく医療が追い付かなければもっと悪い数字になるのは必至です。
ドイツの致死率(現在0.4%)に期待してはいけません。ドイツでは大量に検査しているため偽陽性が1%としても半数近くが感染者でない可能性があります。さらに、検査したい人が検査しているため対象が若者に偏っており、死因を調べていないため致死率の高くなるはずの高齢者が新型コロナで死亡しても計上されないこともあるそうです。

■感染をとめる方法がない
現在、新型コロナは感染を予防するためのワクチンも治療薬もなく、対症療法による治癒に期待するしかありません。いくつかの既存の医薬品が効きそうという報道はありますが、ワクチンの実用化などには1年以上かかるとも聞きます。新型コロナが話題になっている間に、今年のインフルエンザは消滅したようですが、新型コロナの勢いは衰えることがありません。今は感染者との接触を避ける以外に、感染をとめる方法がないのです。
先に書いた通り、世界中で感染を抑え込んでいるのは強権によって行動規制した中国だけです。スマホで行動を監視し、感染した人を追跡するという徹底的な規制をかけることで、ようやく感染者の増加をゼロに近づけたのです。他の国に、そんなマネができるでしょうか。日本は、専門者会議が示した3条件(密室、密集、接触)を避けてくださいという、他国に比べても「かなり緩い要請」が呼びかけられているだけです。感染者の増加ペースが落ちてきた韓国をはじめ、あまり感染者の増えていないシンガポールや台湾は、日本より厳しい規制がかかっています。それでも、感染者増を防げているわけではありません
NHKスペシャルでも「これまでは運がよかった。これからもこの幸運が続くということは、まずない」と言っていました。イベントについても自粛"要請"だけで法的な規制がなされていませんから、弾数の分からないロシアンルーレットをまわしているようなものです。そんなに長く幸運が続くとは思えませんが、続いたとしても新型コロナへの対策のピークがずっと先になるだけで、収束(あるいは終息)するまでには何か月、あるいは何年も続くことになります。東京オリンピックの1年延期が決まりましたが、1年先にすべてが解決している気はまるでしません

covid19graph.png

そして、もし日本で自粛要請を解除したら、ヨーロッパの後を追うことになるでしょう。医大入試の男女差別の理由が「女性には過重労働させられないから」だったことを思い出してください。過労死ラインが残業月80時間と言われているのに、厚生労働省医者の残業時間を月155時間に"抑えましょう"と言っているくらいなのです。日本の医療制度に、そんなに余裕はありません
インフルエンザのように1000万人が感染したら致死率2%としても20万人が死亡します。とめる方法がないのですから、もっと悪化するかもしれませんし、そうなったらそもそも医療が追い付かず致死率は上がるでしょう。
日本は感染者が見つかるのは早かったものの、早くから自粛を要請して多くのイベントがしたがったおかげで感染の広がるペースは欧米ほどではありません。他国を実験台にするということではありませんが、このまま推移できれば、他国のようすから今後の方向を決めることができるでしょう。わざわざ率先して感染爆発を引き起こすようなことはすべきではないのです。

※2020/4/5追記。
アメリカCDCによる情報
先日、テレビで村中璃子氏がCDCによる致死率を紹介されていましたが、その元情報がありましたので、ご紹介します。
"Severe Outcomes Among Patients with Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) -- United States, February 12-March 16, 2020"
コロナウイルス2019(COVID-19)患者に関する深刻な結果)
2/12~3/16の間にCDCに報告された4226の症例を分析したもので、このうち年齢が分かっている2449人をまとめた一覧表が最後に掲載されています。こちらに引用します。

年齢 入院 集中治療室 死亡
0~19歳(123例) 1.6~2.5% 0% 0%
20~44歳(705例) 14.3~20.8% 2.0~4.2% 0.1~0.2%
45~54歳(429例) 21.2~28.3% 5.4~10.4% 0.5~0.8%
55~64歳(429例) 20.5~30.1% 4.7~11.2% 1.4~2.6%
65~74歳(409例) 28.6~43.5% 8.2~18.8% 2.7~4.9%
75~84歳(210例) 30.5~58.7% 10.5~31.0% 4.3~10.5%
85歳以上(144例) 31.3~70.3% 6.3~29.0% 10.4~27.3%
合計(2449例) 20.7~31.4% 4.9~11.5% 1.8~3.4%

※範囲の下限は現時点でのそれぞれの人数による、上限はそれぞれの状態を含む(?)値。
※2020/4/8追記。「入院」項目の20歳以上の数値が「集中治療室」の値と同じになっていました。お詫びして訂正します。

念のために、コメント欄でも引用した厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第1版」(PDF)という資料p.6にある「中国での新型コロナウイルス感染症患者44672人の患者データより」の致死率データも引用します。

年齢 死亡
0~9歳 0%
10~19歳 0.2%
20~29歳 0.2%
30~39歳 0.2%
40~49歳 0.4%
50~59歳 1.3%
60~69歳 3.6%
70~79歳 8.0%
80歳以上 14.8%
合計 2.3%

 

CDCのデータに幅があるものの、致死率については中国のデータとあまり変わりません。年齢が若いほど致死率は低く、高齢者の致死率は高くなっています。しかし、CDCのデータで注目すべきは「集中治療室」の値です。つまり、この比率は人工呼吸器やECMOと呼ばれる人工心肺が使われるケースです。どちらがどれくらい使われているかは分かりませんが(人工心肺は、本来一時的に使うもので、医者が交代で24時間付きっきりになります)、多くが人工呼吸器だとしても、この時点で後遺症の心配をしなければならないような状態です。
すでに上記で触れましたが、若者の致死率が低いといっても0.2%というのは「500回に1回死亡事故を起こすような乗り物、怖くて乗れませんよね」(山中伸弥氏)というレベルです。しかし、最低でも2.0%の確率で集中治療室に入る(人工心肺を使われるほど悪化する)ということは「50回に1回は後遺症が残るかもしれない大事故を起こす乗り物」ということになります。これが「若者」に対する数値です。「500人に1人が死ぬだけで499人はなんともない」というものではありません。
多数の感染者を出しているニューヨーク州のクオモ知事が「数万の人工呼吸器が必要」と訴えていました。現時点で1万人に8人"しか"感染していないアメリカで、すでに重症/重体の患者が5787人います。集団免疫を狙って何"割"というレベルで感染者が増えたら、その何百倍もの重症/重体患者が生まれることになります。人工心肺が足りなくなれば、この人たちも「死者」になってしまうでしょう。
それでもなお「インフルエンザでも人は死ぬ」と同じように考えられる人がいるのでしょうか。

 

 

 

新型コロナ: イベントを補償なしで中止するために

※2020/7/4更新。オルタナティブブログはコメント機能が無効化/非表示になりました→過去コメント

※2020/4/2追記。「新型コロナ: お詫びとお願い」という記事を書きました。(こちらにもリンクを追加します)

■検査原理主義
今回も、前振りから。
新型コロナの感染者が発見されたクルーズ船「グランド・プリンセス」はオークランド港に入港し、カリフォルニア住民はトラビス空軍基地に隔離されていましたが、San Francisco Chronicle紙はこのように報じました

"Even as positive coronavirus test results came back and other tests had not been returned, Gov. Gavin Newsom approved releasing Grand Princess cruise passengers from California back to their homes over the weekend, days before their 14-day quarantines at Travis Air Force Base were scheduled to end, a source close to the situation told The Chronicle."

コロナウイルスで陽性の結果が返されて他の検査結果が戻っていないとしても、グランド・プリンセス号の乗客は14日間の検疫期間が終わる前の週末に自宅に戻ることがギャビン・ニューサム知事によって許可された、と情報筋により本紙に伝えられました。」

症状がある人は入院しているのかもしれませんが、症状が出ていない人について、そこまで厳密に隔離しようとはしなくなっているようです。「下船前に全員検査する」と言っていたペンス副大統領は、今ではこう言っています

"If you don't have symptoms, don't do a test. It is another way that the American people can make sure that we are preserving the resources that our healthcare workers need to administer and support those who are dealing with the #coronavirus."

症状がなければ検査しないでください。それが、アメリカ国民がコロナウイルスに対処している医療従事者に必要な管理と支援のリソースの保護を確実にするための一つの手段です。」

イギリスのボリス・ジョンソン首相は、「自宅にいて、命を救う人々を守ろう」という、ツイートをRTしていました。

大量に検査を実施しているドイツは、比較的死者数が少ないと言われてきましたが、この記事によれば「Keine Tests bei Verstorbenen(検査されない死亡者)」という項目で、次のように記載されています。

"Eine andere Erklärung könnte italienischen Experten zufolge sein, dass in Deutschland im Allgemeinen keine Post-mortem-Tests vorgenommen werden. Wenn ein Mensch demnach in Quarantäne sterbe, ohne in ein Krankenhaus eingeliefert worden zu sein, tauche er mit hoher Wahrscheinlichkeit in der Statistik der Corona-Todesfälle gar nicht auf, ..."

「イタリアの専門家によれば、一般的にドイツでは死後の検査は行われません。このため、入院せずに検疫で死亡した場合は、コロナウイルスの統計に含まれることはほとんどありません...」

ドイツは人口の76%が60歳未満ですが、3/23付けの資料では感染者の82%を占めています。ドイツではスクリーニング(事前の選抜)をせずに大量の検査をしているそうですが(3/15時点で16.7万件)、若者の方が積極的に検査しているということではないでしょうか。そもそも大量検査は偽陽性の人数も増やします。3/15時点で少なくとも1%の偽陽性がいるとすれば1670人で、この日までの感染者数(3795人)に比べて無視できる人数とは言えません。
ドイツは感染者数に対する死者数が比較的少なく(3/24現在で感染者29056人、死亡者123人、単純計算で致死率0.4%)、大量検査と医療制度によって致死率が抑えられているかのように見えたのですが、高齢者を検査せず、死因すら調べもせず、分母なる感染者数には感染していない偽陽性が大量に混じっている、これでは安心できません。
韓国も大量検査を実施している国ですが、それによって感染を抑え込めているわけではありません。
※2020/3/28追記。韓国の "Active Cases" はピークアウトしていました→「新型コロナ: 日本が韓国に大敗北する日」参照。
ただし、大量検査によって偽陽性も含め感染者数が割り増されることには効用があることにも気づきました。それは「感染者数が水増しされることで社会に対する規制を正当化できる」ということです。
現在、ドイツも韓国も社会活動を大幅に規制しています。(在デュッセルドルフ日本国総領事館ノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州内における新型コロナ・ウィルス感染状況について」、Yahoo!感染対策に「緩い日本」! 「キツイ韓国」! 日本は自主判断、韓国は半ば強制!」)
日本で感染者がそれほど増えなかったのは、感染者数が少ないころからイベントの自粛や一斉休校を要請したからだと書きましたが、今では世界の方がより強く規制されています。三連休に人出が多かったとか、大規模イベントが開催されたとか、聖火に何万人も集まったという「気の緩み」を感じる報道がありましたが、今後の感染の広がりが懸念されます。
検査原理主義の人たちは、これからは「数が水増しされなくて危険性が認知されなかった、と言いたかったんだ」と言い訳してください。

■イベントと補償
さて、イベントの自粛が"要請"されているのに何も補償がない、本気でやめてほしければ政府が補償しろ、という意見があちこちで聞かれます。

「ば~~~~っかじゃねぇの!?」(©ハルパゴス)

どこまで補償するのでしょうか。払い戻すチケット代でしょうか、使わなくなった会場費や機材費、出演料を補償するのでしょうか。用意した物販も補償するのでしょうか。イベントや演劇がすべて、入場料だけのビジネスとは限りません。そこに宣伝のための展示や、さらにモノを売る会社があったかもしれません。コミケなんて誰にどういう補償をするのでしょう。印刷した同人誌を買い上げるのでしょうか。自粛要請でまっさきに中止されたPerfumeのライブなんて、そのために"遠征"して宿泊予約していた人もいたでしょう。運営は補償されるけれど、ムダになった宿泊費はどうするんでしょう。
もし、そういう中止した場合に関連するあらゆる費用がすべて補償されるなら、一番やめたいと思っているのは東京オリンピックでしょう。収入の73%を占める放送権料がなければIOCは破綻するかもしれません。その巨額な損失を日本の税金で補償しろというのでしょうか。大きな経済ダメージを受けて税収が減り、医療費の増大が予想され、それが何年続くかもわからないというのに。
「イベントをやめたら破綻する、だからリスクはあってもやめられない」
わかります。現状は法で強制されていないのだから、私が何か企画していたとしても破産すると分かってやめる判断は難しいでしょう。まして多くの人を巻き込んで破綻することなど、容易なことではありません。でも、それは自らのリスクを回避するために社会にリスクを負わせているということです。すでに観光や交通など、新型コロナによって致命的な打撃を受けている業界はあります。そんな中、「イベントを補償しない政府が悪い」と現実的でない非難を浴びせても何も解決しません。頭を冷やしましょう。

■補償なしでイベントを中止させるために
相次ぐキャンセルでイベント(ライブや演劇)が存続の危機にあります。せめてチケット代の払い戻しをしなくてすむようにしましょう。具体的には、今後企画するイベントのチケットは「新型コロナにより自粛の要請が解除されなければ払い戻しなしで中止することがあります」という条件を追加しましょう。もちろん、購入時にはハッキリわかるように表示してください。ゴールデンウィークに予定されているコミケ98はとっくに登録通知が届いているようですが、今からでも規約を変更して、それが嫌だという参加者には"今のうちに"払い戻して、別の参加者を募りましょう。中止になったらコミケ存続の危機に陥るそうです。中止覚悟で申し込みを維持するのもいいでしょう。(消費者庁に文句を言われるでしょうか。お願いです、目をつぶってください)
今年イベントを企画している皆さん、イベントの自粛要請がそんなに早く解除される可能性はないと思います。むしろ、この状況で解除するようなことがあれば安倍首相の資質を疑います。感染が広がれば、いずれ他国のように中止が強制される可能性すらあります。もちろん補償なしで。わずかな望みをつないで企画するのであれば、自粛要請が続く中で開催を強行する、という状況にならないようにしてください。
ニューヨークでは非常事態宣言が出た後も、何日かはブロードウェイの上演が続けられていました。それが理由であるとは分かりませんが、今、アメリカで急増する感染者数(3/24現在での46116人)の半数はニューヨーク州が占めています(同23230人)。

■自粛要請はいつ解除されるか
東京オリンピックはほぼ延期で確定しているようですが、会場問題などを解決すれば1~2年先に開催できると信じている人が多いのは不思議でなりません。インフルエンザの時期は過ぎたのに感染は勢いを強めて広がり続けています。ドイツや韓国が示している通り、大量に検査したところで新型コロナは収束しません。世界の中で収束に向かったのは強権で社会生活を大幅に規制した中国だけです。感染者数があまり増えていないのは(日本以外では)早くから規制をかけたシンガポールや台湾くらいですが、それでも患者が増加するのを避けられているわけではありません。
社会生活を規制する以外に感染を防ぐ方法は見つかっていないのです。今、判明している感染者数は38万人"しか"いません。世界人口のたった1万分の1以下です。感染を防止するワクチンが実用化されるまでに1年以上かかると言われていますし、そもそもできるという保証はありません。感染のペースを抑えたとしても止められなければ感染が広がり続けるのです。治療薬があっても治療が追い付かなければ感染を防ぐしかありません。そして感染のペースを抑えられたとしても、何か月、あるいは何年もかけて広がり続けるということです。NHKスペシャルによれば、「日本は運がよかった」だけで、いつかは感染爆発が起きます。もともと医者の過重労働によって支えられていた日本の保険医療は破綻するでしょう。
また、中国でも武漢封鎖からはじめて増加が減少に転じるまでに2週間、2桁増になるまでには1カ月半かかっています。中国ほどの規制がかけられない国ではもっと時間がかかるでしょう。対策の見通しが分かってから実際に収束(あるいは終息)するまでに何か月もかかるでしょうし、医療制度や経済を立て直すのにも時間がかかるでしょう。
新型コロナ以前の日常が取り戻せるのは当分先のことです。パラリンピックの出場者は感染が命にかかわるリスクになるそうです(そうでなくても致死率は低くありません)。どうしてこんな状態で自粛要請が解除されると期待できるのでしょうか。社会生活を規制したままオリンピックだけを開催するのでしょうか。