非常時には声を掛け合おう


東北地方太平洋沖地震から1週間が経った。大勢の犠牲者の方々には心からご冥福をお祈りするとともに、今なお過酷な避難生活を余儀なくされている被災者の方々が一刻も早く通常の生活に戻れることを願っている。すでに、地震津波原発の問題については、さまざまなことが語られているし、どれほどの時間がかかろうとも、日本は、この危機を乗り越えていくだろう。だから、ここでは地震当日の私自身の日記代わりに、だらだらと書いてみる。

地震当日

当日の朝、私は小用で品川に行き、その夜には大手町でブロガーミーティングがあったため、空いた時間をどうしようかと思っていた。久しぶりに秋葉原を回ろうかとも思ったのだが、1月下旬からダイエットのため時折スイミングに通っていたのを1週間くらいサボっていたので、立川のプールに向かうことにした(結果としては、これが幸いした)。

2000mを泳いで、さらに50mというところで地震が来た。最初は隣の人が泳いでいる勢いかと思ったが、すぐにそれどころではない波になり、プールから上がった。映画の特撮かのようにプールの水がざばんざばんとあふれかえっていた。「ガラスから離れたところに座ってください」と指示していたメガロスプラシアの指導員の対応は落ち着いていたと思う。電車が止まったというアナウンスがあり、落ち着くまで待とうとその場にとどまっていた人も多かったが、私は家族や自宅が心配だったので、そそくさと帰ることにした。

タクシーの行列

もっとも中央線は止まっている。すぐにタクシーに並ぼうかと思ったがかなりの人数が行列を作っていたので、バスがないかと路線を見てみた*1。だが、自宅近くまで行くものもなさそうだ。もはやタクシーしかない。まあ、並んでいればそのうち帰れるだろうと思ったが、甘かった。なかなかタクシーが来ない。まあ、それでも早く決断できた方で、私が並んだ20分後には、最後尾が見えないくらいに行列が長くなっていた。いくら待っても5分に1台しかタクシーが来ない。しかも段々間隔があくようになった。あと20人くらいのときに、先頭に並んでいた女性が声を後ろの方に向かって、声をかけた。「〇〇方面に向かう方はいらっしゃいませんか? 相乗りしましょう

言い訳のようだが、自分の番が来たらそうするつもりだった。かつて中央線が止まって京王線が案内されたときにもそうしたことがあった。それまでは1人あるいは1家族だけで乗り込んでいたが、その人のおかげで早く相乗りが進むようになった。それでも私の順番になるまでさらに2時間くらいかかったのだが、相乗りがなければ、もっと待たされたことだろう。私は、別の場所で下りる他の3人(一人は赤ん坊を抱っこしていたお母さん)と相乗りすることになった。おかげで後ろに並んでいた人は最大でタクシー3台分待ち時間が短くなったはずだ。

日本人の横並び意識

日本人の横並び意識が強く、率先して行動したがらないと否定的に受け取られることが多い。だが、最初の女性は「こういうときですから、みなさん積極的に相乗りしましょう」と声をかけ、みな、それにならって相乗りする相手を探し始めるようになった。良いと分かっていても気恥ずかしくてできないことが、誰かが始めると自分もやれるというのは、横並び意識のよい面だと思う。

地震の後、「日本人の素晴らしい面」が盛んに取り上げられている。これは、たんに素晴らしい出来事があったというだけでなく、素晴らしい出来事があると“私もそうしよう”という横並び意識が働くことを期待できるという面があるのではないだろうか。別に外国だからといって自然災害のときに誰もが略奪をはじめるわけではないだろう。あるいは、日本では災害の後、すぐ救援物資が届くだろうという期待*2があるかもしれないし、自分だけが略奪することへの負い目もあるだろう。

もちろん、すべての人が善人なわけではない。火事場泥棒に遭った人もいるようだし、原発の避難地域は防犯上の不安を感じざるを得ない。救援物資が届かず生きるために必死にならざるを得ないこともあるだろう。それでも、「悪行がはびこっている」という噂が広まって、マイナスの横並び意識が働いてしまうことを私はおそれる。赤信号も皆で渡れば怖くなくなってしまうのだ。それは、社会秩序を崩壊させることになりかねない。

今は、そうはなっていないと思う。すでに各地での助け合い精神や大幅な節電効果など、多くの人が協力しあって日本を立て直そうとしている。原発の問題も、被災地の問題も、結果的にベストな選択でなかったものはあるかもしれないが、現場はその時点のベストを尽くしているのだと信じる*3。そして、そうした意識こそが、日本を素早く立ち直らせることにつながるだろうと信じる*4

今から思えば、タクシーを待っている間にできることがもっとあっただろう。だが、非常時には声を掛け合うことで良い方向で横並び意識を作用させられる。こんな災害は二度とごめんだが、同じ状況に陥ることがあったら、より積極的に声をかけていこうと思う。

*1:このわずかな時間が、後々の大きな時間になってしまった。

*2:残念ながら、今回は陸路が寸断されていて、それ自体が容易なことでなくなっているようだが。

*3:もっとも記者会見の質疑応答に嫌気がさしたのは私だけではないと思うけれど。

*4:おそらく、それは経済的に低コストで再建する手段でもあるだろう。