「いいじゃねぇか、減るもんじゃねぇんだし」

第一幕

街角で言い争う男と女。

男「いいから付き合えよ。どうせ暇なんだろ?」
女「やめてよ。」
男「なんでだよ。俺と付き合えば、すげぇビッグになれるぜ。ほら、この前話題になったS、知ってるだろ。あいつだって、俺のおかげで超人気者になってんだぜ。」
女「Sさんが人気者なのは、あんたと知り合う前からでしょ。」
男「そうじゃねぇよ。俺があいつをビッグにしたんだよ。」
女「逆でしょ。あなたがSさんのおかげで少し有名になれたってだけじゃないの? みんなはSさんのことは知ってても、あんたのこと知ってる人なんてほんの一握りじゃない。」
男「わかってねぇな。俺と付き合いたいって言う奴は他にもゴマンといるんだぜ? 俺がどんどんビッグになっていくってことだよ。」
女「だったら他の人と付き合えばいいじゃないの。あなたみたいな口先ばかりの人と付き合う理由なんて私にはないわ。」
男「だからおめぇとも付き合ってやろうって親切に言ってるんだよ。嫌がることねぇだろ。」
女「はっきり言わせてもらうけど、あなたにそう言われて酷い目に遭ったって人を何人も知ってるんだからね。」
男「誰のことだよ。力もないくせに、そうやって文句言う奴は多いんだよ。」
女「あら、じゃあどうして他の人たちにも声をかけてるわけ? 別にあたしのことを売り込んでくれるつもりなんかないんでしょ。何もせずに上がりをピンハネしたいだけじゃないの?」
男「わかってねぇな。俺の取り分なんてちょっとだよ。残りはみんな渡してるんだから。嘘だと思うんなら、聞いてみなよ。」
女「聞いてるわよ。みんな“こんなハシタ金で偉そうにされて迷惑だ”って言ってるわ。」
男「だから力のねぇ奴の話だろ、それは。そんなクズの話聞いてたら、お前もクズの仲間入りだぜ。」
女「声をかけるときは持ち上げておいて、上りが少なかったらクズ呼ばわりするなんて、ホント酷い人だわ。」
男「ごちゃごちゃ言ってねぇでさ。こっちこいよ。いいじゃねぇか、減るもんじゃねぇんだし。」
女「そういう考えがおかしいのよ。あなたと付き合ったおかげで、安っぽいだのケチだのと文句ばかり言われるようになったって人、いっぱいいるんだから。」
男「それはケチな奴がケチって言われてるだけだろ? 俺は正直者だからさ、嘘やごまかしはしないんだよ。」
女「逃げてるだけでしょ。デマカセ言われても、ほったらかしにしてるくせに。」
男「それだけ俺が大勢を相手にしてるってことだよ。ちょっと文句がついたくらいで、いちいちかまっちゃいられないさ。」
女「そんな頼りない人、願い下げだわ。私は、もっと頼れる人を探すんだからほっといて。」
男「別に、俺は二股かけられたって平気だよ。お前の自由を縛ろうなんて思っちゃいないさ。ほんと顔貸してくれるだけで後は何もしなくていいんだから。損はないだろ?」
女「あなたは女ってものが何もわかっちゃいないのね。“この人だ”と信じられる人がいたら、私だってその人の期待に応えようと努力するわ。だから女が磨けるってものよ。“何もしなくていい”なんていう人とうまくやっていけるはずがないわ。」
男「頑固な女だな。今はそんな石頭が受ける時代じゃないんだぜ。」
女「石頭でけっこうよ。私は私の思うように生きるんだから。それとね。」
男「なんだ。」
女「あなた、この前から私のまわりをつきまとってたでしょ。黙って写真撮ったり、いったいどうしようっての?」
男「べっ、別に、そんなのは俺の勝手だろ。俺が自分のためにしてることさ。何しようってわけじゃないよ。」
女「すっごく迷惑なの、やめてくれる。」
男「どんな迷惑だよ。別に家に押し入ったわけじゃないし、外を出歩いてるとこだけだろ? なんかそれをダメだって法律があるのかよ。嫌なら外に出るなよ。」
女「法律なんて知らないわ。それに、あなた法律がなければ相手の気持ちなんて考えないってこと? あたしが、そんな人についていくと本気で思ってるの?」
男「何言ってんだよ。俺はお前のためを思って言ってるんじゃないか。」
女「そんな態度で“私のため”なんて言って信じられるわけないじゃない。自分勝手もいい加減にしてよね。もう話すことはないわ。」
男「ばかやろー、後悔したって知らねぇからな。」

女は最後の言葉を背中で聞きながら立ち去る。

第二幕

街角で言い争うインターネットとコンテンツ。

(以下、略)