劇場版『ガールズ&パンツァー』評・追記【ネタバレあり】

このガルパン評では「面白さがあんまり伝わってこない」という指摘をいただいたので、少し追記。繰り返すが【ネタバレあり】だ、念のため。

本作品を「“萌え”と“戦車”という、いかにも“男子”が好きそうな組み合わせ」と書いたが、「萌えキャラ」と「戦争」という組み合わせとしては、たとえば「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」というアニメがあった。これは戦争“ごっこ”ではなく、戦闘を楽しむというものでもない。どんな戦いでも死んだりケガしたりしない(ケガの心配はする)という前提で楽しめる『ガールズ&パンツァー』とは違う次元のものだ。

リアリティのある戦車

ガールズ&パンツァー』の特筆すべき特徴は、まず“戦車”だ。外側も内側も実際の戦車を正確にモデリングしているとか、砲撃音をちゃんとサンプリングしてるというレベルじゃない。本物の形状のキャタピラーが動くのだ。ガンタンクキャタピラーが、ただの板をつなげただけだったのに比べたら格段の進歩だ(←いつの話だ)。しかも、ちゃんと“たるみ”がある。あくまでアニメ画であって実写っぽいわけではないのだが、そこに“リアリティ”が感じられるのだ。

CG技術の進歩と言ってしまえばそれまでだが、そこには相当な労力が投じられたに違いない。むしろ戦車の表現に実用のメドが立ったからこそ企画されたアニメかもしれない。本放送時に最終2話の制作が3カ月遅れ、そのことにより格段に戦車戦の描写がカッコよくなっているのは、戦車のCG制作に相当の手間をかけたからだろう。

劇場版では、さらなる物量が投じられている。エキシビジョンでも九七式中戦車を擁した知波単学園を加えて2校対2校で多数の戦車を使っているが、本戦では30両対30両という凄い戦いになっている。それらの戦車が、それこそ飛んだり跳ねたりして戦う姿にはすっかり引き込まれてしまう。とくに継続高校のBT-42が飛び跳ねたときのキャタピラーの波打ち方がハンパではない。これはどんな計算式で揺らしているのだろう、ただの物理エンジンじゃない作為的な演出があるに違いない、と思ってしまうのだ。転がってくる“でっかいもの”や、車長位置での視点など、戦車戦の迫力を増すのに役立っている。そりゃ2年かかるわけだよ。

劇場版の2時間のうち、後半の約1時間が本戦だが、そこでは1両たりとも“無駄に”撃破されているものはない。あっさり撃破されるものはあるが、それは「あっさり撃破される」ことに意味があるからだ。テレビシリーズもそうだったが、設定はデタラメでも戦車の動きやキャラの描写は実に綿密なのだ。大洗学園と大学選抜の対戦を図解したものがあったが、シナリオがいかに練られているかがわかる。

すぐれた群像劇

個々のキャラが立っているのも本作の魅力だ。映画評論家の町山智浩氏が押井守作品について「キャラがみんな同じことを言う。つまり押井守の代弁者でしかない」と評していた。これはこれで極端な論評だと思うが、『ガールズ&パンツァー』は、どのキャラも「そのキャラが言うべきこと」を言っている。他人のセリフを横取りできたりはしないのだ。そしてテレビシリーズでも人数は多かったが、劇場版ではさらに増えている。だから個々のキャラを性格づけるために費やされる時間はわずかだ。それでもなお、一人一人の役割が明確に分かれている。

ここで引き合いに出すのは申し訳ないが、青春群像劇として売り出されていた「心が叫びたがってるんだ。」は全然群像劇っぽくなかった。主役の4人(+教師)以外は、どうみてもモブだった。もちろん、『ガールズ&パンツァー』にはテレビシリーズという背景を利用している面はあるが、そうしたキャラ分けができているからこそ、好きなキャラに感情移入できるというものだ。

その意味ではテレビシリーズでは脇役だったキャラが活躍していたのも興味深いところだ。サンダースで盗聴していたアリサもそれらしい演出があったし、ガムを噛んでニヒルを気取っているナオミは『プライベート・ライアン』の優秀な狙撃手(ダニエル・ジャクソン)を思い起こすほどだった。本戦序盤のプラウダのクラーラとノンナ、ニーナもよかった。黒森峰の逸見エリカ(副隊長)は、テレビシリーズでは妹を思いやる西住まほとの対比で嫌味な役回りばかりだったが、まほから「頼んだぞ」と言われて嬉々として「はい!」と答えていた。性格はともかく、ちゃんと実力があっての副隊長であり、まほからも技術面で信頼されていることがわかるいいシーンだ。西住しほ(母)が学園の存続に働きかけるというのもいい展開だった。ところで民族楽器を弾いてた継続高校のミカ、働けよ。「右になんとか!」って叫んだところしか覚えてないぞ。

ツッコミ

これも【ネタバレ】だが、一応ツッコミも入れておこう。本戦の冒頭、他校から応援に来るとき、どんな戦車が追加されるかが電光掲示板に追加されていくシーンがある。すべての戦車の一覧が見られるってことなら、後から登場するアレは、そこにリストアップされているんじゃないの?(そりゃ演出的には隠していた方が面白いだろうけど)

あと、サンダースがスーパーギャラクシーで運んでいった戦車だが、あっという間に返しに来た。普段どうやって学園艦から戦車を降ろしているのかわからないが、これならこっそりどこかに運んじゃえばよかったんじゃないだろうか。ほとんど“溜め”がなくて、拍子抜けした。ただ、かなりカットして「2時間に収めた」らしいから、実はここにはもう少し長い展開があったんじゃないだろうか、という気がしてる。

まとめ

いいから観ろ。