劇場版『ガールズ&パンツァー』評【ネタバレあり】

はじめに

奇跡の分割1クール」という画期的な構成で好評を博したテレビシリーズから2年、これほど期待を裏切らないことが“確信”できた劇場版はない。それほどの期待が水島務監督にはあった。実のところ、アニメを見始めたときの最初の水島作品が「BLOOD-C」で、これは“合わない”ものだったから、つまんない作品を作る監督なのかと思ってた。主役の声優、水樹奈々さんが、どんだけ歌下手なんだ、とも思った(ゴメンナサイ)。だが、水島作品を見てみると合う合わないを別にすれば、水島作品はたいてい面白い。そして、本作品も期待が裏切られることはなかった。

テレビシリーズの本放送時に3カ月遅れとなったテレビシリーズの最終2話は、おそらく売上的な成功予測の元に相当の労力が費やされたすばらしい作品となった。OVAを挟んで制作された劇場版にもコスト的な制約はなかっただろう。テレビシリーズが気に入った人には、間違いなくお勧めできる逸品である。

許しがたい設定

ガールズ&パンツァー』は“萌え”と“戦車”という、いかにも“男子”が好きそうな、しかしまったくかけ離れた要素を組み合わせるという突拍子もない作品だ。テレビシリーズの頃から、理解しがたい設定はあった。フィクションといっても限界があるよ、と思っていた。いくらストーリーがうまくても「ご都合主義の不条理」は気になる方だ。だいたい、フィクションではあっても、サイエンス・フィクションではない(はずだ)。だから、現実と同じ物理法則にしたがうし、社会の仕組みも(あまり)変わらない。だが、本作品には現実離れした設定が多い。

特殊なカーボンで守られた戦車の安全性

本作品に登場する戦車は特殊なカーボンで車内の安全が確保されている(ことになっている)。だが、戦車の“車体”をどれだけ頑丈にしても、それは戦車自身が壊れにくいだけで、乗員が安全になるわけがない。本作品では戦車が高いところから落ちたり、ひっくり返ったりするだけじゃなく、西住みほをはじめ戦車から上半身を乗り出している車長も多い。でも、これはフィクションだ。どんな砲弾が当たっても命の危険はない。それどころか、ケガひとつしない。せいぜいメガネのレンズが割れるくらいだ。(現実にはありえない)透明な防具を付けて戦うフェンシングのようなものだ。

そして、だからこそ戦車道という“スポーツ”だと言い切れるのだ。実弾を撃ちあうし、今生の別れを示すかのようなシーンはあるが、誰も死んだりしない。これは戦争ではなく戦車ゴッコなのだ。ここがテレビシリーズから続くガルパンのキモでもある。テレビシリーズを見ているときも、「今の絶対死ぬだろw」とツッコミながら見ていたが、「何があっても死なない」という暗黙の了解があるからこそ娯楽作品として楽しめる。水島作品の『SHIROBAKO』には「カッコよく嘘をつく」という言葉が出てくるが、これこそがガルパンの一番“カッコいい嘘”だと思う。

戦車戦として使われる街

本作品にはしばしば大洗町が戦場(戦車戦の舞台)として使われる。作品中では、砲弾などで破壊された建物は公費で修復されることになっていて、破壊されると公費で修復・新築で新しくしてもらえるため“喜ばしいこと”とされている。そんなわけあるか! たとえ自衛隊の演習でも、セットの街すら作ったりしないだろう。それが高々高校生の“スポーツ”のために現実の街を提供できるわけがない。“女性のたしなみ”ごとき一戦に何百億という公費が投じられるというのだ。税金の無駄遣いにも程がある。

だが、ウルトラマンだって何度も街が破壊されたのに、すぐに復活していたのではなかったか。あれだってセットを作る人は大変だっただろうというフィクションなのだ。現実的な予算効率なんて考えなくていいのだ。いや考えてはいけない。

公道を走る戦車を運転(操縦)する17歳

あんこうチームの操縦手、冷泉麻子は2年生(誕生日後でも17歳)のはずだから公道を走る免許は取れないんじゃないか?と思っていたが、劇場版では小学生とも思われる西住まほが田舎道を走るのに戦車を操縦していた。どこの国の話だよ。でも、ナウシカだってメーヴェを飛ばすのに自家用操縦士の免許なんて取っていなかったはずだ。

廃校

得体のしれない私学ならともかく、文部科学省が「予算」を理由として廃校を決めて生徒を転向させるとか、ないよ。新入生の募集をやめて、在校生が卒業するまでは現状維持が妥当なところだろう。少し後に放送された「ラブライブ!」もそうだけど、廃校っていじりやすいネタなんだろうか。

まあ、こうした「許しがたい設定」も、本編の勢いですべてチャラになってしまうんだから、すごいよね。ただ、映画冒頭の「3分ちょっとでわかる!!ガールズ&パンツァー」は無理があると思う。あれでテレビシリーズがわかるんか?

シネマシティの爆音上映

シネマシティではシネマシティズンという会員になることで、一般の人より1日早く予約できるのと、平日1,000円・休日1,300円という値段で見られるのがいい。20分前まで無料で予約を削除できるというのも気軽に予約できる点で魅力だ。こういう映画館が徒歩圏(というわけではないが、片道1時間ちょっと)にあるのは、大変うれしい。そして「マッドマックス 怒りのデスロード」のときに導入したというサブウーファーを使った爆音上映が人気だ。

初日の舞台挨拶こそWALD9で観たが(シネマシティは選択肢になかった)、あとの5回は立川シネマシティで観た。特典目当てに前売券を4枚購入していたが、そのため予約が1日遅れになり、端っこか後ろの方ばかりだったので、1回ぐらいは前列中央で観ようと思って5回になった。これまで「マッドマックス」「進撃の巨人」「キングスマン」「007 スペクター」あたりを爆音上映で観てきたが、「ガールズ&パンツァー」ほど爆音上映に合った映画はないと思う。何しろ2時間のうち前半30分、後半1時間がドッカンドッカンやってる戦車戦なのだ。予約の埋まり具合を見ていても凄い。最近封切られた「スターウォーズ」でさえ、a studio の座をガルパンに譲ったくらいだ(1日1回のみスターウォーズ、残りはガルパン)。いずれ出る blu-ray を買っても、自宅でこの感覚は得られない。