「若者は“テレビ離れ”していない」(CNet)のエントリに対するはてブのコメントを見ると、調査そのものに対する批判が多いようだ(切込隊長まで「ガセネタの域」と評している)。元は「M1F1総研」という機関が発表したもので、その調査資料(PDF)も参照できる。まあ、「電通とリクルートが出資している会社の調査結果なんて恣意的な結果に決まっている」という批判はもっともだと思うのだが、結果を見る限り、調査としての体裁は整えているように思う。実際、ちゃんと調査方法として、ヤフーバリューインサイト(株)のパネル会員が対象としたインターネット調査だと書かれている(本来なら対象者を何らかの名簿で無作為抽出するのがベストだと思うが、そういう調査はコストがかかるものだ)。
むしろ気になるのは、出てきた数字ではなく、その数字に付けられているコメントであろう。いかにもテレビは「M1*1・F1*2」に人気があり、宣伝効果があるので活用してほしいという(出資者好みの)結論を導こうとしているように見えるのだが、事実として出ている数字からは別の読み取り方もできる。たとえば、「M1・F1は、M2*3・F2*4よりテレビ好き」とあるのだが、それは「この世代の収入が少ないので、テレビのようにお金のかからない娯楽への依存度が高いだけ」かもしれない。そうであれば、必ずしも「テレビが見られているので宣伝効果がある」ということだとも言えない。
ついでに言えば、冒頭ではNHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」が引用されているのだが、これは5年に一度の調査であって、しかも最後の調査は2005年だから5年前のものである*5。今の参考にするには、少し古いのではないだろうか。NHK放送文化研究所は、より頻繁に個人視聴率調査(これは住民基本台帳からの無作為抽出)をやっていて、テレビの視聴時間(1日あたりの平均値)だけ抜き出すと以下の通りになる。
調査時期 | 視聴時間 |
---|---|
2004年4月 | 3時間59分 |
2004年6月 | 3時間55分 |
2004年9月 | 4時間11分 |
2004年11月 | 4時間1分 |
2005年2月 | 4時間12分 |
2005年4月 | 4時間1分 |
2005年6月 | 3時間43分 |
2005年9月 | 4時間10分 |
2005年11月 | 4時間1分 |
2006年4月 | 3時間56分 |
2006年6月 | 3時間43分 |
2006年11月 | 3時間58分 |
2007年6月 | 3時間38分 |
2007年11月 | 3時間53分 |
2008年6月 | 3時間45分 |
2008年11月 | 3時間51分 |
2009年6月 | 3時間43分 |
2009年11月 | 3時間55分 |
この手の平均値は、たいていお年寄りがぐっと上げていたりするのだけれど(この調査に世代別の数字はないが)、少なくともテレビは見られ続けているのである。
一方、YouTube に代表される動画共有サイト*6の状況については、ビデオリサーチが調査結果を公開している。それによれば、年間で約3200万人の人が平均12時間22分視聴している。テレビ視聴率と違い、元々ネットで動画を見ていない人は対象になっていないのだが、これを日本の人口(約1.27億人)をベースに計算しなおすと「ひとりあたり年間で3時間5分」しか見ていないことになる*7。テレビの1日当たりの視聴時間よりも少ないのだ。「たかがネットのために、わざわざ二次使用の権利処理などやっていられない」という話も聞くが、それを裏付けるようなデータである。
「もはやテレビ番組はネットで見る時代」などという人は、こうした数字を見ていないか、見ているとしたら故意に無視しているのだろう。では、なぜテレビが広告収入の落ち込みに悩んでいるかというと、調査データを調べるまでもなく、不景気で企業が広告支出を抑えているからだ。気前のいい広告主が減って、消費者金融やらパチンコといったバブル時代のテレビ局だったら「遠慮してもらっていた」業種に依存せざるをえなくなっているのだ。決して「テレビ離れが進んでいる」のではない。実際、広告の減少はネット企業にも厳しいインパクトを与えている。
もともと、はてブでバリバリコメントを書いているような人たちが「テレビ離れ」を言ってみても、「そりゃそうだろうね」という程度の“限定的な属性”によるもの(または「俺ソース」)であって、世間がそのような時代になっているという程の根拠はないのである。